マネジメント

 戦後、キャラメルメーカーとして出発したカルビーは、1960年代までアメの売り上げが6割を占めていた。しかし65年、そのアメの販売をやめてしまう。過当競争市場だったためだ。逆に経営資源を集中したのが、当時、4割の売り上げを占めていたあられ。あられは中堅メーカーが多く、「勝てる」と判断したのだ。その後「かっぱえびせん」や「ポテトチップス」など次々に大ヒット商品を生み出し、現在の基盤を作ってきた。“変わる”ことによって成長してきたカルビーの強さの秘密に迫る。文=榎本正義 Photo=佐藤元樹

8年間で売上高はほぼ倍増

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いとう・しゅうじ 1957年福島県生まれ。79年法政大学経営学部卒業。同年カルビー入社。99年関東事業部長、2001年執行役員、04年取締役執行役員、05年取締役常務執行役員、09年6月代表取締役社長就任。

 人口減と高齢化による市場の成熟化に直面している食品業界は、低成長に喘ぐ日本の産業の典型だ。「かっぱえびせん」や「ポテトチップス」、「Jagabee(じゃがビー)」といったおなじみの製品を持ち、スナック菓子市場でトップシェアを誇るカルビーもそんな企業の一つだった。

 だが、2017年3月期決算は、売上高2524億2千万円(前期比2.6%増)、経常利益は286億2500万円(同7.8%増)と、共に過去最高を更新。一時は台風の影響による国産じゃがいもの原材料不足で一部のポテトチップスの出荷が停止されたこともあり、決算への影響が懸念されたが、予想に反して決算内容は良好で、8期連続増収増益を達成した。この8年間で売上高はほぼ倍増、営業利益においては3倍以上で、食品という成熟市場では群を抜く成長企業となった。

 トップシェアだが低利益率の成熟企業を成長企業に変えたのは、ジョンソン&ジョンソン日本法人社長から創業家に招聘されて09年6月会長兼CEOに就任した松本晃氏と、同時に生え抜きとして社長兼COOに就任した伊藤秀二氏が共に取り組んできたさまざまな改革による。CEOとCOO、会長と社長の役割分担がうまく機能したのである。

 「当社はもともと持っていた商品や人材、外部へのパフォーマンスなどが上手に発揮できていませんでした。私は社長に就任して以来、それをいかに最大限に引き出すか。常にそのための取り組みを考え、実践してきました。その一つとして『自立的実行力』を身につけようと社内に発信しました。社員に自立的実行力をつけてもらうためには、思い切って会社側も変わる必要がありました。そのキーワードが『簡素化』『透明化』『分権化』でした」と伊藤氏は言う。

 「お客さまからこんなことをしてほしいという要望があっても、以前は現場が自分では判断できないからと会社に戻って所属長に諮り、その所属長は自分では分からないからと本社に諮り、本社は全国の担当に聞いて、こんなことをやりたいと言ってきたがどうだろうと話し合ったところ、反対意見が出て、何週間もたってから、やっぱりできませんとお客さまに戻すといったイメージでした(笑)。ただし、分権化を進めるには、そもそも実力がない人にいくら分権しても成果が出るはずはないし、売れる商品を持っていなければ結果が伴うはずもありません。何か新しいことを教えるわけではなく進んでこられたのは、当社に基礎の力が備わっていたからだと思います」

社内会議は極力減らす一方で現場に出て問題に向き合う

 伊藤氏自身も改革を実践するためまず取り組んだのは、社内会議を減らすことだった。現場から上がってきた問題を持ち寄って社内で会議をしても、報告をするための資料作りが多くなるなど、会議のための会議に陥るケースが多かった。それよりも、外ではどんなことが起きていて、何が要求されているのか。問題は現場にあるのだから、各自の判断で現場で物事を決めていいと約束して分権化した。そこで必要であれば自立的に動きなさい、結果責任は社長である伊藤が負うと。会議が減ったことでできた時間を、伊藤氏は積極的に現場に出ることにした。会議でのコミュニケーションは減ったが、現場で従業員に向き合うことで、かえって関係は密になったという。

 「以前のオーナー家や優秀な経営者たちも、分権化の必要性には気付いていなかったわけではないでしょう。でも、幹部はトップがどう動くかによって判断するという概念をなかなか突破できなかった。今は言い訳ができないところまで分権化しています。例えば、自分のところの部長は自分では決められない、お金を使う権限がないなどと言い訳をすることがあります。でも部長は選んでいいし、お金も使っていいよ、自分が責任を持てる範囲でということにした。そうすると、そこまでしなくてもいいですよと言う人も出てくる(笑)。多少強引であってもスピード感で進めて行くことが必要な場合と、こつこつとやった方がいい場合もありますから、組織として上手に人を配置することで回っていくのです」

 カルビーは人事制度も大幅に変更している。伊藤氏が課長に昇進したのは37歳の時だったが、当時、標準的な課長昇進より1年早かったため、何で1人だけイレギュラーなのかとおおもめにもめたそうだ。大きな組織では、主任を何年やり、試験を受けて一定の成績をあげれば課長になり、といったように、会社全体のバランスを見て客観的な評価によって人事部が決めた昇格ルールがある。だが、カルビーでは任命と育成する責任を上司に付けてしまった。上司は自分が任命して後任にした以上、しっかり仕事ができるよう全力でサポートするし、引き上げてもらった部下もそれに応えようと頑張るという好循環が生まれた。この結果、今では20代でも課長になれるし、30代の部長もいるという。

 もうひとつ、カルビーが力を入れているのが、ダイバーシティへの取り組みだ。伊藤氏は、女性を過度に優遇するのではなく、働いている男女比が6対4なら、その比率で女性でも課長に上がるのが普通だし、そうなっていないのは男性が働きやすい仕組みやルールが出来上がっているからで、そうした暗黙のルールや評価を崩すことを目指してきた。

得意先より顧客への訪問を優先

 「女性の場合、特に家庭を持っていると、自分のことをしたいから、どうやって短時間で成果を上げるかを考えて仕事をします。ところが男性は、上司が残っていたりすると、長時間会社で時間を費やすことが会社への忠誠心だとか美意識のような思い込みがある。その後に一緒にお酒を飲みに行ったりして、結局、何をしていたのかといったことは往々にしてあるでしょう。これは女性を上司にしてみないと分からないことだと思います。今では若くても、あるいは男女に関係なく、チャレンジして成果が出そうな人には管理職になってもらいます。その代わり結果で評価するので、成果が上がらなければ、部長に引き上げたけど外れるといったケースもあります。過去の人事制度のルールを撤廃したことで、女性を管理職にしやすくなりました」

 工場での研修から営業、生産、管理などさまざまな部署を経験してきた伊藤氏だが、今までのキャリアの中で重要なエポックとなったのが、02年から約5年間、消費者部門担当役員になったことだという。広報・お客さま相談室・品質保証室が管轄だった。当時、食品の事故が多く、安全安心に向けた社内体制を作り替えなくてはならなかった。カルビーには品質上問題のある工場が一部にあり、消費者からのクレームが増えていた時期とも重なっていた。ポテトチップスには、発がん性のある化学物質アクリルアミドが含まれているといった報道があったり、外国から病害虫が侵入することを防ぐための植物防疫法で、馬鈴薯がやり玉に上がったりしていた。

 伊藤氏は文系の出身だったが、イモそのものの研究に始まり、栄養学、食品安全、農薬などの見地から、外部の専門家に教えを請う必要に迫られた。それまでのお客さま相談室は、クレームを受ける窓口であり、言わば“処理”だった。そこから180度考え方を変え、クレームを寄せてもらったすべての顧客へ、営業担当者が訪問することにした。得意先より顧客への訪問を優先せよ、というくらいの大きな転換を断行。社内には、どれだけの訪問数になるのかなど不安の声もあったというが、実際には想定したものよりずっと少なかった。また、不良品は返送で対応していたものも、営業担当者が受け取りのため訪問する形に改めた。すると顧客は、そこまでの誠意があるのなら来訪の必要はないという反応が多くなり、実際に訪問した顧客にアンケートを依頼すると、また商品を購入するかという問いに、当初70%程度だった「はい」の返答が、近年では90%以上まで上がったという。

 「当社の今までを振り返ると、10年に1度のビッグヒットと、その間にも小さなヒットを繰り返しています。ヒット商品を生み出すためには、お客さまが求めている商品がうまく出来上がって、それがブランドとして認めてもらえるようなレベルに達するという過程を丁寧にやっていくしかないと思っています。逆に、ヒット商品を作るのは10年かかると言ったほうが正しいのかも知れません。商品は、誕生して成長し、成熟して、最終的には衰退するというヒット商品のライフサイクル仮説がありますが、私はそうならないための努力をすれば、下がることはないと思っています。例えば、かっぱえびせんも、これを作った創業者が生きていたら怒られるな、というくらいの変革をしていかないと衰退するでしょう。基本的な良い部分は残しつつ、部分的に壊してもう一回作り上げる取り組みは常にしていかないといけない。優秀な商品ほど壊すのは怖いですが、メガヒットを作るには大変な労力が必要です。ヒット商品を磨き、ロングセラー商品にして、その間に次のヒット商品を開発していけば、成長軌道がずっと続くのです」

6つの成長戦略の推進で真のグローバル食品企業に

201708CALBEE_P02 こうした改革によって成長を続けてきたカルビーだが、ここへきて成長が鈍化してきたのも事実だ。この数年は各自が“自由演技”をするようになって、それが成長のエンジンとなったが、さらに成長を続けるためには、次のドライバーが必要となる。

 「20年に1兆円企業、かつ営業利益で15%以上、できれば20%くらいを目指す。この実現のため、海外戦略、革新的な新商品開発、国内市場のシェア拡大、米ペプシコとの提携強化、L&A(食品関連のライセンス契約と事業買収)、新規ビジネス展開の6つの戦略を掲げています。当社はユニークな商品を持っているし、農産物や海産物を加工しすぎることなく製品に仕上げるのが得意です。真のグローバル食品企業になれれば不可能ではないと思っています」

 昨年10月には創業の地である広島に「カルビー フューチャー ラボ」をオープンし、次なる大ヒット商品を生み出す体制を整えたいと言う伊藤氏も、09年に社長に就任して8年、60歳となった。

 「創業者系のところは別にして、サラリーマン社長の他の食品メーカーでは、社長交代が行われたところも多いです。私も結果が悪ければ、すぐにいなくなると思います」と笑みを浮かべたのは、伊藤氏の自信の表れか。

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