政治・経済

田中達也・富士通社長が就任3年目を迎えている。営業出身の社長らしく利益率にこだわる姿勢を見せ、ビジネスモデル改革を推進しているが、今のところ順調に推移していると言ってよいだろう。減収は続いているが、ポートフォリオの大転換の只中にあり、将来の飛躍を期している。文=村田晋一郎

ハードからクラウドへ富士通第3の大転換

富士通田中Photo

田中達也・富士通社長

 富士通がこの春より、執行体制を改めた。4月1日付で、執行役専務の谷口典彦氏と執行役専務CFOの塚野英博氏がそれぞれ執行役副社長と執行役副社長CFOに就任、さらに6月の株主総会で代表取締役となった。また、山本正已会長が代表取締役から外れ、取締役会長となり、同社の代表取締役は田中達也社長、谷口、塚野の両副社長の3人体制となった。

 田中社長が就任したのは2015年6月。代表取締役は田中社長と山本会長の2名だった。山本会長の当時の年齢が61歳と老け込む年齢ではなく、また社長退任時に「外政は会長が、内政は社長が」という役割分担を示唆したことから、山本会長のイニシアティブが残ることが予想され、山本会長の「院政」を危惧する向きもあった。しかし就任3年目を迎えて、山本会長の影響力は弱まり、田中社長が富士通全体を完全に掌握する形になった。波風が立っていないという意味では、取りあえずこの2年間で、田中社長の改革が順調に進んでいる証左とも言える。

 田中社長が自らの経営方針を公表したのは就任から4カ月後の15年10月。大きくは「形を変え、質を変える」ということ、そして利益率重視の姿勢を打ち出した。

 まず形を変えるということでは、ビジネスモデルを転換する。田中社長は営業出身であり、ともするとプロダクトアウトになりがちだった展開を、マーケットインの方向に定める必要性を感じていたこと、さらに営業の最前線でグローバルの競争環境激化を痛感していたことによる。

 それまでの富士通の事業は、クラウドサービスやサーバーなどの「テクノロジーソリューション」、パソコンや携帯電話などの「ユビキタスソリューション」、半導体や電子部品などの「デバイスソリューション」が垂直統合された構造だった。これをテクノロジーソリューションに経営資源を集中、具体的には、サービス、ソフトウエア、SDxハードウエアを強化。IoT時代を見据えて「つながるサービス」を希求していく。一方、ユビキタスソリューションとデバイスソリューションについては、パソコンや携帯電話、半導体などを分社化させ独立した事業体として展開させる。そしてコア事業であるテクノロジーソリューションに対してのシナジーを追求する。

 また、日本に次ぐ大市場である欧州についてはサービス化を加速。欧州全体でのサービス提供体制を統合し、デジタル化に向けたサービス専門営業の増強を行った。さらに開発拠点の閉鎖や製造・物量拠点の効率化を進めた。

 今回の変革は、富士通の歴史を振り返ると、1970年代の交換機からメーンフレームへの参入、90年代後半のメーンフレームからソフト・システムインテグレーションへの展開に続く、3番目の大転換となる。具体的にはハードからクラウドサービスへの転換だが、パソコンや携帯電話の分社化は、これまでのハード部門出身ではなく、営業出身の田中社長が実行したことに、歴史的な意味があるだろう。

 さらにビジネスモデル変革の連結業績目標として掲げたのが、営業利益率10%以上、フリーキャッシュフロー1500億円以上、自己資本比率40%、海外売上比率50%以上の経営指標だ。特に営業利益率10%は、日本の電機メーカーの中ではかなりチャレンジングな目標といえるが、田中社長としては、グローバル企業と伍して戦うためには、この水準が必要だという。

 これらの目標について、田中社長は自身の任期中の達成を目指している。富士通の社長任期は5年が慣例であることを考えると、20年度がターゲットとなる。

2年間の改革は順調に推移営業利益率6%は通過点

 ここまでのところ、田中社長が実行しているビジネスモデル変革の効果は着実に出てきているようだ。2年目の16年度の業績は、売上高が前年比4.8%減の4兆5096億円と減収となったが、営業利益が同6.8%増の1288億円、利益率2.9%となり、すべて公表計画を上回る結果となった。

 また、フリーキャッシュフローは前年の887億円から1048億円へ、自己資本比率は24%から28%へとそれぞれ着実に改善。一方で海外売上比率については、ビジネスモデル変革の一次的な費用や為替の影響などで、前年の40%から37%にマイナスとなった。現在進めている構造改革の効果が出てくるのにまだ時間がかかる見込みだ。

 さらに16年度は、傘下の富士通テンの株式の一部をデンソーに譲渡し、デンソーの子会社とした。そしてニフティのコンシューマービジネスをノジマに譲渡したほか、PC事業についてレノボと事業統合に向けた交渉を開始。加えて、SE子会社を統合し、SEリソースの集中、セキュリティーに関する統合本社の設置など、まさに第3の変革期といえる取り組みを次々と進めてきている。

 17年度については、営業利益1850億円、利益率4.5%を見込んでいる。利益率については、最終目標の10%に向けて、17年度は5%ゾーン、18年度は6%ゾーンの目標を設定。「就任以来、営業利益率10%を掲げ、これは社員にも浸透し、全員が共有しているという状態」と田中社長は手応えを感じている。

 15年度、16年度はビジネスモデル変革にかかわる一次的費用のため、利益率は3%ゾーンにとどまっていたが、17年度は改革の効果が業績に寄与することが予想され、利益率見込みの4.5%はミニマムラインと位置付けている。ビジネスモデル変革の効果を享受することで、さらなる利益率アップを目指す。18年度の6%は同社にとっても過去最高の水準となるが、10%を目指す上ではあくまで通過点だという。

 田中社長はここまでの改革の進捗状況を2合目か3合目と言い切る。その直接的な要因は、PC事業についてレノボとの交渉が当初の予定より遅れており、最終合意に至らず、独立化が進んでいないためだ。

 田中社長によると、「両社のシナジーをいかに出すかについて、最終的に詰めている段階で、破談になることはない。早晩まとまる」という。PC事業の統合で改革が5合目あたりまで一気に進むと見ている。PC事業を売却することになれば、利益率は一気に改善。17年度の5%ゾーン達成は容易と見られ、その先の6%ゾーンも視野に入ってくる。

 その一方でPC事業を売却すれば、16年度まで3期連続で減収となっている売上高はさらに落ち込み、4兆円を割り込むことが予想される。売上至上主義ではなく、まず利益率を改善し、世界と戦える体勢を整えることが、田中社長の改革の第一義だが、ピーク時には5兆円を超えていた売り上げが4兆円を切ることにはネガティブな印象も付いて回る。「売り上げは利益の源泉」という言葉もある。売り上げのトップラインについて、田中社長としては、構造改革の結果として、売り上げ成長も付いてくると見ている。

 「全体のトップラインは一時的にはブレたりすると思うが、いろんな取り組みをした後に安定すれば、徐々に効果が出てくると考えている」(田中社長)

高い専門性を生かしたコ・オペレーションで成長

 では、富士通はコア事業であるテクノロジーソリューションで、いかに成長していくか。ここで田中社長が強調するのが「コ・クリエーション」だ。

 コ・クリエーションとは、富士通がICTサービスを提供するという従来の関係に加えて、顧客と共に新しいビジネスモデルを創造すること。従来のシステムインテグレーションは、顧客が提示する要件を基にICTベンダーが情報システムを構築し、サービスを提供している。これに対してコ・クリエーションでは、顧客の情報収集や問題発見の段階から、富士通のシステムエンジニアが顧客にかかわっていく。顧客と共に世の中の動向を分析することから始め、そこで得られた知識や課題を基にビジネスのアイデアや解決法を創出し、サービスのプロトタイプを構築・試行する。さらに、その結果から軌道修正を繰り返し行い、サービスを共同で完成させていく。

 それを実現するためには、システムエンジニアが幅広く深い専門的な知見を有することや、先端技術のための共同研究や外部との連携が重要となる。富士通としては、リソースの専門性を高める取り組みを強化。昨年のSE子会社の統合はその一環だが、業種業務に対する専門性を高めるほか、従業員のスキル転換を進める。

 また、世の中のデジタル化の進展に伴い、富士通の顧客層も変わってきている。富士通は毎年5月にプライベートショー「富士通フォーラム」を開催しているが、今年は従来の顧客である企業のICT担当者よりも、事業担当者の来場が目立ったという。各事業部門でICTを導入し、自らの製品やサービス、トータルな競争力を高める機運が高まっている。その意味では、あらゆる業種が富士通の顧客となり得る。田中社長は、こうしたニーズをとらえ、コ・クリエーションにより、市場をさらに開拓できると考えている。

 富士通自体が田中社長の下、大きな転換を果たそうとしているが、同時にマーケットも大きく変わりつつある。その変化は、今のところは田中社長の改革にとって追い風と言える。しかも、田中社長も語るように改革はまだ2合目、3合目で、手を打ち切ったわけではなく、まだまだ奥の手がありそうだ。

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