マネジメント

働き方改革が叫ばれるずっと以前から、19時前退社や女性が働きやすい制度の拡充など、先進的な試みを実行してきた大和証券。この4月に社長に就任した中田誠司氏は、今後はシニア世代によりフォーカスした制度構築を目指すという。その中身と狙いについて話を聞いた。聞き手=吉田 浩 Photo=佐藤元樹

大和証券が高齢社員が同世代のコンサルを請け負う為の働き方を改革

201709DAIWA_P01

なかた・せいじ 1960年生まれ、東京都出身。83年早稲田大学政治経済学部卒業後、大和証券入社。大和証券エスエムビーシーで事業法人営業部長、エクイティ部長、商品戦略部長、執行役員企画担当などを務めた後、2007年大和証券グループ本社執行役企画副担当兼人事副担当兼経営企画部長に就任。その後大和証券キャピタル・マーケッツ常務、大和証券専務、大和証券グループ本社専務、同副社長等を経て、17年4月より現職。

―― 下期から高齢者専門のコンサルティングチームをつくることになりましたが、その狙いは。

中田 超高齢化社会のニーズにフォーカスしたコンサルティングを行うべきだと考えました。資産はこれ以上増やさなくていいから守っていきたい、次の世代につなげていきたいという高齢者のニーズは非常に多い。下期からいくつかの店舗で制度を試験的にスタートさせて、まずは高齢のお客さまに対してどのようなサービスを提供するべきなのか、考えながらやっていくつもりです。

―― やはり、相続に関するニーズが多いのでしょうか。

中田 相続や事業承継といった問題は、まさにこれから本格化します。20年後には団塊世代が85~90歳に差し掛かってくるわけですが、昔に比べると80代以上でも心身ともにクリアな方が相当増えています。そして、団塊ジュニア世代が60歳から65歳になり、資産を最も持つ層になっていきます。金融資産の大半が60歳から85歳の間で動くわけですから、そこには資産形成の真っただ中にいる層とは違う切り口でアプローチしなくてはなりません。

―― コンサルタントにも顧客と同世代の従業員を配置するということですが、やはり同世代の状況が分かるという点が重要なのでしょうか。

中田 そうですね。「長生きリスク」や「晩婚化」が言われる中で、60代になってもまだまだお子さんの教育費などが掛かる方が多数いらっしゃいます。70歳まで働かないと教育費が賄えないと不安だったり、養育が終わった後もどうやって自分の次のキャリアを重ねていけるのか不透明だったりする人もかなりいます。当社の営業職員も現在は70歳までの雇用延長制度を導入していますが、お客さまと同様に70代になっても心身ともにクリアな社員が増えてくるでしょう。そうした社員たちはお客さまの気持ちも分かりますし、大和証券でずっと働ける制度があれば、自らの不安も払拭できます。制度を置くことで、40代、50代の社員も安心感を持てるでしょう。

―― 再雇用年齢の上限を撤廃する方針も打ち出しました。本当の意味での終身雇用となるわけですが、会社側の負担も大きいのでは。

中田 制度の詳細は検討中ですが、働き方によって報酬は当然変わってきます。例えば、神戸支店の68歳の営業職員は、若い社員と全く同じ形態で働いていて、そうした方には実績に見合った対価をきちんと支払います。一方、超高齢者専門のコンサルチームだと少し足の長いビジネスになるので、それに見合った報酬体系をつくらないといけません。役割分担に応じたキャリアパスをつくるとともに、会社としてのコスト増は避ける考えです。福利厚生をどこまで適用するかについても課題です。

―― 55歳定年の時代から見ると隔世の感があります。

中田 戦後すぐは平均寿命が50.6歳で、その後もしばらく50代でしたから、55歳定年で終身雇用という言葉が生まれました。ところがそこから平均寿命が約30年伸びたにもかかわらず、定年は5年しか伸びず、雇用延長を入れても65歳となっています。この20年のギャップが生まれたために、シニアが働く場所や社会保障をどうするかといった問題が出てきました。超高齢化社会に対応した制度を導入している会社もありますが、まだ少数です。

大和証券の制度改革を実現させた企業カルチャーとは

―― 働き方改革が叫ばれるずっと前から、大和証券では鈴木茂晴元社長の時代にさまざまな試みが始まりましたが、それを可能にした企業カルチャーについて、どう感じますか。

中田 昔から大和証券は、良くも悪くも「大人しい」とか「独立独歩」といった表現をされていましたね。「大人しい」というのは良い意味で言えば「人に優しい」ということで、私が支店にいた時も法人部門に移った時も、それは感じていました。そのカルチャーを、鈴木社長時代に明確な形にしていきました。上場会社である以上、株主は一番大事ですが、誤解を恐れずに言えば株主価値をつくり出すのは社員なので、社員が働きやすい環境をつくるべきだという方針をはっきり打ち出したのです。まずは支店のトイレを奇麗にすることから始まり、19時前退社を徹底するなど新たな制度をどんどん入れていきました。

―― その時、中田社長はどのようなポジションだったのでしょうか。

中田 鈴木社長が就任する翌年に大和証券エスエムビーシーの企画担当役員になり、企画と人事の両方を手掛けていました。その後、グループ本社の人事企画担当になりました。

―― 制度改革のまさに当事者だったわけですね。当時一番苦労したことは。

中田 19時前退社を決めた当初、支店長たちは半身で構えていましたね。私自身は企画担当役員として、支店は本当に実行できるかなという目で見ていました。きちんと19時前に帰れる店とそうでない店があったのですが、鈴木社長が強制力を発揮して、有無を言わさず19時前には会社を出ないと大変なことになるというところからスタートしました。それからみんなだんだんと19時前に仕事を仕上げるにはどうすればよいかを考えるようになって、徹底するまでに3年くらいかかりました。近年はIB(投資銀行)部門にもメスを入れ、平均すれば20時には帰れるようになっています。IB部門はクロスボーダーのやり取りが必要な場面もありますが、そこはきっちりこなして、余裕があるときは代休を取ったり早く帰ったりして、月の残業時間が規定内に収まるようにしています。

―― 業務の効率化の部分で、さらに着手できることは残っていますか。

中田 労働時間という意味では、今まではどちらかと言えば女性や若年層向けの施策が多かったのですが、もう少しシニアにフォーカスした制度を入れていきたいと思います。例えば介護は高齢化とともに誰もが抱える問題で、既に昨年から介護休職期間を1年から3年に延ばしています。介護は育児と違って、スタートした段階では終わりが見えません。個人的には3年でも短いのではないかと思っています。また、介護は24時間毎日張り付かなくてもよいケースが多いので、在宅ワークと組み合わせながら期間を延長できる制度を入れるなど、個別の状況に柔軟に対応していきたい。日比野隆司会長と私が共同委員長を務めているワークライフバランス委員会において、介護に関してもう少し踏み込んだ提言をしようと思っています。

大和証券 中田誠司社長の組織運営に関する哲学とは

201709DAIWA_P02―― 一方で、若い社員を見て、働くことに対する価値観の変化などは感じますか。

中田 当社のように19時前退社を徹底していれば、余暇をしっかり取ることができるので、それを有効活用する社員は当然増えます。また、役員面接をやっていたころは、特に女性の方は志望動機の1つとして働きやすい制度面を挙げる人もいたのを覚えています。ただ、能力に応じた対価を貰えて、実力次第で可能性が開ける会社だからという動機が多かったと思います。

―― 中田社長を含め、自身がモーレツ社員だった世代が働き方改革を行うのは、相当なマインドチェンジが必要だと思うのですが。

中田 私にも20代の子どもがいますし、子どもを通じて若者文化を見ているので、育ってきた時代背景が全く違うことは理解しています。例えば、昔は叱ることで人を育てた文化でしたが、今の子どもたちは褒められて育つ文化に変わってきている。自分が20代の頃と同じやり方が今でも通用するとは全く思っていません。古い意識を引きずるのは間違いです。

―― 最後に、組織運営に関する中田社長の哲学を聞かせてください。

中田 信頼関係をいかに構築するかがすべてだと思っています。強いチームは、組織の中の信頼関係が盤石でないとつくれません。とりわけ組織の長は、構成員から信頼、尊敬されていないと務まりません。そのために大事なのは背中で見せること。さまざまなことを率先して実行し、決断し、責任を取る。それにより組織全体の信頼関係が構築され、強い組織にできると考えています。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

グローバル化が進む中、多くのビジネスパーソンにとって英語力の向上は大きな関心事の1つ。日本人が相変わらず英語を苦手とする理由と解決策について、英語学習アプリで展開するポリグロッツの山口隼也社長を取材すると共に、同社が提供するサービスについても聞いた。(取材・文=吉田浩)日本でますます高まる英語学習熱  201…

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る