政治・経済

 働き方改革は安倍首相の肝いりの政策だ。働く人一人一人にさまざまな選択肢を用意することで、硬直化した雇用環境を見直し、多様性と活力を引き出そうというものだ。安倍首相は働き方改革実現会議の座長を自ら務めるなどリーダーシップを発揮したが、これを働き方改革担当としてサポートしてきたのが加藤勝信大臣。3月には働き方改革実行計画を発表、そこには長時間労働の是正と同一労働同一賃金が盛り込まれた。しかしこの計画を実効あるものにしていくには、これからの政策にかかってくる。そこで加藤大臣に、働き方改革の真の狙いと今後のロードマップについて聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=佐藤元樹

働き方改革担当大臣 加藤勝信氏が見た首相のリーダーシップで伝わった「意気込み」とは

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かとう・かつのぶ 1955年生まれ。79年東京大学経済学部を卒業し大蔵省(現財務省)入省。主計局主査、農林水産大臣秘書官などを歴任し、95年大蔵省退官。父である加藤六月代議士秘書を経て、2003年総選挙に自民党中国比例ブロックから出馬し初当選。以来当選5回。内閣官房副長官等を経て、15年一億総活躍担当等の内閣府特命担当大臣として初入閣。昨年8月に働き方改革担当が新たに加わった。

―― 働き方改革は安倍政権の目玉政策のひとつです。加藤大臣は昨年8月、働き方改革担当を兼務、働き方改革実現会議で安倍首相をサポートしながら、3月の働き方改革実行計画発表にこぎつけました。半年でまとめるのは大変だったのではないですか。

加藤 実行計画の大きな柱は、長時間労働の是正と同一労働同一賃金です。2つともこれまで厚労省の労働政策審議会で議論されながら結論を出すに至らなかったものです。そこで、安倍首相自ら議長を務め、関係閣僚や経団連会長、日商会頭、中小企業中央会会長や連合会長といった労使、それに有識者など、それぞれの分野でトップの方々が参加し、方向性を決定する枠組みをつくった。それが実現会議です。首相がリーダーシップを発揮され、委員の方々は、首相の意気込みを感じ、この場で決めていくとの覚悟を持って参加された。これが合意形成に大いに役に立ったと思います。

 雇用をめぐる環境も良かった。不景気で雇用対策をどうするかという状況ではなく、アベノミクスを進める中で経済が回復し、雇用が改善した局面だったということも大きく寄与しました。トップの意思と、環境の2つが重なったことが半年で結論を得るに至ったことにつながったと思います。

―― 問題は、実行計画をどうやって実効あるものにするかです。

加藤 長時間労働の是正と同一労働同一賃金については、それぞれ法整備が必要なため、3月の実行計画策定後、厚労省の労働政策審議会で審議され、6月に建議が行われました。これをもとに法案を作成し、速やかに国会に提出する考えです。

 長時間労働の是正については、残業時間は1カ月で100時間未満、2カ月から6カ月の平均では80時間以内という上限を定めていますが、これはあくまで最低限守るべき上限の数字です。ここまで働かせていいということではなく、それ以上働かせてはいけないという最低限守るべき基準です。

 法案が国会に提出され、審議され成立すれば、準備期間を経て施行ということになります。施行されればその瞬間からこの基準を守らなければなりません。従って、既に準備期間は始まっていると労使の方々には意識していただきたい。それに本来、労働基準法では労働時間は週40時間と定められています。業務には繁閑の波があるため基準の範囲内で一時的な残業はやむを得ないが、やはり労使が議論して、週40時間を念頭に置きながら、労働時間をできるだけ短くしていく必要があると考えています。

 同一労働同一賃金については、昨年末にガイドライン案をお示ししました。正規雇用と非正規雇用との間で待遇差が存在する場合、いかなる待遇差が不合理で、いかなる待遇差が不合理でないかが示されています。このガイドライン案をもとに法改正の作業を進めていきます。そして改正法成立後は、その法案と国会の審議等を踏まえ、ガイドラインを最終的に確定していきます。

 また、実行計画の中には労働者に対する待遇に関する説明の義務化も含まれています。非正規雇用労働者は正規雇用労働者がどのような働き方をしているのか必ずしも分かりません。そこで企業側に説明義務を課すことで、不合理な待遇差があるのかどうか、労働者が判断できるようにします。さらには、もし不合理な待遇差があった場合、すべてを裁判で争うとなると時間もお金もかかります。そこで行政ADRという裁判外紛争解決手段を整備し、均等待遇等を求める労働者が、身近に無料で利用できるようにすることも盛り込まれています。

働き方改革実行計画で触れているテレワーク、副業・兼業の推進とは

―― 7月24日をテレワーク・デーとして、NECや全日空などが、テレワークを一斉実施します。このように、民間の取り組みも本格的になってきましたが、実行計画ではテレワークについても触れています。

加藤 3年後の7月24日、東京オリンピックの開会式が予定されています。テレワーク・デーはそれに合わせて行われます。ロンドンオリンピック(2012年)の時にイギリスではテレワークが進んだと聞いています。ただでさえ通勤電車が混雑し、道路が渋滞しているのに、オリンピック観戦の人たちも一斉に入ってくるとなると大変です。そこで会社に行かなくてもすむテレワークを導入したところ、成果をあげることができたとのことです。日本もそれにならい、テレワーク推進のひとつの契機にしていこうというわけです。

 昔と違い、パソコンさえあればどこでも仕事ができるようになりました。それでも現在、テレワークを導入していない企業は83.8%にのぼります。これをきっかけに導入企業を伸ばしていきたい。そのためのガイドラインを策定していきます。

 柔軟な働き方という意味では、副業・兼業の推進も実行計画で取り上げています。自分の持つスキルを生かして副業・兼業を希望する人が増えています。ところが、例えば中小企業においては、85.3%の企業が副業・兼業を禁止しています。この副業・兼業禁止を見直すための環境整備をこれから行っていきます。副業・兼業によって本来の仕事に支障を来し、長時間労働につながっては本末転倒です。そのような弊害が出ないかたちで副業・兼業を認めるよう、ガイドラインを策定していきます。合理的な理由なく副業・兼業を制限できないことをルールとして明確化していきます。

働き方改革でさまざまな選択肢を示すことで、自分のライフデザインを描く

―― 働き方改革を浸透させるためには、経営者および労働者それぞれの意識改革が必要になります。

加藤 なぜ働き方改革を進めるかというと、一億総活躍社会を実現するためです。働き方改革こそが最大のチャレンジと安倍首相も言われています。働き方は、働く人それぞれの暮らし方と密接不可分な関係にあり、日本の企業文化や個人のライフスタイルに根付いたものでもあります。従って、実行計画を発表し、法律が成立したからといって、それで明日から変わるものではありません。

 働き方改革を進めることで、各人が持っていた働き方へのさまざまな思いが顕在化するということはあると思います。また、働き方改革とは、さまざまな選択肢を示すことです。今後変化のスピードが今まで以上に激しくなる中で、多様な可能性を見通し、ライフデザインを自ら描いていくことができる。それが豊かな社会の実現につながり、日本経済にとってもプラスになる。これにより自分の思うように家庭を持ち、子どもを持つことにもつながれば、日本の抱える少子化問題の改善も図られることになるのではないでしょうか。

―― 国民の中には、現状に満足している人たちが数多くいます。その人たちは働き方改革よりも現状がいつまでも続くほうが価値のあることだと考えています。このギャップをどう埋めていきますか。

加藤 現状に特段不便を感じていない人は、無理をして変える必要はありません。そうではなく、例えば働きたいとの希望を持ちながら働けなかった人たちなどが働き得る環境を作っていく。そうなれば、今まで以上に多様な人たちが職場に入ってきます。その結果、いろいろなアイデアが持ち込まれ、新たな商品やサービスも生まれるかもしれない。まさに、イノベーションが起こり、生産性が上がり、給料が上がっていくという流れが見えてきたら、現状維持でいいと思っていた人も、「ちょっと待てよ」と思うようになるのではないでしょうか。新しいことをやってみよう、ここを変えてみようと考える人が増えていく。例えば兼業・副業を行う中で自分の新たな姿を見いだし、その結果、起業しようと考える人が出てくる可能性もあります。

 働き方改革とは、長時間労働の是正や同一労働同一賃金のような、今の社会の問題を解決するという意味もありますが、同時に成長をつくっていくということでもあります。今、日本は人口減少、特に生産年齢人口の激減に直面しています。その中で働く人を増やしていくには、女性や高齢者を活用する必要があります。就業を希望している女性は270万人におよびます。働き方改革によってこういった方々が働けるようになれば、人手不足問題も改善できます。同時に生産性を上げていくことも重要です。これも働き方改革の大きなテーマです。

生産性を上げ、給料を上げ日本の経済成長を支える

201709KATO_P01―― 日本の生産性改善のスピードは緩やかで欧米先進国との差はむしろ広がっています。そこを改善していかなくては、人手不足の解消もできません。

加藤 グラフの横軸に1人当たりの総労働時間を取り、縦軸に1時間当たりの労働生産性をとると、OECDの国々では、日本より労働時間が長い国で生産性の高い国はなく、また、日本より労働時間が短い国で生産性の低い国もありません。つまり労働時間の長さは生産性の高さに反比例すると言ってもよいと思います。日本も労働時間を短くする必要があります。そのことを通じて生産性を上げ、給料も上げる。そうなれば1人当たりGDPも消費も増え、経済の成長にもつながります。

 生産性の向上を図っていこうとして設立されたのが生産性向上国民運動推進協議会です。生産性の向上というと、AIやロボットの活用など、先端技術を駆使してというものがすぐに思いつきますが、全企業の99.7%を占める中小企業にとっては、簡単に導入できるようなものではありません。そこで推進協議会では、小売り、飲食、介護、宿泊、運送業のサービス業5分野を対象に、希望した中小企業約70社にトヨタ自動車やキヤノンなど製造業のノウハウを生かしたコンサルティングを行い、1年間にわたって改善の指導を行ってもらいました。その成果報告が、この5、6月にありました。

 ある会社は、人を募集しても全く集まらない。そこで改善活動を行った結果、今まで4人で行っていた作業が3人でできるようになったそうです。もちろん品質は今までどおり、労働時間も変わりません。それによって生まれた人員を新たな事業に向けて業容拡大を図っていく。このような成果がいくつも報告されています。今後も、こうした環境整備を行うことで生産性の向上を図っていきます。OECDの調査でも日本の働く力は世界有数と高く評価されているように、日本の潜在力は高い。それをどう形にしていくかが次のステージです。

―― 380万社ある中小企業すべてに大企業から人を派遣するわけにはいきません。どうやって生産性向上を敷衍していきますか。

加藤 これは経団連の榊原(定征)会長がおっしゃっていることですが、定年退職された方の中には製造現場の改善の知見を持っている方はたくさんおられ、この方たちを活用するということもあります。リタイアされた方たちにとっても、生き甲斐、働き甲斐を得ることができる。受け入れ企業は改善のノウハウを手に入れる。それに対し、行政は助成などでサポートしていくことが考えられます。

―― 働き方改革は国民の間でもかなり浸透してきたのではないですか。

加藤 マスコミでも積極的に取り上げていただき、さまざまなシンポジウムが開かれるなど、多くの方々に関心を持っていただいています。今後も私たちは、働き方改革の環境を整える立場から、積極的に発信を続けていこうと考えています。

 

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