文化・ライフ

人類が生き延びるためにはHLAの個人差が必要だった

201708FUJITA_P01

ふじた・こういちろう 1939年旧満州生まれ。東京医科歯科大学卒業。東京大学医学系大学院修了、医学博士。金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学教授を経て、東京医科歯科大学名誉教授。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。

 少し前にブームを巻き起こしたアドラー心理学は「すべての悩みは、対人関係の悩みである」といいます。つまり、自分と他者との間に起こる関係性で、幸福や不幸がわきおこってくるということです。このことは、私の専門である免疫学にも同じようなことが言えるのではないかと感じています。

 免疫は簡単に言えば、自分と他者を区別するしくみです。人間には移植拒絶の免疫反応に関係するHLAという名前の抗原群が約150種類あり、親子や兄弟でも一致する確率は低く、非血縁同士だと一致率はさらに下がります。臓器移植では拒絶反応の問題が必ずついてまわりますが、移植の歴史自体はまだ100年くらいと浅く、HLAが他者の移植片拒絶のために存在しているものだとは考えられません。では、同種である人間の細胞に、どうしてこんなにたくさんの種類のHLAが存在しているのでしょうか。

 それは、生物にとって脅威だらけの環境のなかでも、私たち人類が生き延びて命をつなげるために、HLAの個人差が必要だったからです。

 私たちを取り巻く自然界には、ありとあらゆる種類の微生物やウイルスが存在します。また、体内に発生するがん細胞にも多くの種類があるように、私たちの体が異物と認識する物質の種類は無数に存在します。

 HLAは細胞の表面にある蛋白質で、ウイルスや細菌などの異物が細胞に入ると、その異物に反応してつくった物質を細胞表面に提示します。Tリンパ球は表面にレセプターを持っていて、異物を提示している細胞のHLAを認識して攻撃します。このTリンパ球は常にHLA表面に異物があるかどうかを見回っていて、私たちの体をウイルスや微生物などによる脅威から守ってくれています。移植に関しても同様で、他人の細胞の表面に発現しているHLAを、Tリンパ球が異物と判断して攻撃します。

自分は他者のために他者は自分のために

 ここで、HLAに個人差が大きくあることが重要になります。それは、異物の種類によってはHLA分子が異物だと上手に提示できるものとできないものとがあるからです。つまり、人ごとにHLAの型を変えておけば、多種多様な異物があっても、これらを排除できるHLAを持っていた人が生き延びて、人類を絶滅の危機から救うことができるというわけです。もしみんなが同じHLA型で個人差がないとすれば、ある驚異の異物が感染したりすると、あっという間に人類は全滅してしまうでしょう。

 このように、私たちは個人差のある免疫能力を持って病気に立ち向かい、人間という種を存続させています。これは、自分は他者のために、他者は自分のために生きているという意味で「共生」であるとも言えるでしょう。

 アドラー心理学では「対人関係のゴールは、共同体感覚である」とされていますが、まさにこの免疫のしくみこそが共同体であり、すべての人がそれに貢献しています。自分と他者を区別するしくみは悩みも生みだすと同時に、人の命を永らえる幸せも生み出します。

 私たちが健康で不安のない100年人生を送るためには、この「共生」がキーポイントになってきます。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る