文化・ライフ

人類が生き延びるためにはHLAの個人差が必要だった

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ふじた・こういちろう 1939年旧満州生まれ。東京医科歯科大学卒業。東京大学医学系大学院修了、医学博士。金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学教授を経て、東京医科歯科大学名誉教授。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。

 少し前にブームを巻き起こしたアドラー心理学は「すべての悩みは、対人関係の悩みである」といいます。つまり、自分と他者との間に起こる関係性で、幸福や不幸がわきおこってくるということです。このことは、私の専門である免疫学にも同じようなことが言えるのではないかと感じています。

 免疫は簡単に言えば、自分と他者を区別するしくみです。人間には移植拒絶の免疫反応に関係するHLAという名前の抗原群が約150種類あり、親子や兄弟でも一致する確率は低く、非血縁同士だと一致率はさらに下がります。臓器移植では拒絶反応の問題が必ずついてまわりますが、移植の歴史自体はまだ100年くらいと浅く、HLAが他者の移植片拒絶のために存在しているものだとは考えられません。では、同種である人間の細胞に、どうしてこんなにたくさんの種類のHLAが存在しているのでしょうか。

 それは、生物にとって脅威だらけの環境のなかでも、私たち人類が生き延びて命をつなげるために、HLAの個人差が必要だったからです。

 私たちを取り巻く自然界には、ありとあらゆる種類の微生物やウイルスが存在します。また、体内に発生するがん細胞にも多くの種類があるように、私たちの体が異物と認識する物質の種類は無数に存在します。

 HLAは細胞の表面にある蛋白質で、ウイルスや細菌などの異物が細胞に入ると、その異物に反応してつくった物質を細胞表面に提示します。Tリンパ球は表面にレセプターを持っていて、異物を提示している細胞のHLAを認識して攻撃します。このTリンパ球は常にHLA表面に異物があるかどうかを見回っていて、私たちの体をウイルスや微生物などによる脅威から守ってくれています。移植に関しても同様で、他人の細胞の表面に発現しているHLAを、Tリンパ球が異物と判断して攻撃します。

自分は他者のために他者は自分のために

 ここで、HLAに個人差が大きくあることが重要になります。それは、異物の種類によってはHLA分子が異物だと上手に提示できるものとできないものとがあるからです。つまり、人ごとにHLAの型を変えておけば、多種多様な異物があっても、これらを排除できるHLAを持っていた人が生き延びて、人類を絶滅の危機から救うことができるというわけです。もしみんなが同じHLA型で個人差がないとすれば、ある驚異の異物が感染したりすると、あっという間に人類は全滅してしまうでしょう。

 このように、私たちは個人差のある免疫能力を持って病気に立ち向かい、人間という種を存続させています。これは、自分は他者のために、他者は自分のために生きているという意味で「共生」であるとも言えるでしょう。

 アドラー心理学では「対人関係のゴールは、共同体感覚である」とされていますが、まさにこの免疫のしくみこそが共同体であり、すべての人がそれに貢献しています。自分と他者を区別するしくみは悩みも生みだすと同時に、人の命を永らえる幸せも生み出します。

 私たちが健康で不安のない100年人生を送るためには、この「共生」がキーポイントになってきます。

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