文化・ライフ

マルシンハンバーグの奇想天外なアイデアと販売手法

第14回Photo1

現在も販売されているマルシンハンバーグ

 今回は、昭和37(1962)年に全国販売が開始された“昭和の定番”マルシンハンバーグを分析してみます。

 実はマルシンハンバーグは当初、水産加工会社でした。今から半世紀以上前の昭和35年、創業者である新川有一氏は築地魚市場で水産加工会社を立ち上げ、魚をさばいて売っていました。

 その2年後、当時スパゲッティーやカレーなど洋食が流行りだしていたとき、たまたまハンバーグを食べる機会があり、直感でこれを家庭に普及させたら大成功する!と水産会社からハンバーグを作ろうという流れになり、マルシンハンバーグが誕生しました。

 築地で働いていただけあって、新川氏は当時高価だった牛肉ではなく、鯨肉、マグロなども混ぜ込む手法も思いつきました。ハンバーグが魚というのは、当時としてはとても常識はずれで奇想天外なアイデアであったことでしょう。それに豚肉を混ぜて、つなぎのパン粉などとともにラードを加えて「マルシンハンバーグ」として売り出しました。

 東京オリンピックの数年前の時代なので、家庭にはまだ冷凍冷蔵庫が普及していませんでした。そこで新川氏は、10度以下で約2週間くらいは鮮度を維持したいと考え、試行錯誤した結果、その手法を発明しました。

 特許を獲得したマルシン独自の「油脂コーティング」技術は、加熱後のハンバーグ全体にラードを薄く塗布することによって鮮度の維持ができるというものです。外側にラードがコーティングしてあるため、フライパンに油を引かなくてもそのまま乗せて焼くことができる簡便さも併せ持ちます。マルシンハンバーグの周りに白い油脂が付いているのを覚えている人も多いことでしょう。

 そして、もうひとつ、なるほどと感心するのが流通戦略です。新川氏は築地で水産加工業をしていた関係で、魚流通網を使って全国へ展開することを発想しました。これも見事な手法です。

 ただし、水産流通に乗せていたため、水産業者の間では、さつま揚げのオバケと言われていたそうです。

 さらに、ヒットの秘訣として挙げられるのは、食品にかわいいキャラクターを使った点。シンプルな白い袋に赤で女の子「みみちゃん」を付けて親しみやすさを演出し、情緒性を持たせたやり方は、現在でも使われるマーケティング手法です。

 テレビCMも昭和40~50年代に「ま~るしん、ま~るしん、ハンバーグ」という覚えやすいフレーズが特徴のCMを「ハクション大魔王」、「タイムボカン」などの子供向けアニメの時間に流していました。その時代に子供だった50代には、フレーズが頭に残っている人も多いことでしょう。

 特許製法で長持ちさせ、そのまま焼けるという商品の良さ、洋食文化が広まる時代に合わせた発売時期、シンプルなパッケージ戦略、CMも購入する主婦ではなくあえて子供をターゲットにした戦略は、なかなかのものだと感じます。

 さらに、現在はもうなくなりましたが、面白いのが「グーテンバーガー」という電子レンジ機能が付いたハンバーガー自動販売機を開発し、路上で販売した点です。筆者も小学生のころ近所にマシンがあり、買っていたのを覚えています。独特の味わいのフワフワしっとりしたバンズに、マルシンハンバーグ独特の味わいが印象に残っています。

マルシンハンバーグは正真正銘のヒット商品

第14回Photo2

発売当時と成分が変わったが美味しさは相変わらず

 現在でもスーパーで1個100円程度という安さで、棚にひっそりと並んでいます。筆者もたまに購入して、粒粒のついた英国マフィンにマルシンハンバーグを乗せて、ケチャップとマスタードをつけて挟んで食べています。

 本当に手軽で、安く、腹持ちも良いので重宝しています。コンビニで出来合いのものを食べるのと違って、自分で調理した感覚があるためか、いっそう美味しく感じます。

 最近のリニューアルで個人的に残念なのが、コーティングのラードの量が少なくなっているのではと感じる点。昔は、袋を空けると、焼けたハンバーグに白い油脂がついていたのですが、現在はカリカリの肉ではなく少し生に近いような雰囲気のハンバーグに、透明な油脂がコーティングされています。フライパンに乗せても昔のように、油が溶けてパチパチしません。

 少し残念ではありますが、基本の味わいはそのままだから良しとしましょう。原材料は当時のように鯨肉とマグロではなく、鶏、豚、牛肉が使われているので味わいは良くなっています。

 ひっそりとではありますが、50年以上も生き残っている「マルシンハンバーグ」は、正真正銘の大ヒット商品だと言えます。マルシンハンバーグ独特の、なぜか不思議な味わいが懐かしいと感じた方は、今晩の食卓に出して見てはいかがでしょうか。

 (やまもと・やすひろ):ビジネス・バリュー・クリエイションズ代表取締役、ブランドマーケッター。日本コカ・コーラ、JT、伊藤園でマーケティング、新商品企画・開発に携わり、独立後に同社を設立。これまで携わった開発商品は120アイテム、テレビCMは52本製作。1年以上継続した商品を計算すると打率3割3分、マーケティング実績30年。現在では新商品開発サポートのほか、業界紙をはじめとしたメディア出演や連載寄稿、企業研修、大学等でのセミナー・講義なども多数実施。たたき上げ新商品・新サービス企画立ち上げスペシャリスト。潜在ニーズ研究家。著書に『ヒットの正体』(日本実業出版社)、『現代 宣伝・広告の実務』(宣伝会議)、英語著書『Stick Out~a ninja marketer~』(BVC)など。

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年9月号
[特集]
この夏飲みたい日本の酒

  • ・総論 量から質へ“こだわり”が求められる時代へ
  • ・埼玉・秩父から世界一へ イチローズモルトの奇跡
  • ・家庭でも酒場でもレモンサワーが飲まれる理由
  • ・幕末からよみがえった都心の酒蔵 東京港酒造
  • ・本間哲朗(アプライアンス社社長)
  • ・伊豆で愉しむ野趣なワインと夏の富士
  • ・トップが薦めるこの夏のビール

[Special Interview]

 宮内義彦(オリックス シニア・チェアマン)

 「トップの器以上に会社は大きくならない」

[NEWS REPORT]

◆ヨーロッパに続け! 動き始めた日本の再エネ事業

◆東芝のPC事業を買収し8年ぶりに参入するシャープの勝算

◆日産―ルノー経営統合問題に苦慮するカルロス・ゴーン

◆大阪がエンタメで仕掛けるインバウンドと夜の経済

働きがいのある会社を総力取材

 人材育成企業20

 企業の成長戦略をクローズアップ

ページ上部へ戻る