政治・経済

信託銀行の収益の柱のひとつが法人向け融資業務だ。三菱UFJ信託銀行の場合、融資額は12兆円に達する。しかしこの5月そのすべてを本体から切り離すと発表した。収益的には痛手だが、その代わりとして、今後同行は、1兆円規模のM&Aを行っていくという。その狙いは何か。文=関 慎夫 Photo:佐藤元樹

法人向け融資業務をグループ内に移管

三菱UFJ2

 「国際的な競争に勝つために現在50兆~60兆円の運用資産を100兆円にまでもっていく。そのために1兆円規模のM&Aを行っていく」と語るのは三菱UFJ信託銀行の池谷幹男社長。

 発言の詳細は75ページに記したが、兆単位のM&Aは日本の金融機関では過去に例がない。生損保では1千億円単位の買収が頻発しているが、いずれも1兆円には届かない。リーマンショック後、三菱東京UFJ銀行がモルガンスタンレーに出資したが、これも9千億円強だった。もちろん、三菱UFJ信託がこれから行うM&Aは1件ではなく、複数の企業を買収する総額だから単純な比較はできないが、重要なのはこれまで目立つことのなかった信託銀行が、巨額M&Aを目標として掲げたことだ。そこに同社の意気込みが見て取れる。そして三菱UFJ信託は、M&Aへの取り組みだけでなく、新しい信託銀行の姿を模索し、動き始めようとしている。

 三菱UFJ信託は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の100%子会社。つまりM&Aをはじめとするさまざまな動きはMUFGの戦略に沿うものだ。

 MUFGは今年5月、「MUFG再創造イニシアティブ」というグループ戦略を発表した。その中には、商業銀行の三菱東京UFJ銀行を三菱UFJ銀行へと変更することも含まれていた。そのため1996年の三菱銀行と東京銀行の合併以来続いてきた「東京」の2文字が消えることばかりが話題になったが、再創造イニシアティブの中身ははるかに大掛かりなものだ。

 グループ一体型経営を推進することでステークホルダーに最善の価値を提供しようという狙いで、1年間かけて具体策を決め、来年4月から本格的に動き出す。その内容は、①グループベースでの顧客・事業軸運営の強化、②デジタルを活用した事業改革、③生産性向上に向けたイニシアティブ、④グループ経営体制の再構築――の4本柱からなる。

 三菱UFJ信託もこの方針に従って事業の中身を大きく変えようというわけだ。

 中でも一番大きな動きが、「法人向け融資業務を切り離し、商業銀行と一本化する」というものだ。顧客から資産を預かる信託業務と、銀行業務は本来違う業務だが、日本の信託銀行はその両方の業務が認められている。

 三菱UFJ信託の法人向け融資残高は12兆円。このすべてを三菱東京UFJ銀行(商業銀行)に移管し、三菱UFJ信託としては今後法人融資を行わないというのだから思い切った決断だ。これにより、これまでの貸し出し中心主義から脱却し、信託としての機能を強化し、「新しい信託銀行モデルを構築する」(池谷社長)というのだ。

 信託銀行の法人融資はこれまで、融資を切り口に法人顧客に不動産、年金、証券代行などのサービスを一体的に提供するところに強みがあった。これが「信託バンキング」と呼ばれるビジネスモデルだが、今後は信託バンキングモデルをMUFG全体で展開していく。そのために、現在三菱UFJ信託の法人営業部の百数十人は、そのまま商業銀行に出向しチームを編成、そのノウハウ、スキルをグループ全体に広める役割を担うことになる。

5つの柱で目指す新しい信託銀行像

 その上で目指す「新しい信託銀行モデル」とはどのようなものなのか。その戦略は次の5本柱からなる。①資産運用・資産管理事業の拡大、②企業のコーポレートガバナンスコード対応支援、③不動産ビジネス強化、④ウェルスマネジメント、⑤地銀等へのサポート――の5つである。

 中井貴一、真田広之、柳沢慎吾の3人が出演する三菱UFJ信託のテレビコマーシャルを見たことがある人も多いだろう。最近のCMでは、相続を相談するために彼らが信託銀行窓口を訪れている、これが④のウェルスマネジメントだ。日本の個人資産1800兆円のうち6割以上を60歳以上の世代が持っている。そして団塊世代が70歳を迎え始めた。日本の「大相続時代」が間もなく始まる。資産を持つ人は、できるだけ有利な形で子や孫に承継したいもの。また受け取る側は、一番資金需要のある時に親の資産を使わせてもらいたいというのが本音だろう。信託銀行はそこにビジネスチャンスを見いだしている。

 ただし、よほどの富裕層でなければ信託銀行の敷居は高く、一度も訪れたことがない人も珍しくない。そこで三菱UFJ信託ではその敷居をできるかぎり下げようと、50代の俳優を起用したテレビCMを放映しているのだ。

 また、三菱UFJ信託銀行本店に隣接する日本工業倶楽部ビル1階に「信託銀行博物館」を2年前に開設した。これは信託の歴史を学ぶことができる施設で、無料で公開しているが、場所は東京駅前の一等地。家賃もけっして安くないはずだが、これも一般の人に信託を知ってもらおうとの考えからだ。

 さらには三菱UFJ信託では店舗の改装にも着手。全国に五十数店ある支店のうち3店をサロン的空間につくりかえ、ゆったりと資産運用の相談に乗っている。

 また②の企業コーポレートガバナンスコードの対応支援とは、企業に対するコンサルだ。もともと信託銀行は、顧客企業の株主名簿管理から株主総会支援、買収防衛策など会社法務に関するさまざまなソリューションを提供してきた。しかもここきて役員報酬制度など、コーポレートガバナンスコード対応が迫られている。そうした企業に対するさまざまなコンサルを今後、拡充していく方針だ。

目指すは資産運用の国際的プレーヤー

 しかしこのような事業以上に三菱UFJ信託の今後の鍵を握っているのが、5本柱の中で最初に挙げられている資産運用(AM)事業、資産管理(IS)事業の拡大だ。同行はこの分野でグローバルに通用するプレーヤーを目指している。

 多くの産業がそうだが、既に国内事業だけで成長を図ることは難しくなっている。信託にしても同様だ。しかしこれまでのところ、日本の信託の世界的なポジションは低い。海外展開しているといっても、主たる顧客は日系企業。海外で資産運用するにしても、日本で信託された資産の運用にすぎない。これでは国際的プレーヤーとは言い難い。

 それでも、ISについてはグローバル化が進みつつある。三菱UFJ信託は2013年から16年にかけて海外のIS管理会社5社を相次ぎ買収した。ISにはヘッジファンド向けなど4分野があるが、一連の買収で三菱UFJ信託は4分野すべてをフルラインで持つことになった。これは日系金融機関では初めてで世界でも10社に満たない。

 「ISに関しては買収効果が出ている。何より当社の本気度が伝わるのか、著名な運用会社からもビジネスを持ち掛けられることが増えてきた」(池谷社長)

 今後はオーガニックに収益拡大を目指しつつもM&Aも継続する方針だ。

 問題はAM事業。現在の三菱UFJ信託の運用資産残高は50兆~60兆円で世界的に見ると40位前後。それに対して世界のAM会社の巨人、ブラックロックの運用資産は500兆円に達し、三菱UFJ信託とは10倍の格差がある。これでは存在感など発揮できようもない。

 「AMはこれからも成長する。しかしその分、競争も激しい。その中で存在感を持つためにも運用資産を100兆円を超えるまでにもっていき世界15位以内を目指す」(池谷社長)

 つまり運用資産を現在の2倍に増やそうというのだ。これをオーガニックな成長だけで達成しようというのは容易ではない。そこで出てくるのが、冒頭に記した1兆円規模のM&Aだ。

 法人融資部門を商業銀行に移管したことにより自己資本に余裕が生まれた。そこにMUFGの資本も活用してM&Aによる規模拡大を目指していく。その対象は海外のAM会社でマジョリティの取得を目指す。

 M&Aによって手に入れるのは規模だけではない。同時に資産運用能力の向上も目的のひとつだ。

 残念ながら、運用能力において日本企業は欧米企業に比べて劣っている。海外のAM会社を手に入れることで、人材とノウハウを手に入れることができる。それによって三菱UFJ信託は資産運用プレーヤーとしての能力を一段高いところまで引き上げることができる。

 「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」という。法人融資業務の事業移管という、言わば自らの身を切ることを決断した三菱UFJ信託は、それによって余裕のできた自己資本により、世界に通用する資産運用能力を身につけようとしている。その思い切った決断が身を結ぶかどうかに、新しい信託銀行の未来がかかっている。

<海外の資産運用会社買収で国際的プレーヤーを目指す>池谷幹男(三菱UFJ信託銀行社長)

三菱UFJ1

池谷幹男・三菱UFJ信託銀行社長

―― 法人向け貸し出し業務を三菱東京UFJ銀行に移管しました。その狙いは。

池谷 今まで当行と商業銀行がそれぞれ融資業務を行ってきましたが、それを一体化することでグループとしての機能をより強化しようということです。当行は融資を切り口に、不動産、年金、証券代行などのサービスを一体的に提供してきましたが、これをグループ全体に拡大していきます。そのため当行の融資部隊は商業銀行へ出向してチームをつくり、銀行と一体で信託バンキングモデルを推進します。

―― この事業は収益の大きな柱です。これを失うことは経営的にも損失になるのではないですか。

池谷 当社の法人向け融資は12兆円あります。確かにこれはなくなりますが、その分、自己資本に余裕が生まれます。その余裕を利用して1兆円規模のM&Aを行っていきます。

―― 過去数年間にわたり、海外企業の買収を繰り返してきました。その規模を拡大していくということですか。

池谷 これまで買収してきたのは資産管理です。この効果が既に出てきており、著名な資産運用会社からいろいろな提案を持ち掛けられるようになりました。しかし今度、M&Aを行おうというのは資産運用会社です。

 当行の運用資産残高は現在50兆~60兆円です。これを企業買収によって100兆円以上にもっていく。それによって現在世界40位前後の運用資産残高ランキングの15位以内を目指します。そうすることでやっと国際的なポジションを得られると考えています。

 残高にこだわるのは、残高が多いほどお客さまに支持されているということだからです。世界にはブラックロックのような巨人がいるほか、残高が100兆円を超える運用会社はいくらでもある。その中で戦っていくにも規模は欠かせません。

―― 国際的なプレーヤーになるために現在欠けているところは。

池谷 運用先進国はやはり欧米企業です。われわれはそこでは活躍できていません。現に預かっている資産は日本のお客さまが大半です。海外の企業を買収することで、そのノウハウを身につけていき、世界に通用するプレーヤーを目指します。

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