マネジメント

 明治維新の立役者、西郷隆盛と大久保利通は、なぜ幕藩体制を打ち破るリーダーとなり得たのか、そしてどう育てられたのか、歴史家・作家の加来耕三氏に話を聞いた。文=古賀寛明

201710KAKU_P01

かく・こうぞう 1958年、大阪市生まれ。奈良大学文学部史学科を卒業後、学究生活を経て、84年より、奈良大学文学部研究員。現在は大学・企業の講師をつとめながら、歴史家・作家として活躍している。

【明治維新から学ぶ大きな時代の変革期】西郷隆盛の背景には原石を磨いた人物が

 来年は、明治維新からちょうど150年目に当たります。このタイミングで節目の年を迎えるのも何か理由があるのかもしれません。

 というのも、日本は今、歴史的に見て4回目の開国というべき時期を迎えています。最初の開国を大化改新と考えれば、2番目が明治維新、3番目に昭和20年の終戦、そして4番目である現在は国境というものが意味を持たなくなってきました。

 大きな時代の変革期――その1つである明治維新から、私たちが学ぶべきことは多く、参考になるはずです。たとえば、幕末期のリーダーがどのように誕生したかといえば、やはり育てた人がいました。

 例えば、幕末の四賢侯のひとりである島津斉彬は、三百諸侯の中で最も頭の良い人でしたが、それ以上に本質を見究められる人でした。その証左が、いち早く日本の危機を見抜いていたことです。よく黒船が来たことで明治維新が始まったとされますが、維新のきっかけはアヘン戦争です。

 当時、清国には3億5千万人の人口があり、軍隊は88万人いましたが、述べ2万人ほどだった英国軍に負けたのです。斉彬は、その原因が封建制だと気付いていました。封建制はブロックごとの統治ですから、人々が考えるのは州や藩のことだけ。つまり国民不在で、日本では諸侯と幕府だけとなります。だから、斉彬は国をひとつにするしかない、と考えたのです。

 同時に斉彬は、清国の敗因を研究し、「物理と科学」の重要性を痛感します。そこでいろいろと試しました。日本人で初めて写真を撮り、幕府に隠れて船も造っています。そして彼の側にいたのが西郷隆盛でした。

 斉彬は、西郷を水戸の藤田東湖や越前福井の橋本左内など、当時の優れた人物に会わせることで時代の感度を磨かせました。江戸期は今と違い、優秀な人は江戸だけでなく全国各地に散らばっており、紹介状を持って訪ねて行く時代でした。そして、それがネットワークになっていったのです。

【明治維新から学ぶ大きな時代の変革期】西郷隆盛が明治維新の英雄になれたわけ

 また、西郷がなぜ、明治維新の英雄になれたかというと、それは彼の経歴が誰よりも長かったからです。他の人材はみんな安政の大獄で死んでいます。西郷も死のうとしたけれど、生きながらえました。

 世の中を変えて行く人物には出る順番があります。まず、横井小楠や佐久間象山といった予言者のような人物があらわれ、次に、実行する人たち、いわゆる幕末の志士たちが登場する。そして、彼らをまとめていく人間が必要になってくるわけです。

 戦国時代をみると、信長、秀吉と続き家康で初めて時代が落ちつきました。先頭を切る人がいて、必ず非業の最期を遂げる。その次の人間もいいところまでいくけれど危うい。家康は尻尾についていて、最後に天下を拾ったというわけです。

 幕末も第一世代の中で西郷が残り、斉彬の命で日本中をまわっている間にできた人脈が彼を磨いていく。しかし西郷は、国を一つにしなければならない、といった方向性やそこに至る青写真は教えられていたものの、斉彬が急死したことで、武装上洛以降のことは学んでいなかった。結局、幕府をつぶした後のことは分からないままでした。

 そこが西郷の限界だったわけです。守破離の言葉でいえば、破も離もできなかったのが西郷の悲劇でしょう。

 一方、大久保利通は斉彬のころは不遇をかこっていましたから、改革の青写真も知らなければ人脈もなかった。しかし、斉彬の弟で藩主の父である島津久光が実権を握ると、久光の命令で動かざるを得なくなります。

 はじめは西郷を頼ってばかりでしたが、最後の討幕のころには、逆に西郷をリードするようになっていきます。明治に入ってからも岩倉使節団で欧州に行き、ビスマルクの富国強兵、殖産興業という策を取り入れるわけです。しかし、彼も凶刃に倒れる。そして、伊藤博文が残ったというわけです。

【明治維新から学ぶ大きな時代の変革期】西郷隆盛、大久保利通の共通点は”非常の才”

 人物には出てくる順番があると言いましたが、リーダーというのは人間の組み合わせということもできます。ただ、基本は“非常の才”が必要です。平時に役立つ人間は非常時には全く役に立ちません。企業の講演会でも、「西郷さんや坂本龍馬をどうやったら採用できるでしょうか」、という質問がよく挙りますが、「そもそも企業が採用しない人が、彼らですよ」と。西郷は政治犯、坂本龍馬は逃亡犯ですからね(笑)。

 そもそも西郷にしても大久保にしても、他の藩に生まれていれば、絶対に成功できなかったはずです。剣が立つわけでもない、頭だってずば抜けて良いわけではない。大久保は頭が良かったですが、学問はせいぜい中の上レベル。

 一方、佐賀藩は優秀じゃないと家禄が削られます。どこの藩でも、選ばれるのは秀才ばかりです。でも、薩摩だけは基準が違う。「泣くよか、ひっとべ」という言葉に象徴されますが、勇気を示せる者が選ばれた。そういう英雄のつくり方もあったわけです。

 また、“非常の才”を見抜く場合、上の者の才も問われます。自分と同じ才能なら分かりやすいですが、異才を見抜けるというのは、よほど度量のある人でなければなりません。そういった意味では現在、育てられる人間がいるのかが疑問です。

 日清戦争の例が分かりやすいのですが、当時、国力を比較すると清国が50で日本は1くらい。でも、英国だけは日本が勝つと公言していました。その理由を「日本人は自分たちで船を動かし、修理も自分たちでする。一方、清国は、船を欧州から購入し、動かすのも欧米人。彼らに忠誠心はない」というのです。結果は、ご存じのとおり。こうした数と力に頼る解決策を採れば、結局は何事もなし得ないということです。

 日本の企業もいつしか教育できる人間がいなければ外部から専門家を呼んでくるようになりました。何としてでも自分たちで次のリーダーを育てよう、とはしません。かつての清国のような大国的な意識になってしまっている気がします。

 人材がいるかいないか、いないのなら、どこから連れてくるべきか。危機が見えてしまってからでは遅いのです。西郷や大久保が誕生したのは、島津斉彬が黒船よりも前、アヘン戦争の時に危機を感じ、“非常の才”を意識して育てたからでしょうね。(談)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年3月号
[特集]
環境が経済を動かす

  • ・総論 災い転じて福となせるか 持続可能な社会の成長戦略
  • ・越智 仁(三菱ケミカルホールディングス社長)
  • ・100年後を考える 世界最大級の年金基金「GPIF」
  • ・金融業界はこう動く
  • ・脱炭素化の遅れがはらむ「座礁資産」の危険性
  • ・脱炭素化で移行する「地域循環共生圏」とはどういう社会なのか!?

[Special Interview]

 中田誠司(大和証券グループ本社社長)

 「SDGsを経営戦略の根幹に据えることで企業は成長する」

[NEWS REPORT]

◆稲盛哲学を学ぶ盛和塾解散を塾生たちはどう聞いたか

◆米中経済戦争の象徴となった「ファーウェイ」強さの秘密

◆EV時代にあえてガソリンエンジンにこだわるマツダのプライドと勝算

◆それは自由か幸福か——「信用スコア」で個人の信用が数値化された世界

[特集2]関西 飛躍への序章

 大阪万博開催で始まる関西経済の成長路線

ページ上部へ戻る