マネジメント

 明治維新の立役者、西郷隆盛と大久保利通は、なぜ幕藩体制を打ち破るリーダーとなり得たのか、そしてどう育てられたのか、歴史家・作家の加来耕三氏に話を聞いた。文=古賀寛明

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かく・こうぞう 1958年、大阪市生まれ。奈良大学文学部史学科を卒業後、学究生活を経て、84年より、奈良大学文学部研究員。現在は大学・企業の講師をつとめながら、歴史家・作家として活躍している。


原石の西郷を磨いた島津斉彬の教養と情報

 来年は、明治維新からちょうど150年目に当たります。このタイミングで節目の年を迎えるのも何か理由があるのかもしれません。

 というのも、日本は今、歴史的に見て4回目の開国というべき時期を迎えています。最初の開国を大化改新と考えれば、2番目が明治維新、3番目に昭和20年の終戦、そして4番目である現在は国境というものが意味を持たなくなってきました。

 大きな時代の変革期――その1つである明治維新から、私たちが学ぶべきことは多く、参考になるはずです。たとえば、幕末期のリーダーがどのように誕生したかといえば、やはり育てた人がいました。

 例えば、幕末の四賢侯のひとりである島津斉彬は、三百諸侯の中で最も頭の良い人でしたが、それ以上に本質を見究められる人でした。その証左が、いち早く日本の危機を見抜いていたことです。よく黒船が来たことで明治維新が始まったとされますが、維新のきっかけはアヘン戦争です。

 当時、清国には3億5千万人の人口があり、軍隊は88万人いましたが、述べ2万人ほどだった英国軍に負けたのです。斉彬は、その原因が封建制だと気付いていました。封建制はブロックごとの統治ですから、人々が考えるのは州や藩のことだけ。つまり国民不在で、日本では諸侯と幕府だけとなります。だから、斉彬は国をひとつにするしかない、と考えたのです。

 同時に斉彬は、清国の敗因を研究し、「物理と科学」の重要性を痛感します。そこでいろいろと試しました。日本人で初めて写真を撮り、幕府に隠れて船も造っています。そして彼の側にいたのが西郷隆盛でした。

 斉彬は、西郷を水戸の藤田東湖や越前福井の橋本左内など、当時の優れた人物に会わせることで時代の感度を磨かせました。江戸期は今と違い、優秀な人は江戸だけでなく全国各地に散らばっており、紹介状を持って訪ねて行く時代でした。そして、それがネットワークになっていったのです。

 また、西郷がなぜ、明治維新の英雄になれたかというと、それは彼の経歴が誰よりも長かったからです。他の人材はみんな安政の大獄で死んでいます。西郷も死のうとしたけれど、生きながらえました。

 世の中を変えて行く人物には出る順番があります。まず、横井小楠や佐久間象山といった予言者のような人物があらわれ、次に、実行する人たち、いわゆる幕末の志士たちが登場する。そして、彼らをまとめていく人間が必要になってくるわけです。

 戦国時代をみると、信長、秀吉と続き家康で初めて時代が落ちつきました。先頭を切る人がいて、必ず非業の最期を遂げる。その次の人間もいいところまでいくけれど危うい。家康は尻尾についていて、最後に天下を拾ったというわけです。

 幕末も第一世代の中で西郷が残り、斉彬の命で日本中をまわっている間にできた人脈が彼を磨いていく。しかし西郷は、国を一つにしなければならない、といった方向性やそこに至る青写真は教えられていたものの、斉彬が急死したことで、武装上洛以降のことは学んでいなかった。結局、幕府をつぶした後のことは分からないままでした。

 そこが西郷の限界だったわけです。守破離の言葉でいえば、破も離もできなかったのが西郷の悲劇でしょう。

 一方、大久保利通は斉彬のころは不遇をかこっていましたから、改革の青写真も知らなければ人脈もなかった。しかし、斉彬の弟で藩主の父である島津久光が実権を握ると、久光の命令で動かざるを得なくなります。

 はじめは西郷を頼ってばかりでしたが、最後の討幕のころには、逆に西郷をリードするようになっていきます。明治に入ってからも岩倉使節団で欧州に行き、ビスマルクの富国強兵、殖産興業という策を取り入れるわけです。しかし、彼も凶刃に倒れる。そして、伊藤博文が残ったというわけです。

危機があらわれる前に“非常の才”を見つけておく

 人物には出てくる順番があると言いましたが、リーダーというのは人間の組み合わせということもできます。ただ、基本は“非常の才”が必要です。平時に役立つ人間は非常時には全く役に立ちません。企業の講演会でも、「西郷さんや坂本龍馬をどうやったら採用できるでしょうか」、という質問がよく挙りますが、「そもそも企業が採用しない人が、彼らですよ」と。西郷は政治犯、坂本龍馬は逃亡犯ですからね(笑)。

 そもそも西郷にしても大久保にしても、他の藩に生まれていれば、絶対に成功できなかったはずです。剣が立つわけでもない、頭だってずば抜けて良いわけではない。大久保は頭が良かったですが、学問はせいぜい中の上レベル。

 一方、佐賀藩は優秀じゃないと家禄が削られます。どこの藩でも、選ばれるのは秀才ばかりです。でも、薩摩だけは基準が違う。「泣くよか、ひっとべ」という言葉に象徴されますが、勇気を示せる者が選ばれた。そういう英雄のつくり方もあったわけです。

 また、“非常の才”を見抜く場合、上の者の才も問われます。自分と同じ才能なら分かりやすいですが、異才を見抜けるというのは、よほど度量のある人でなければなりません。そういった意味では現在、育てられる人間がいるのかが疑問です。

 日清戦争の例が分かりやすいのですが、当時、国力を比較すると清国が50で日本は1くらい。でも、英国だけは日本が勝つと公言していました。その理由を「日本人は自分たちで船を動かし、修理も自分たちでする。一方、清国は、船を欧州から購入し、動かすのも欧米人。彼らに忠誠心はない」というのです。結果は、ご存じのとおり。こうした数と力に頼る解決策を採れば、結局は何事もなし得ないということです。

 日本の企業もいつしか教育できる人間がいなければ外部から専門家を呼んでくるようになりました。何としてでも自分たちで次のリーダーを育てよう、とはしません。かつての清国のような大国的な意識になってしまっている気がします。

 人材がいるかいないか、いないのなら、どこから連れてくるべきか。危機が見えてしまってからでは遅いのです。西郷や大久保が誕生したのは、島津斉彬が黒船よりも前、アヘン戦争の時に危機を感じ、“非常の才”を意識して育てたからでしょうね。(談)

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