政治・経済

 その経歴は異色だ。京都大学工学部土木工学科卒業、また大学では体育会の相撲部主将。読書家でどんなに忙しい時でも本を離さない。

 自身のHPには月に10~12冊もの書評を出すコーナー「私の読書録」もある。早くから公明党のプリンスと呼ばれ、党代表を務めた後、第二次安倍政権では国交大臣を務めた。財界、文化界などにもパイプを持つ。

 太田昭宏衆議院議員(71歳)の特徴は、そうした多彩な活動が幾重にも折り重なって生まれる「思いもつかない発想」や「創造」がその政策に表れることだ。国交相時代には、防災や観光立国など独自の行政や事業も実現してきた。これまで安倍政権を連立で支えてきた立場だが今、政権や政治家に必要なのは「時間軸」だと語る。未来を読み解き、逆算して、今やるべきことがあるのではないか――。言い換えれば、未知の時代へ大きな危機感を抱いていると言ってもいい。太田氏を直撃した。聞き手=政治ジャーナリスト/鈴木哲夫 Photo=幸田 森

 

太田昭宏の主張①生命倫理の問題を憲法に規定すべきではないか

 

201710OHTA_P02

おおた・あきひろ 1945年生まれ、愛知県出身。71年京都大学工学部大学院修士課程修了。公明新聞記者などを経て、93年旧東京9区より衆議院議員に初当選。前公明党代表、前国土交通大臣、前水循環政策担当大臣。公明党全国議員団会議議長、東京第12総支部長、首都直下地震対策本部総合本部長。

―― 「時間軸」とはどういう意味ですか。

太田 安倍政権で国土交通大臣を3年弱やらせていただいて、また党に帰って、選挙などに力を注いできているという現状ですが、心の中にあるのは、ものすごい激動の時代というのが今だなと。目の前の対応に追われた政治だけでは、とても政権の役割は果たせないという思いが日に日に募ってきましてね。時間軸というのは、10年先、20年先、そこを見据えて時代を想像して、今何をやるかということです。

―― 太田さんは10年先、20年先に何を見るのですか。

太田 まず人口減少・少子高齢化です。2025年は、団塊の世代が75歳以上になり深刻だと言われているが、30年になった時には、さすがにご夫婦とも元気いっぱいというわけにはいかないかもしれない。そういう意味では、30年問題と言ってもいい。今から約50年前の1966年、オリンピックの直後に人口が1億人になりました。

 そのとき、65歳以上のお年寄りが700万人。そしてこの先人口が減って47年くらいにはまた1億人くらいになりますが、そのときの65歳以上の人口はなんと4千万人。介護や医療といった問題と同時に、社会保障の財源もやらなくちゃいけない。人口減少・高齢化社会は、労働力が落ちていくことでもあるので女性に活躍していただくことが大事で、そのためには安心して働けるように子育て支援をしっかりしていく、保育園を充実させる、待機児童をなくしていくということも必要です。

 13年の時点で、待機児童が40万人とか50万人といわれましたが、実際調べてみると、潜在的な人数も含め80万人だったという資料もあります。これを税金だけでやるのではなくて、行政も、市町村も、あるいは民間も多いに参入していただき、子育て支援という仕組みを整備しなければなりません。

―― 子育て支援は遅れていますね。

太田 もうひとつはAI、つまり人工知能やロボットの時代、IoTやバイオテクノロジーの時代が、急速に進んでいます。人口構成や高齢化という問題以上に、なかなか実感が得られないものだから、集中的な政治の取り組みは遅れていると思います。30年までは、特化型AIの時代で、30年からは汎用型AIの時代であると区切って考えている方がいます。あるいはカーツワイルが、45年に、AIやロボット、機械の総和が人間の頭脳を超える時代が来ると言っています。

 特化型AIの時代は、イメージしやすい。例えばドローンで物を運ぶにも、楽に運べるようになってきます。これがあらゆる分野、観光でも、物流でも、各企業でもどんどん広がっていく。これからは人間はロボットやAIをどう利用するかという時代になるということです。

―― しかしそのあとには汎用AIの時代になる。

太田 そうです。30年から汎用型AIの時代に進むと、人間よりもロボットのほうが優秀だから、仕事がどんどん減っていって、人間ではなくAIが先に動く時代になって、その行き着く先がカーツワイルの言う恐ろしい世界に入っていくんです。生命倫理などについても早くから手を打っていかないといけない。

 例えば眼にロボットを埋め込めば、今の人間よりももっとすごい感覚を見聞きできるようになる。そうなったら、果たして人間とは何かという哲学的な問いを発するような時代になります。今は人手が足りない時代になっているから、モノを運ぶ時には無人でAIがつなげていくこともできるけど、AI自身が動くことになると話は変わってくる。

―― もはや人間社会の想像を超えますね。

太田 AIを使うことで急速度に社会は価値観も倫理もすべて変わっていくということを今からしっかり想像しなければならない。アメリカがこの技術を掴んでいくと、アメリカがヘゲモニーを握る。あるいは一般企業がその技術を掴むと、企業が一人勝ちになる。こういう恐ろしい時代のスタートラインが今です。

 それを具体的に、どういう風になるだろうと想像して、日本企業が後れを取らないように、先端を走れるように持っていけるかどうか。AIを人間のために、と抱き込むだけの構想力と、科学技術を理解する力を政治家は少なくとも持っていなくちゃならない。今、制度設計を誤ってはいけない。政治も企業も、経済界も一致して、世界の中の最先端を切り開けるものにしなければいけません。

―― 生命倫理の問題というのはショッキングですよね。

太田 実は私はこの間の憲法審査会で、生命倫理という問題は憲法にも規定する必要があるんじゃないかと問題提起したんです。AIの時代を見据えて、憲法についても今何をすべきなのか。人間とは一体何であるのか、ロボットとAIと、人間の特性というのは一体何であるのか、10年後とか、20年、30年後の日本はこういうものにしなくちゃいけないという骨格をつくるのが、今の憲法論議でなくてはならないと思っています。

 

太田昭宏の主張②インフラは防災、減災と経済発展の土台だ

 

―― 国交大臣をやってこられた経験から、どうしても聞きたいのは防災への取り組みについてです。地震だけでなく、最近では豪雨災害なども頻繁です。

太田 日本ほど災害が多く、地震や台風があるという国土というのはないんです。日本は、インフラ整備というのを非常に軽く見ていますが、私はもっと力を入れなくてはいけないと思っています。インフラ整備というのは、防災、減災という面と、経済発展の土台になっていく「成長のエンジン」という意識をもっと持たなくちゃいけないと思っています。

―― 先日も北部九州で集中豪雨被害が出ました。

太田 防災・減災でいうと、完全に雨の降り方が局地化、集中化、激甚化しています。そんな中で、私が国交大臣のときに、大きな河川にはタイムラインというものを設定しました。大雨の予想の5日前、3日前、1日前、12時間前にはどうする。学校や鉄道はどうする、福祉施設はどうすると、すべて時間を追って順繰りに決めていくんです。2年前、関東の荒川で私がタイムラインを作り、それを全国の大きな河川で広めていった。

 川については堤防、ダム、遊水池などハード面はもちろんいろんな方法があるけれど、そもそも日本は無理矢理制御するような河川工学ではないんですよ、日本は川をなだめる、という考え方なんです。

―― 土木工学。まさに専門ですね。

太田 力づくで制御するのではなく、色んな手法を組み合わせながら川をなだめるということです。去年から出て来ている現象は、特に中小河川は山の中で突然雨が降ると、川幅が狭いから一気に水かさが上がって、逃げる間もなくなって、崖崩れ、土砂崩れが起こって、民家がやられる。もうひとつは、大きな流木が凶器のようになぎ倒していく。市町村長さんが避難命令を発するタイミングを失うんです。

 またそれだけの情報・経験がない。中小河川はタイムラインもまだできていません。ハードとソフトを組み合わせて、タイムラインなどをしっかりやっていかないと、毎年同じことが起こります。大河川、中小河川、地震、津波、それぞれについて体制をしっかり組むことがこれからは特に大事です。

 

太田昭宏の主張③地方創生は「右手に観光、左手に道の駅」

 

201710OHTA_P01― 太田さんの国交大臣時代に海外からの観光客が飛躍的に伸びましたね。

太田 第二次安倍政権の最初のときには、まず1千万人、そして20年に2千万人と言っていましたが、早くも今年2700万人台になるところまできました。国交大臣になってから、日本を観光立国、観光産業を活発にしたいと常に思っていましたから、海外プロモーションの強化やビザを緩和したり、免税制度を大幅に緩和したり、表示を変えたり、外国語対応のWi-Fiを設置したり、相当やったんです。

 それから、空港と港湾の整備です。観光の観点からいうと、港の整備は日本は正直遅れていました。クルーズ船で海外から来る観光客は、私が大臣をやった最初の年だと17万人でしたが、今やほぼ200万人になっています。岸壁整備とか税関の人件費が大変ですが、その体制を組んだり、港ではやることがたくさんできてきました。航空では特にLCC。地方空港にLCCで降りてきて、そこから日本全国にまた飛んでいくというシステムが進みました。

―― ハブ空港ですね。

太田 そうやって海外からの観光客が「地方イン、地方アウト」でどんどん行くように、地方がいろんな知恵を出さなければなりません。地方の首長さんがやる地方創生は、昔は企業誘致でしたが、今は「右手に観光、左手に道の駅」と僕は言っているんです。道の駅は増えて1117カ所にもなっており、大きな経済効果と賑わいをもたらすんです。それと地方創生のポイントは、隣接する都市が違う個性で一緒にやるということ。違う個性であるがゆえに、物理学でいうと対流現象が起こると、14年、「国土のグランドデザイン2050」で発表した「対流促進型国土」の形成です。

 

太田氏の信条に、「現場主義」というのがある。「現場には空気があり、においがあり、政策の優先順位が分かる」と話す。国交相時代は災害現場はもちろん、今も選挙区の東京のあちこちを視察して、住宅問題、バリアフリー、保育問題などをその目で見て、法律を変えなくとも、制度を組み換えたり条例をうまく活用するなどして解決している例がたくさんある。太田氏は71歳だがバイタリティは並みではない。少子高齢化やAI時代に向けて、有識者や官僚などと、いわば「時間軸」勉強会も重ねている。その成果はぜひ政権に直言してほしいものだ。

(すずき・てつお) 1958年生まれ。フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリー。20年以上にわたって永田町を取材、豊富な政治家人脈で永田町の人間ドラマを精力的に描く。テレビ・ラジオでコメンテーターとしても活躍。近著に『ブレる日本政治』(ベストセラーズ)、『政治報道のカラクリ』(イーストプレス社)など。

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