国際

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

植田大介・ザ・カハラホテル現地副社長プロフィール

植田大介PHOTO6-1

(うえだ・だいすけ)1968年生まれ。神戸市出身。父親の仕事の関係で、幼少期からサンパウロ、メキシコ、パナマで暮らす。中学、高校時代は日本で過ごし甲南大学法学部を卒業。大阪ヒルトンに就職した後、フランスのホテル専門高校に留学。帰国後、神戸のシェラトンホテルや焼鳥屋のアルバイトを経て、米コロラド州デンバー大学ホテル・レストラン学部に留学。卒業後はハワイ・マウイ島のハイアット・リージェンシー、グランドハイアット・ニューヨーク、上海のシャングリラホテル、ペニンシュラ東京、ザ・リッツカールトン日本支社など外資系ホテルを渡り歩く。2014年、リゾートトラストがハワイのザ・カハラホテルを買収したのを機に同社にヘッドハンティングされ、現地副社長に就任する。

現地従業員にも夢を見させたいと考える植田大介氏

イゲット ホテル運営はチームプレイが重要だと思いますが、アメリカ人の従業員をまとめるのは難しくないですか。

植田 NYでは難しかったですが、ハワイは日系文化も浸透しているし、アジア系も多いので比較的楽ですね。

イゲット ただ、カハラホテルはワイキキから少し離れた場所にあるし、文化の違いも理解したうえで運営しなければならないので、難しい部分はある気がします

植田 その点では、リゾートトラストは難しいホテルを買ったな、とは思います。

イゲット 私たち現地の人間は、カハラホテルがどう変わるのか楽しみにしています。日本の会社が買ったことでどういう形になっていくのか。

植田 いったんは日本でのサービスを全部持ち込もうとしていましたが、こちらの土壌が準備できていないため、できないこともありました。ですから、たくさん試行錯誤して、現地の従業員に自由な発想を持たせてやってみて、間違ったら修正すればいいという体制に持って行きました。

イゲット 人材育成やソフトの面でも、日本と違う部分が多いですからね。

植田 世界的に中堅のホテリエは人材不足になっていて、若い人たちが目指す業界ではなくなっています。われわれ中堅の人材が、若い人たちに夢を見させることができなかったことも理由の1つです。ホテルは初めのうちは給料が低くて、夢はあってもそれに耐えられる人がなかなかいません。

イゲット アメリカのホテル業界はヘッドハンティングも盛んですよね。

植田 中堅以上はそうです。ホテル業界は横のつながりが強く、人の出入りが激しいので安定しないという特徴があります。日本ではなかなか理解されない仕組みですね。こちらでは、やはり人を育てなければいけないということで、10人ほどごぼう抜きでナンバー2に抜擢した人材がいます。やはり夢を見させてあげないといけませんから。彼はプリンストン大学を出ていますが、どちらかといえば「出る杭」だったので言いたいことを我慢していたところがありました。僕は3年間彼を見ていて、前のナンバー2が退社した後にチャンスをあげることにしました。意思決定機関である、エグゼクティブコミッティにも参加できるようにしました。

植田大介氏の信念 優れた人材にはそれなりの報酬を

イゲット 以前、カハラホテルを投資会社が買ったときに、私はそこのスパスウィートで働いていました。その前はハレクラニにもいたんですが、正直、ハレクラニのほうが人材育成にお金をかけているなと感じていました。投資会社が運営していたときは人材育成に力を入れていなかったので、従業員は可哀想でした。

植田 日本でホテルに勤めている若い子たちは、仕事に対して夢を持ちたいと思っていますが、こちらでは仕事は生活の手段と割り切っている人が多いと思います。仕事に対する考え方にはギャップがありますが、それでもハワイの人たちに夢を見させてあげれば、自分もやってみようかなと絶対に思うはずなんです。お客様にありがとうと言われて嫌な気持ちになる人はいないですから。

イゲット ハワイは観光業がメインの島だから、ホテルの仕事に関わっている人も多いですからね。

植田 ただハワイは生活費が異常に高いため、仕事ができる人はアメリカ本土に行ってしまうという問題があります。ハワイでは人材が育てにくいし、育てても出て行ってしまいがちです。だから人材育成に力を入れるのは、リスクが高いことでもあります。ハワイ大学にも観光学科がありますが、卒業生はどこで何をしているのか、ウチには全く来ないんですよ。

イゲット やはり、お給料の良いメインランドの企業に行ってしまうんでしょうね。

植田 良い人材はちゃんと掴んでいかないといけません。

イゲット 日本は優秀な人に対する人件費が低すぎると思います。

植田 優秀な人に対しては、それなりの報酬を払わなければ来てくれないということに、慣れていないんですね。

カハラホテルもビジョンを持てば世界ランカーになれると語る植田大介

植田大介PHOTO8イゲット 私は、世界の子供はこんなふうに育てられているということを伝えたくて『経営者を育てるハワイの親、労働者を育てる日本の親』という本を出したので、ぜひ読んでみてください。今、子育てをしている親御さんやお孫さんに買っていただいている方もいるようなので、嬉しく思っています。

植田 日本の教育はリーダーを育てようとは全くしていなくて、大企業もしもべが欲しいところばかり。それは、日本で過ごした小学3年生、4年生の時と、大学生時代に強く感じました。

イゲット 優秀なサラリーマンを育てる教育を、私たちは受けてきたんだなと思います。ビジネスの世界に入った時に、その影響がどれだけ出るかというのを知ってほしいです。

植田 細やかなところは日本人の素晴らしさですが、それが理解できるのはおそらく日本人だけなんです。外国人は「すごいね」とは言うけど、決して自分たちが真似しようとは思わない。細かいのは良いことなんですが、いわゆるグローバルスタンダードではないことは知っていただきたいです。

 たとえば、なぜ人材を採用する側が応募者の細かいところにこだわるかといえば、採用する側もマニュアルに沿っているに過ぎないからなんですね。誰が作ったマニュアルかは知りませんが。

イゲット 今後は日本でも能力ある人が転職してキャリアを積んで、給料が交渉次第で変わっていくような世界になるかもしれないですね。

植田 その方向性を分かっている方たちも既に結構いて、例えばソニーさんは人材採用を自由にやらせるし、金も出すし、さすがだなと思います。

イゲット ソニーさんは社会貢献活動への寄付の意味もよく知っている会社ですからね。

植田 そういう会社が日本には少ないんですよね。

イゲット カハラホテルは規模も大きいので、植田さんが抱えている責任も大きいですね。

植田 カハラホテルは、世界ランカーに絶対なれるはずなんです。そのようなホテルにしていきたいので、きちんと人材を育てて、ビジョンをしっかり打ち立てていきたいと考えています。

イゲット 植田さんの人生は一冊の本になりそうなくらい波乱万丈ですね。

植田 こんなにたくさんの試練を貰う人もいない気もしますが(笑)。

イゲット それは、少年時代にお寺に住んだところから始まっているのかもしれないですね(笑)。

植田大介氏の夢 死ぬまでに5人の弟子を育てたい

イゲット 先に海外に出た人間として、自分たちが生まれた日本を応援したい気持ちは強く持っています。今後、日本で育つ子供たちを世界で生きていけるようにしたいな、と。

植田 ただ、水を差すようですが日本にずっといては無理だと思います。外に連れていって特殊な環境に置かれないと人は成長しません。

イゲット 今後の夢について教えてください。

植田 最終的な夢は、自分が死ぬ間際に枕元にいろんなホテルで活躍する5人以上の弟子がいて、「自分は植田大介に学んで頑張ってきました」と言ってくれることですかね。

イゲット では、これから5人育てないといけないですね(笑)。

植田 まだそこまできていないですからね。ただ、カハラに携わることができて本当に幸せですし、ホテリエが世界に何人いるかは知りませんが、その中でも結構楽しいことをさせていただいていると思います。感謝ですね。昔はカハラの名前が世界にとどろいていたので、もう一度「ハワイならカハラだよね」と言われるようにしたい。そうなれば、僕のカハラでの仕事は終わります。

イゲット すごく楽しみです。

植田 うちの会長には「日本人を3割以上には絶対にするな」と言われました。世界で戦うんだと。それにはすごく感銘を受けました。ハワイの高級ホテルは世界中の人から見てもらっていますから、世界に名をとどろかせるための土壌は既にあるんです。あとはいかに良い人を育てるか、いかに見せていくか、そして見せたことを実行できるか、だと思います。植田大介×イゲット千恵子(前編)

ChiekoEggedDSC_3145(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

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