政治・経済

書店の数が減り続けている。かつてはどこの駅前にもあった町の書店は消え、いまや郊外の大型店舗でさえ減っている。ネット書店の隆盛や電子書籍の登場もあるが、出版社自体も元気がない。活字文化もこのまま消えゆくかと思いきや、マイナス面を逆手に取った新たな取り組みも始まっている。文=古賀寛明

減り続ける書店の生き残り策は?

 出版不況と言われて久しい。紙の出版物は1996年の2兆6564億円をピークに下がり続け、2016年は1兆4709億円にまで減少している。中でも雑誌は前年比5.9%減の7339億円で、41年ぶりに書籍の売り上げを下回るなど書籍以上に落ち込んでいる。そのあおりを受けて、書店も数を減らしているのは周知のとおり。

 先日も出版取次大手の日本出版販売(日版)が、グループ書店の最大1割を18年3月期中に閉鎖すると報じられた。実際、多くの街の書店が店を閉じ、全国で2万店以上あった店舗数も、現在、1万2千店舗ほどまで減っている。しかも、営業所や本部、外商部門も含まれるため、実際の書店数はもっと少ない。

 さらに問題は、先日新聞でも報道され話題となった、書店のない自治体が増えてきていること。取次大手のトーハンによれば、北海道では、58もの自治体に書店がないという。その他、無書店自治体を抱える都道府県を多い順にあげると、長野41、福島28、沖縄20、奈良19といった具合で、香川県以外のすべての都道府県に書店のない自治体があるということだ。ほとんどが町や村といった比較的規模の小さな自治体だが、中には熊本県の合志市や鹿児島県の垂水市、政令指定都市でも堺市の美原区、広島市東区、安芸区が書店ゼロとなっている。

 このように数字やデータなどを見ていくと、活字離れに拍車がかかっており、まさに出版文化の危機、といった様相を帯びてくる。

 とはいえ、ネット書店を利用すれば本も雑誌も買うことはできるし、紙に固執しなければ電子書籍を利用する手もある。また、情報収集手段としては、既に本や雑誌から主役の座はインターネットに移っており、ネットの中でもパソコンからスマホなどのモバイル端末へと役割が移ってきている。

 出版文化の危機といくら叫んでみても、電子機器が利用できない事態になったほうが、よほど事は重大であり、パニックが起きるのは間違いない。では、このまま本当に雑誌や書籍といった紙の媒体はなくなっていくのであろうか。

行く理由があることが生き残る理由

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湊かなえさんの書き下ろし小説『城崎へかえる』は、カニの殻を思わせる箱に入っている

 残念ながら、出版社や書店の倒産は今後も続いていくに違いない。しかし、全くゼロになるかといえばそんなことはない。生き残る書店は必ずある。そして、生き残るにはそれだけの理由がある。

 例えば書店数は減っているが、1店舗当たりの売り場面積は増えている。つまり、減っている書店の中心は中小の書店であることが分かる。その証拠に、大手書店は業績も堅調。紀伊國屋書店は昨期、減収ながら6期連続の増益を果たしている。その裏には売れ筋だけでなく、文化の担い手として良書を揃えているブランド力が顧客に知れわたっているということが大きい。以前、紀伊國屋書店の高井昌史会長兼社長にインタビューした時にも、「新宿本店には蔵書が120万冊ありますが、年に1冊も売れていない本がたくさんあります。本は、読まれるものだけを置いてはだめなんです」と、書店の役割のひとつが、「知を守る」ことだと述べている。そういう意味でも、こうした知の殿堂の役割を担う書店はこれからも生き残っていくのは間違いない。

 そして、もうひとつ生き残る書店のタイプとして、蔦屋書店のようなタイプが挙げられるだろう。

 カフェが併設され、並んでいる本も新刊本や売れ筋だけではなく、ジャンルごとに専門家が選んだ書籍が並ぶセレクトショップのようなつくりになっている。東京の代官山にある「代官山 T‐SITE」や世田谷の二子玉川にある「蔦屋家電」で成功したモデルは、いまや全国に広がり、多くの人をひきつける。本もそうだが、店舗の空気感を求めて来店する人は多い。このスタイルもまた、これまで書店の大きな役割であった、店内を歩き回ることで、その時代の空気感や流行をつかめるといった欲求に応えている。

 いずれにせよ、書店というのは新たな発見をもたらす場であり、今後もこうした文化の拠点であるか否かが、生き残るかどうかに関わってくるに違いない。だが、いかんせんその数は減っており、本や雑誌を通した新たな発見や偶然に出合う機会は減っていく。

 しかし、これまでの当たり前を変えることで、本の可能性を高める取り組みも始まっている。日版、トーハンに次ぐ取次3位の大阪屋栗田が始めた書籍の少額取引「Foyer(ホワイエ)」というサービスがそう。今年1月からスタートしたこのサービスは、本屋以外の例えば、カフェや美容院、ペットショップなど、本屋以外でも取次から本を搬入して販売することを可能にした。

 これまで、雑誌や本の取引を始めるには売り上げ規模によって保証金が必要であるなど、初期投資が参入する大きなハードルとなっていた。しかし、ホワイエを利用すれば本や雑誌代以外に初期費用は必要なく、保証金もいらず、返品も可能で、さらに1冊から取り寄せることができる。このサービスの誕生によってあらゆる場所で本と接することができるようになる。つまり、各地にオンリーワンの書店が生まれることになるのだ。例えばサッカー専門のスポーツショップであれば、サッカー専門誌だけでなく、トレーニング方法や栄養学、テーピングの巻き方といった需要もあるはずで、カフェであっても珈琲専門店であれば珈琲の淹れ方や豆の産地のガイドブックなど、一般の書店であればマニアック過ぎて入荷できない本であっても需要が見込め、本業との相乗効果を生むことができる。

 ホワイエを担当する大阪屋栗田の営業企画課に聞くと、9月現在で利用は60件ほど、カフェや家具屋、子ども用品店に山岳ショップなど利用する業種はさまざまだという。また、鹿児島県薩摩川内市の上甑島では、豆腐屋さんが本を販売しており、このケースは、大阪屋栗田が願っていたもののひとつだという。この島のような書店空白地問題の解消につながれば、という思いもこのサービスのきっかけのひとつだからだ。

ここでしか得られない価値で勝負する

 ネット書店や電子書籍は、どこでもいつでも利用できるサービスで、その利便性が、これまでのような本を買うには書店に行かねばならない、注文しても長く待たされる、買ったはいいが重い本を家まで持って帰らなければならない、といった既存の書店への不満を解決して多くの支持を得た。ところが、書店で得られる発見や偶然の出会いはリアルな店舗でしか得られない。今後は、わざわざ足を運ばなければ感じられない、そこにしかない魅力で勝負することが求められていくだろう。

 それは、出版の世界でも起こっている。志賀直哉の『城の崎にて』で知られる兵庫県の城崎温泉では、13年、志賀直哉来湯100年を記念して、ブックディレクターの幅允孝氏の協力のもと、出版レーベル「本と温泉」がつくられた。面白いのは、このレーベルの本はこの城崎温泉でしか買えないこと。つまり、読みたければ城崎温泉まで行くしかないということだ。

 これまで、志賀直哉の『城の崎にて』、『注釈・城の崎にて』の箱入り2冊組を皮切りに、14年には第2弾として、万城目学氏の書き下ろし小説『城崎裁判』を、そして16年には第3弾、湊かなえ氏の書き下ろし小説『城崎へかえる』が出版されている。本の装丁にも工夫がされており、『城崎裁判』は、ストーンペーパーという耐水性の高い紙を使用し、カバーにはタオルというまさに温泉地ならではの本になっている。また、『城崎へかえる』も、本物のカニの殻を思わせる箱に入っているなど、遊び心も満載。

 いずれも現代の人気作家だけに、作品読みたさに城崎温泉を訪れているという。9月9日からは、城崎文芸館で企画展「湊かなえと城崎温泉」を行っており、本の新たな楽しみ方を教えてくれる。

 こうした地域を盛り上げるプロジェクトに起用されることや、書店以外のショップやホテルといった、ほかの何かと掛け合わせることで、本はさらに輝きを増していく。本ができることはまだまだある。

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