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「自民党のしがらみ政治をぶった斬りたい」―若狭 勝(衆議院議員)

安倍政権に対抗する新しい受け皿を作ると新党設立に動く「日本ファーストの会」代表の若狭勝衆議院議員。野党の準備が間に合わないうちに安倍首相が解散総選挙を打つ可能性もあるとして「危機管理上、新党の準備を急ぐ必要がある」と若狭氏は現職国会議員のリクルートや候補養成のための政治塾を進める。

ただ、新党は明らかに小池百合子・東京都知事の国政での実働部隊である「小池新党」そのものだと私は見る。都知事選挙以降、2人は行動を共にしてきた盟友。「『自民党というしがらみ政治やそれにつながる人間関係などを断ち切って新しい政治を目指す』と、知事選、都議選、そして国政とシナリオどおり」(小池知事周辺)なのだ。

その新党についての準備状況や肝心の理念・政策は見えない部分が多いが、若狭氏を直撃した。聞き手=政治ジャーナリスト/鈴木哲夫 Photo=幸田 森 (※本インタビューは8月30日に行われた)

若狭 勝氏プロフィール

若狭 勝

わかさ・まさる 1956年生まれ。東京都出身。80年中央大学法学部を卒業、司法試験に合格。東京地検特捜部検事、横浜地検刑事部長、東京高等検察庁検事、東京地検公安部長などを歴任。2009年4月に弁護士登録。14年、衆院選比例東京ブロックにて初当選。17年日本ファーストの会を立ち上げ代表に就任。政治塾「輝照塾」を立ち上げる。

新党の公約として国会議員の半数を女性に

―― 新党と言っても大事なのは理念や具体的な政策ですね。

若狭 新党の理念はハッキリしています。しがらみのない政治をやるということ。私は、検事のときからずっと自民党政治の奥深いところを国会議員の誰よりも見てきました。見てきて、一言で言うとしがらみ政治なんですよ、自民党政治の特質は。

―― いろんな内偵捜査で見てきたわけですね。

若狭 検察時代の仕事は言い換えればしがらみ政治との戦いみたいなものでした。自民党政治には、特定の団体や組織などのしがらみがある。いくらいい政策を打ち出しても、実行するときには必ずしがらみで後退したり曲げられて実行されてしまう。防衛、社会保障、医療、経済政策などあらゆる分野でそれを見てきた。私の新党はそれをぶった斬りたいということです。そしてそこにも直結することになりますが、『女性』というキーワードが出てくるんです。

―― しがらみ政治からの脱却に「女性」が活躍する。

若狭 新党の公約として、最終的には国会議員の半数を女性にするのを目標にしたいと思っています。そのためにはまず私たちの新党の候補はできるだけ男女を同数にしたい。

9月から始めた政治塾「輝照塾」やその他いろいろなところからの推薦などからも女性候補をしっかり選びたい。特に政治経験のない女性はしがらみがないから、私のしがらみ政治の鬼退治には一緒に参加できるわけですよ。

染まってないから。目線がしっかりしてるし、女性の観点で意見も言える。間違いなく国会は活性化する。だって今の女性議員の比率って市川房枝さんとかがいらっしゃった時代とほとんど変わらないんですよ。これだけ女性活躍だとか言っていながら、実態は絵に描いた餅みたいになっているということです。

若狭勝氏が一院制を提唱する理由

―― 確かに永田町は女性に対して門戸が開かれていない。

若狭 それから、政治がもっと活性化して、深い議論をしかもスピーディにやるためには、国会改革として一院制を提案したい。今の参議院は衆議院のカーボンコピーみたいになってるわけですね。予算委員会でも衆参で総理大臣をそれぞれ8時間拘束してどうのこうのって、今の時代に対応する政治の姿勢として、そのスピードの欠如っていうのは国際的にも絶対考えられない。

何より一院制にすると、議員定数が衆参合わせて今の5分の3ぐらいに激減できる。法制局だとか事務局なんか2つあるのも半減してコストダウンもできる。

―― しかし参議院は良識の府であり、衆議院をチェックする役割がある。これをなくしてもいいのか。

若狭 慎重審議という意味で二院制は必要という考えは確かにそうです。しかし、一院制にしてもっと活性化された議論ができると私は思います。

例えば、今注目されている憲法9条の問題。安倍首相が1項、2項をそのままにして3項に自衛隊を明記するという案を示しましたね。自衛隊は合憲なんだから明記すべきだということですが、私は専門家だから言うけど、学問的にはもはや今の条文、今の時点で自衛隊は合憲だという考え方が強いんです。なのに、その議論はこれから国論を二分して同じことを同じだけの時間をかけて時間が費やされることになる。

例えば憲法改正論議も一院制になったほうが、集中的に深い議論になるんじゃないでしょうか。実は一院制にしようという議連があって安倍首相、二階俊博幹事長、麻生太郎副総理兼財務相なども名を連ねているんです。なのになかなか前へ進まないのは、総論賛成、でも各論になると、まさに、国会議員が選挙における自らの保身、いわば既得権という、しがらみを抱えているからなんです。

―― ここでもしがらみですね。

若狭 あとは、党議拘束を取っ払いたい。今の国会ってほとんど死んでいると思うのは党議拘束があるからです。それがあるために議員は勉強しない。政策について、賛成か反対を上の者が決めてそれに従うんだから勉強したって意味がない。単なる賛成反対のマシーンに、ロボットにすぎないわけですよ。まあ何人か勇気のある人は、党が決めた結論にちょっとぐらいはジャブを入れるけど、心底反対するなんて気概のある議員は少数です。

少子高齢化の時代には経済政策の発想を変えるべき

―― 経済政策についてはいかがですか。

若狭 経済政策では、発想を少し変えて相続税を根本的に変えたい。相続税って税収ではパイが少ないんです。それを生前贈与みたいな形で無税枠にする。一親等や二親等の子どもや孫に生前贈与するときは原則贈与税を取っ払ってどんどんお金を動かして行く。

要するにみんな溜め込んで、相続の段階になって相続税がどうのこうのと不毛な相続争いをしたりすることになる。私は、弁護士時代にはそういうことを年がら年中やっていましたから。そうじゃなくて、もっと自由度を増してお金を動かす。

あと、富裕層の人は税金で取られるのって嫌だと思うんですよ、強制的だから。もっと寄付みたいな形で名誉的なものも含めてお金を動かせないかと。寄付について税制改革をするとか、そんなことも検討していきたい。

―― 日本は寄付文化がまだまだ遅れているという指摘がありますね。

若狭 社会保障は、人口ピラミッドの逆三角形がどんどん顕著化して行きます。そこで、ここでも発想を変えたい。例えば今テレワークがこれだけ浸透して来たから、高齢者の人が満員電車に乗って毎日勤め先に行くのではなく家にいながらも遠隔操作で、一日のこの時間帯は若者に対してのレクチャーとか、仕事のレクチャーとかうまく噛み合わせていくと若者の能力向上に高齢者の経験が生かせる。そうやっててうまく回転させていくと、必ずしも若者が高齢者を支えるのではなく、もっと共存できる形に持っていけるんじゃないかと思います。

―― 高齢者が若者を支えるという発想は、ネガティブになりがちな将来の人口構造問題に大きなヒントとなりますね。

若狭 発想という意味では医療費もそうですけど、高齢者で医療費がかかるとかいう議論ばかりですが、1年間病院にかからなかったらそれだけ健康維持にアクティブシニアの人が自助努力をしたということだから、それに対してポイント券とか観劇券とかそんなこともやってみたらどうかと。自助努力で健康を維持してもらって、医療費を減らして行くという全く違うアプローチです。

今アクティブシニアは、年齢換算すれば10年ぐらい若返っているとも言われていて元気だと思うんですよね。社会参加だとか就労してる人は病気にかからないという統計もありますから、そこをうまく政策に機能させれば医療費は多少ですが増加のペースを落とせます。

若狭勝氏が二大政党制を支持する理由

若狭 勝

―― 今後の注目のひとつは、新党が野党再編全体に与える影響です。民進党との連携は。

若狭 前原誠司新代表になりましたが、民進党という枠で、中には右も左もいて結局今までと変わらない状態だったら民進党と組むことは果たしてどうなのか。私の新党はしがらみのないところを一つの大きな強みと考えています。民進党にもいろいろなしがらみがあるように思います。

私はこれまで非自民・非民進で新党を作ると言っています。とすれば、前原さんがいくら代表になったと言っても、これまでと何ら代わり映えのない民進党が残っている枠組みでは、個別の法案を超えて、民進党との間で包括的に協定や連携をするということはないですね。

―― 逆に、自民党に近くて補完勢力になるのではないかと見る向きもありますが……。

若狭 私は自民党のしがらみ政治をぶっ叩くんですから、補完勢力とか第二自民党にはならない。基本政策についても違うところが出てきます。例えば2年前の安保法制ですが、私は自民党にいながら賛成してない、棄権しているんです。

なぜ棄権したかというと、集団的自衛権の行使のための新三要件っていうのがあって、そのうちの一つが存立危機事態。国民の生命、身体、幸福追求が根底から崩される状態のことを存立危機事態と言うんですが、どういう時にそうなるんですかって問うても全然詰められてなかったんです。そういう曖昧なことは危険だから私は賛成できない。党内や部会でもかなり私は言ってたんですが、執行部も官邸も聞く耳を持たない。

今、北朝鮮がグアムにミサイルを飛ばしたらそれは存立危機事態になり得るから撃ち落とすことが可能だとかいうような話も一部で出てきていますが、存立危機事態っていうのをあの時しっかり決めてないから、まともな議論ができない。法律っていうのは解釈がちゃんとできるようなものを通さないとダメなんです。

―― 今、安倍1強の歪みが出て「受け皿」が必要と主張する声が国民の間でも永田町でも大きくなってきていますが。

若狭 健全な二大政党制が必要です。真ん中に裁判官という有権者が座っている。右側の検察官席に自民党が座って、左側の弁護人席に受け皿になる私が作ろうとしているドンとした党がある。検察官席の自民党と、弁護人席の受け皿の新党が意見を戦わせる、競争する、いい政策を打ち出す、その政策について国民に説明する――、真ん中にいる有権者がそれを聞きながら判断を広げ決める。その姿を実現したいと思います。

野党第一党の民進党・前原新代表の側近は「前原さんはここ数年で本当に変わった。現実的な選択という違う考え方も受け入れる度量を持てるようになった」と話した。一方の小池知都事もリアリズム政治をしばしば発揮する。ダメと判断したときの方向転換や次の一手はしたたかで素早い。自民党幹部は、「安倍政権の支持率や解散総選挙のタイミングなどを見て、自らに有益と判断すれば両者の連携も十分にある。野党再編となれば要警戒」と話す。だが大筋でもいいから理念や政策の一致は絶対条件。数合わせの再編は国民に不誠実である。(鈴木哲夫)

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