マネジメント

かつて裏世界の麻雀で会社社長などの代打ちとして勝負をし、いくつもの修羅場を潜り抜けた雀士・桜井章一氏。麻雀を通して独自の人生哲学を伝え、自己啓発的指導を行っている。著書も多数出版され、テレビシネマにもなっている。桜井氏は、雀鬼会道場生と毎年、夏合宿を行ってい、日常では得られない自然の感覚を呼び覚ます修養の場となっている。文=榎本正義 Photo=佐藤元樹

仲間を助ける意識が運を呼ぶ

201711SAKURAI_P01

さくらい・しょういち 1943年東京都生まれ。雀鬼会会長、著述家。大学時代に麻雀に触れ、昭和30年代から麻雀の裏プロの代打ちとして活躍。以降、引退するまで20年間無敗の強さを誇り、「雀鬼」の異名を取る。著者をモデルにした小説・劇画・映画などで、その名を広く知られることとなる。麻雀を通した人間形成を目的とする「雀鬼会」を主宰。『努力しない生き方』(集英社新書)、『人を見抜く技術』(講談社+α新書)、『わが遺言』(ポプラ新書)など著書多数

 私は麻雀を通して若者の人間力を鍛えることを目的とする「雀鬼会」を1991年に立ち上げた。それまで20年以上続けた代打ち稼業を引退した後、「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」をオープンして2年が過ぎたころのことだった。

 雀鬼会では毎年夏になると、伊豆にある別荘で一カ月あまりの合宿を行う。去年の合宿はちょうど台風とタイミングが重なってしまい、海は大荒れだった。それでも最終日には全員で近くの岩場から海に入ることにした。ふだんは穏やかな伊豆の海だが、別荘のあたりでは毎年のように死者が出る。

 なぜ大荒れの海で泳ぐような危険な真似をするのかとの誹りは免れないだろう。しかし私は、厳しさの中で初めて通い合う信頼というものを道場生たちに味わわせたかったのだ。中には初めての合宿で、荒れた海に入るのを怖がる者もいる。だが、怖いからと現実から逃げるのではなく、ちょっとした勇気を持つことで楽しい思い出を持ち帰らせたいという気持ちがある。

 海上は荒れていたが、海の中は気持ちよく、私は道場生たちが近寄らない崖っぷちの、白波が立っているほうへ泳いでいった。

 その後、海面へ出て皆のところへ戻ってみると、岩場にいる道場生からの指示が要領を得ない。これでは全員を陸へ上げることができないので私が指示を出そうと思い、波の泡でほとんど視界が利かない状態の中を岩場へ向かって泳いだ。ようやく岩場に設けられた鉄の柵をつかんで立ち上がったところで、私は大きな波に飲み込まれ、荒波に叩きつけられて、泡で真っ白になった海底へと引きずり込まれてしまった。右足に大きな石が載り、左腕も転がってきた石に挟まれてしまったので、海の中で身動き一つできなかった。瞬間、「やられたな」と思ったが、大好きな海で死ぬのなら、ベッドの上より私らしくていいな、などと考えて不思議にパニックにはならなかった。

 その間にも2発目の大波に転がされた石ころが何発も顔面にぶつかってきた。ここでもう1発大きな石が当たれば、一巻の終わりだったに違いない。1分近くたった頃、3発目の大波によって右足を押さえつけていた石が運よく転がって、自由になった身体で感覚だけで白い泡がかすかに薄くなっているほうへと泳ぎ、どうにか助かった。やられたのも波なら、助けられたのも波。自然に助けられたわけだ。こういうときは助かりたいと願ってもかなうものではないので、自然に身を任せるしかない。

 私が助かったのは、自分の欲や損得ではなく、「仲間を助けなければ」という思いがあったからだ。仲間を助けるためなら、命を落としたって構わないと思っている。それが好運に結び付いて、死の淵から生還することができた。

 道場生も、私のためなら命を投げ出す覚悟があるはずだ。合宿所では私にできるだけ負担をかけないよう、率先して動いてくれる。1カ月の合宿は、共同生活であり、協力生活だ。共同の施設だと、自分がやらなくても構わないと考えて汚したりするが、協力関係だと自分がやらなければという意識が生まれる。そういう仲間意識を醸成するのも、この合宿の意味だ。

気配や違和感の感覚で行動して運をつかむ

 私は海へ行くと、まず水平線に厚みがあるかどうかを見る。厚みがあるということは、そこが荒れているということだからだ。次には海の色を見る。黒い時は普通の波だが、グレーだとちょっと荒れている。一番怖いのは白い時だ。海の中で回りが真っ白になると、方向感覚がすべて失われてしまう。そして次には岬の先を見る。そこにポツンと白いものがわくと、すごいエネルギーが隠されているからだ。それはいずれ大きな波となって岸辺に押し寄せてくる。だから岬の先端がどうなっているかをしっかり見る。白くなっていたら要注意。10メートル先も分からなくなる。全員の命を預かるのは私だから、真剣に自然に対峙する。こうした気構えでいるから、今までの合宿で一度の事故もなかったのだ。

 白い世界が怖いのは、雪の中でも同様で、回りが真っ白になると、500メートル先の自分の家でも帰り着けなくなる。通常の常識では、黒は見えない世界で、白のほうが見える世界だと思うかもしれないが、自然に学ぶと白いほうが怖い世界だ。太陽や風、雲、雨などの自然は実に多くのことを教えてくれる。

 私のことを、勘が鋭いと言う人は多いが、私が感じるのは勘というより違和感だ。あまり良くないことが起こる、それは嫌なもの、悪いものだと感じる。伊豆の海のときも、そうなる予感はあった。あのとき私が助かったのは、自然に学ぶことを日頃から積み重ねてきたからだろう。

 海の中の魚の群れは、危険を察知すると瞬時に身をかわす。あれは技術や運動能力で泳いでいるのではなく、本能だ。人間ももともとは生き抜くためにそうした本能が備わっていたはずだ。だが、便利な生活と引き換えに感覚が薄れてしまったのだ。

 この感覚はどこで感じるのか。例えば、手のひらや指先はものをつかんだり、日常いろいろなことに使うので敏感だが、ここではこの微妙な感覚を感じ取ることはできない。実は、通常あまり使うことのない手の甲など身体の中の日常使わないところに鋭い感覚はある。

 勝負の世界では、急に動きが早くなった、手が早くなったと感じたときは、ササっと牌を並び替えて整理し始めるから、相手にいい手が入ったということだ。逆にぐちゃぐちゃで悪い手のときは整理しない。人は欲望やそれまでに学んだことが麻雀にも出てくる。相手の手の内を読もうと思うのではなく、自然に感じることが大事なのである。何か違和感があり、それで感覚的に身体が動いて行動に移す。そうしていい結果に結び付く。運とは、そういうものだと思っている。(談)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年9月号
[特集]
この夏飲みたい日本の酒

  • ・総論 量から質へ“こだわり”が求められる時代へ
  • ・埼玉・秩父から世界一へ イチローズモルトの奇跡
  • ・家庭でも酒場でもレモンサワーが飲まれる理由
  • ・幕末からよみがえった都心の酒蔵 東京港酒造
  • ・本間哲朗(アプライアンス社社長)
  • ・伊豆で愉しむ野趣なワインと夏の富士
  • ・トップが薦めるこの夏のビール

[Special Interview]

 宮内義彦(オリックス シニア・チェアマン)

 「トップの器以上に会社は大きくならない」

[NEWS REPORT]

◆ヨーロッパに続け! 動き始めた日本の再エネ事業

◆東芝のPC事業を買収し8年ぶりに参入するシャープの勝算

◆日産―ルノー経営統合問題に苦慮するカルロス・ゴーン

◆大阪がエンタメで仕掛けるインバウンドと夜の経済

働きがいのある会社を総力取材

 人材育成企業20

 企業の成長戦略をクローズアップ

ページ上部へ戻る