マネジメント

14歳のときに「脳を鍛える方法」を知るために医学部への進学を決意。その後、内外の大学などで脳研究に従事し、1万人以上のMRI脳画像とともにその人の生き方を分析してきた加藤俊徳氏。その脳科学者が突き止めたのが、脳は正しい行動をすれば正しく成長を続け、それは「運が良くなる方法」とも直結しているのだという。文=榎本正義

加藤俊徳院長が突き止めた脳と縁、運は表裏一体の関係であることとは

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かとう・としのり 昭和大学客員教員。米国ミネソタ大学放射線科MRセンターに6年間在籍、慶応義塾大学、東京大学などで脳研究に従事した後、2006年「脳の学校」を創業。13年加藤プラチナクリニックを開設し、経営者向け脳画像診断指導を行っている。最新刊『右脳の強化書-左手をもっと使えば弱点が逆転できる』(廣済堂)。

 人間の脳は、なぜ右と左に分かれているのか。右脳と左脳の役割がダブっていないからだ。

 左脳は言語系の情報処理に関係していて、ほとんどの人が言語の理解や発話などを左脳主体で行っている。一方、右脳は非言語系の情報処理を司る。非言語とは、自分の脳の外側で起こっている言葉になっていない情報。周囲で人がしゃべれば言語音で聞こえてくるから左脳に届くが、自分で見たり、あるいは見えていないもの、人が近づいて来たり遠ざかったりといった言語になっていないものは、右脳主体で処理している。つまり、右脳と左脳は、自分の脳の中で起こっていることと、自分の外側で起こっていることとを分けて処理しているといえる。

 例えば私が今日、予定を決めて人に会うのも、今までの経緯があって、これこれしかじかのテーマで会うと事前に約束したからだ。それらはすべて外側との「縁起」、やって来るものである。同時に、粛々と左脳と右脳は言語情報であろうが、非言語情報であろうが絶えず受け取り、その処理を行っているのである。

 樹木は葉っぱで光合成し、それをエネルギーにして育つ。栄養分も水分も、すべて外からもたらされるもので、太陽の光が少なかったり、雨が降らなければ木は育たず、いずれは枯れてしまうし、水分が潤沢で日当たりが良ければ、枝は大きく育って大木となる。人間の脳も同様で、自分に成長する力がなければ大きく育たないが、自分の力だけでもダメで、外からの影響と合体した形で私たちの脳は成長する原理で成り立っている。外からの影響、縁の作用で育ち方にも差が出るのだ。縁は往々にして偶然にも左右される。つまり脳と縁、運は表裏一体の関係だということが言えると思う。

 例えば、あのときあの人が自分を引き上げてくれたから今があるということがある。だが、その間には自ら努力し、いろいろな苦労があっただろうし、そこに至るプロセスがある。このプロセスは、脳の中にしっかり記憶として描かれている。もともと生まれたときには何も描かれていなかった脳は、木が枝分かれして育っていくように、外部からの影響で枝分かれして育っていく。よく運が良かったとか、縁を呼び込むといったことを言うが、今までその人がやってきたことが脳に残っているから結果になって表れるのであって、今までのプロセスが運の良し悪しに関係していることになる。脳には運と縁が描かれているというのが、私が今まで多くの脳の画像診断をしてきて辿り着いた結論である。

人の運や縁を鮮明に描き出している脳という宇宙

 脳は、右脳と左脳で役割分担しながら、全体で1つのネットワークを形成し、「脳番地」に分かれて働いている。思考系脳番地(思考や判断に関係する)、感情系脳番地(感性や社会性に関係する)、伝達系脳番地(話したり伝えたりすることに関係する)、運動系脳番地(体を動かすことに関係する)、聴覚系脳番地(耳で聞くことに関係する)、視覚系脳番地(目で見ることに関係する)、理解系脳番地(物事や言葉を理解するのに関係する)、記憶系脳番地(覚えたり思い出すことに関係する)の8つの脳番地があり、1つの脳番地が1つの経験をしたら、全体のネットワークに影響する。

 スポーツ選手なら運動系脳番地が突出して伸びているし、研究者なら知識に関する記憶系脳番地が突出して伸びている。得意なことは何度でも繰り返し経験するので、その特定の経験が特定の脳番地を育てている。反対に、人には必ず苦手なことがあるが、それはその脳番地の成長が未熟だからだ。苦手な脳番地は、その脳番地を使うことが少なく、太陽が当たる時間が少ないので、まだ育ちがゆっくりなだけで、日々の生活の中で使うことで次第に伸びてくる。

 脳の力は、あらかじめ決まっている不変なものではなく、日々の経験で変化していく。脳は、使ったところほど成長し、使っていないところから衰えてくる。脳が変わると自分の強みや弱みも変わっていく。大人の脳でも、早ければ3~4カ月で変わる。人は自分の弱点が気になるものだが、脳を伸ばすには、強みを生かすほうがうまくいく。

 脳は基本的に正直だ。入ってきた情報は、そのまま受け取る。強い刺激が入ればそのまま伝達されるし、1回いい経験をすれば、それを繰り返そうとする。パチンコで大当たりが出たら、あるいはカジノで大儲けしたら、またやりたくなる。逆に悪い情報や経験に遭遇すると、それもそのまま受け取ってしまう。そこで人間社会には、道徳とか規範、宗教などが存在し、自分を正しく導いてもらう“鏡”が必要になるのだろう。実は、それらが自分の脳を運良く働かせる1つの手掛かりになっていると思う。

 運を悪くするものはたくさんあって、ウソをついたり、人を騙したり、本当はAなのだがBだと教えるといったことを繰り返したとしよう。

 普段から間違った方向を選択していると、いざというときに正しい選択ができなくなる確率が高くなる。右脳は周囲の環境に対して感受性が高いから、ウソ偽りやうまくいかないことが続くと、右脳の感度を下げ、正しい情報を感知できなくなってしまう。脳に正しい情報が入れば正しく成長するし、誤った情報ばかりだと“バグ”の回路が出来上がってしまう。

 反対に、可能な限り正しい情報に接することが運を良くする。先人が徳を積めと言ってきたのには理由があって、社会に対してプラスの行為をしたことで、自分が動いたときに周囲が味方してくれるとか、ボランティア活動をする、仕事で人を喜ばせるといったように、右脳に関係する外の環境を改善することが運をも良くすることだと思う。運のいい人というのは、社会に貯金しているのではないだろうか。プラスの行為の反対給付は、その人の代では返って来なくても、その子孫が恩恵を被ったといったことはあるだろう。

 脳という宇宙は人の運や縁を鮮明に描き出しているのである。(談)

 

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