マネジメント

圧倒的に稼げる人とそうでない人との違いは何なのか。事業における成功と失敗の分かれ道はどこにあるのか。本シリーズでは、幾多の修羅場をくぐりぬけてきた企業経営者たちを直撃し、成功者としての「原点」に迫っていく。

痛みは一気に、喜びは分けて与える

小笹PHOTO1

(おざさ・よしひさ)1961年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。2000年リンクアンドモチベーションを設立、代表取締役社長に就任。13年代表取締役会長に就任、現在グループ13社の会長を務める。

江上 御社は入社の競争倍率が非常に高いと聞きましたが。

小笹 多い時では3万8千人くらい入社希望者が来て、30人くらい採用しましたから、1千倍強でしょうか。

江上 これだけ人材不足の話が多い中にあって凄いですね。結局、御社は理念と行動が一致しているという部分を感じている人が多いから、それだけ集まるのではないかと思います。

小笹 われわれは、モチベーションというテーマで企業支援を行っていますが、これは言ってみれば究極のソフトサービスです。そこでは、自分たちの会社がモデルケースでありたいという思いが強くあります。われわれ自身が、さまざまな形で社員への投資を行い、組織を活性化させて、業績を上げるということを証明できる道具になりたい。ですから、クライアントに指導、助言することは自らも実行していくという、言行一致の意識は強く持っています。

江上 これまで危機に直面した場面もあったと思いますが、小笹会長にとって大きな危機はどんなことだったのでしょうか。

小笹 2000年に創業して07年に東証二部上場、08年に東証一部上場と、ずっと成長を続けてきましたが、08年秋に起きたリーマンショックの影響を09年にモロに受け、拠点も人員も過剰投資の状態になりました。

そのときに上手く乗り越えられたのは、とにかく早い意思決定を行ったからです。2004年に移転したばかりの拠点からすぐに撤退、当時晴海に持っていた研修施設も手放し、間接部門を減らして現場に配置するなど人員の再配置を行ったり、役員報酬やボーナスのカットを行ったりもしました。社員にとって厳しいそれらの判断を、スピードを持って一気にやったことが大きいと思います。少しずつやっているとずっと痛みが続くからです。私はいつも、「10の痛みがあるものであれば10を一気にやりなさい、逆に10喜びを与えるものであれば1個ずつ10回に分けて与えなさい」と言っていて、それは経営ポリシーでもあります。

江上 ただ、それは社員との信頼関係がないとできないですよね。日頃から社員のモチベーションを大事にして、理念を共有できていたから成功したのだと思います。思い切った判断をしても、リーダーが尊敬されていないがゆえに、関係が余計に悪くなるケースをこれまで数多く見てきました。

小笹 社員にしてみれば、「少し業績が落ちているな」ぐらいの感覚かもしれないので、シンボリックな拠点から撤退するなどして、それだけ会社が厳しい状況にあるというメッセージを送ったんです。一気に膿を出し切ったおかげで、翌年からはジワジワ回復基調に入って、生き残ることができました。

魔法が解けた時にどうするか

江上 そこからまた業績が飛躍しますが、そのポイントはM&Aでしょうか。

小笹 08年に東証一部に上場したのですが、その後2年間は創業以来、初めての下り坂を経験することになりました。ただ、私は会社が成長していた時から「必ず下り坂は来るぞ」と社員には言っていました。実際に下り坂が来て厳しい経営判断をすると、それまで社員が感じていた「リンクアンドモチベーションという会社はどこまで行くんだろう」という期待、言ってみれば魔法が解けたんです。業績が落ちれば普通に賞与もカットされるし、支社もなくなるという現実を突きつけられたわけです。

そうなると、次の魔法が必要になります。社員全員が再び共同幻想を持つにはどうすれば良いか。そこで、景気の変動に左右されやすいB to Bの領域から、B to Cの領域を強化することにしたわけです。パソコン教室のアビバや資格スクールの大栄教育システムなどをM&Aで獲得し、同時に組織と個人を結びつける人材紹介・派遣の事業も拡大することによって、もう一度新たな魔法を掛けなおしました。「自分たちは日本株式会社の組織開発部と人材開発部の役割を果たす」という意識を社員と共有し、もう一度組織を活性化させるためのビジョンやミッションをつくりなおしたのが2010年です。

江上 今、「魔法」という言葉がでましたが、そこにも言語化の巧みさが感じられます。

信頼残高を高めよう

小笹PHOTO4江上 私は著書の中で「15歳までの環境で稼げる人間になるかどうかが決まる」と書いてネットで叩かれてしまったんですが(笑)、小笹会長はどんなご家庭で育ったのでしょうか。

小笹 大阪の下町にある、8坪の三軒長屋の真ん中の家に家族5人で暮らしていました。8坪だからお風呂もないところです。隣の家とは壁一枚ですから、隣の夫婦喧嘩まで聞こえてくるような環境で育ちました。ハングリー精神という部分で言えば、負けたくない、見下されたくないという気持ちはあった気がします。小学生のときは少年野球、中学高校ではラグビーをやっていました。その中で、チームプレーだったり、うちの社訓にもなっている「One for All, All for One」の精神だったり、ノーサイドの精神といったものが刷り込まれてきました。

江上 成功できない人は、親がこうだったとか学校の先生がこうだったとか、何かのせいにして生きている気がします。環境は確かに大事ですが、最初に必ずマイナスのことを口にしてしまう。小笹会長をはじめ成功する人というのは、毎日のように自分の運命を変えている気がします。常に新しいことを考えたり、挑戦したりしている。そこが、悪い習慣がついている人との決定的な差になっているのではないでしょうか。

小笹 どうしても人は弱い部分があるので、弱さの言い訳に何かのせいにしたくなるものですからね。「今の自分は過去の自分のさまざまな判断や選択の集積だから、未来の自分も選択と判断で開けていくんだ」という意識を、会社の中で共有するようにしています。われわれは「アイ・カンパニー」という言葉を使っているのですが、1人1人が「自分株式会社」の経営者として、会社に依存することなく、自立的に自らのキャリアを形成していく考え方です。アイ・カンパニーを、いろんな組織やパートナーから選ばれる優良企業にしようと常々言っているんです。

江上 それも素晴らしい言葉ですね。最後に、これから経営者を目指す若い人たちにメッセージをお願いします。

小笹 人間は、さまざまな人たちとの関係の網の目に生きているというのが私の世界観です。関係の中で生きるということは、ネガティブに見ればそれはしがらみになりますが、プラスに見れば自分にとってとてつもない財産になります。

社員たちに言っているのは、アイ・カンパニーの信頼残高を高めなさいということです。たとえば約束したことをきちんと守る、時間を守るといったことをしっかりやっていれば自分の信頼残高は貯まっていきます。信頼残高は銀行の預金と違って好きな時に引きだせるものではないですが、例えば私が独立起業しようとしたときに、それまで培ってきた信頼残高が結構あったと実感できるぐらい、いろいろな人に助けられました。そのことに若い人たちも気付いて、目の前の小さな約束事を実行し続けることができれば、5年後、10年後にはアイ・カンパニーとしての財産がしっかり構築できていると思います。小笹芳央×江上治(前編)

(えがみ・おさむ)1億円倶楽部主幹・オフィシャルインテグレート代表取締役。1967年生まれ。年収1億円超の顧客を50人以上抱えるFP。大手損保会社、外資系保険会社の代理店支援営業の新規開拓分野で全国1位を4回受賞、最短・最年少でマネージャーに昇格し、独立。著書に16万部突破『年収1億円思考』他多数。

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