政治・経済

過去に例を見ない総選挙だった。勝てるのは今しかないと、大義を急ごしらえで解散に打って出た安倍晋三首相に有権者は戸惑ったが、対する野党の再編、特に希望の党と民進党の合流をめぐるゴタゴタも個人の勝ち負け優先の離合集散劇で政権への明確な対立軸を有権者に示せなかった。そんな中で審判が下り、新しい国会や政府がスタートするが、そこへと迫られる政治課題は緊迫したものばかりだ。北朝鮮のミサイル・核問題、日本の厳しい未来への備え、憲法改正など……。今回は特別編として、総選挙後の政治テーマを深掘りする。文=政治ジャーナリスト・鈴木哲夫

総選挙後に迫られる北朝鮮有事

 大義など後からついてくる。勝てるタイミングはまさに今しかないと安倍晋三首相が仕掛けた解散・総選挙だった。

 「内閣支持率が回復してきたことは大きな理由だった。森友学園、加計学園の問題などで安倍首相の姿勢が不誠実だと見られ、支持率が第二次政権発足以来危機的に下がった。ところが、その後、特に北朝鮮への対応で支持が戻ってきた。有事や災害というのは、時の政権が前面に出て一生懸命対応すると支持率は上がるんです。そのほか、野党の現状も見据えた。民進党がボロボロ。小池新党もまだ準備がままならない。今やれば必ず勝てるということです」(安倍首相側近の自民党幹部)

 ところが、早期解散は野党再編の動きを加速させ、小池百合子氏率いる希望の党と民進党が合流へ傾き、さらにそこから、小池氏が排除したリベラル系勢力が立憲民主党を旗揚げ。

 多くの主役がめまぐるしい離合集散を繰り広げ、争点や焦点は一体何なのかも惑わせてしまう「劇場型」になってしまった感は否めない。

 俯瞰して見れば、総選挙後には、日本の政治には大きな課題が山積みだ。国民から負託を受けた新しい政治構図の中で、果たしてそれらをしっかり解決して行けるのか、その見通しは不透明だ。

 安倍首相の外交ブレーンでもある外交族議員の側近のひとりは、今回の早期解散の背景にあった北朝鮮問題の深刻さをこう話す。

 「実は、年末にも北朝鮮とアメリカの関係は軍事衝突となる可能性が出てきている。日米の外交筋ではトップ同士の間でこうした情報が共有されているんじゃないか。その観点からも今のうちにやらなければ解散時期は限りなく任期満了にまで追い込まれ支持率だってどうなっているか分からない。ならば今しかないということではなかったか」

 衝撃的な証言だ。一歩間違えば軍事衝突になるかもしれない――。

 今後、政権に降りかかってくる喫緊の最大級のテーマは、北朝鮮有事だろう。だが、日本が北朝鮮にどう対応し、何を備え、世界にどう発信するか、つまり日本の外交・安全保障のあるべき姿は国民的な議論と合意が必要であるにもかかわらず不十分だと言わざるを得ない。

 私が気になるのは、安倍首相が総選挙前の9月21日(日本時間)、ニューヨークの国連総会で一般討論演説を行ったその内容だ。

 北朝鮮問題を取り上げたのはもちろんだがその内容は特徴的だった。安倍首相は、北朝鮮の行動を厳しく批判したうえで、「必要なのは対話ではない。圧力だ」として、「対話」を全面的に否定したことだ。

 「対話とは、北朝鮮にとって、われわれを欺き、時間を稼ぐためむしろ最良の手段だった。北朝鮮にすべての核・弾道ミサイル計画を、完全な検証可能な不可逆的な方法で放棄させなければならない。そのために必要なのは対話ではなく、圧力だ。対話による問題解決の試みは無に帰した」

 この演説には伏線があった。

 実は、安倍首相より前、アメリカのトランプ大統領が初めての国連総会演説を行い注目されたのだが、その内容が全く同じ。つまり、対話を否定し、北朝鮮を容赦なく批判したものだった。

 「今日のわれわれの地球に対する罰は、小さなならず者の独裁国家グループによって引き起こされている」

 さらに、北朝鮮の最高指導者である金正恩氏を、まるで映画の主人公でもあるかのように「ロケットマン」と小馬鹿にしたような表現を使い、「ロケットマンは自殺行為に突き進んでいる」と言い放った。

 北朝鮮だけでなく、トランプ大統領はこのほかにもイラン、ベネズエラなども次々に批判したのだが、これまで国連という場で、存在感を示してきたアメリカ大統領の演説としてどうなのかという批判が世界中で上がった。

 そもそも、グテレス国連事務総長は総会の冒頭演説で、「怒りがこもった対話は、取り返しがつかない誤解につながる」と述べ、事前にトランプ大統領の演説内容を危惧していたが、その不安は的中した。世界のメディアも、「トランプの無知なヘイトスピーチ」(中東メディア)、「支離滅裂で威圧的な空気」(英紙)などと取り上げた。

 ところが、こうした散々なトランプ演説に完全に歩調を合わせたのが安倍首相の演説だった。安倍首相の演説についても、トランプ大統領にただただ追従するものと皮肉った論評をしたのだった。深層は日本にはなかなか伝わりにくかったが、国連演説の評価について、旧知の外務省OBがこう解説してくれた。

 「国連というのは一体何なのかということです。場合によっては制裁決議などもありますが、まずは外交的な対話が基本です。そうやって、解決策を見いだしていこうとするのが国連なのに……。トランプ大統領がああいった演説をすることはある程度予想できましたが、日本までが『対話に意味がない』などと追従したのは驚きました。一体この問題にどう対処するのか。私たちが考えなければならないのは出口です。それは間違いなく対話と朝鮮半島の非核化でしょう。安倍首相の演説には、せめて対話という言葉を文節の中で1カ所でも2カ所でも使って、アジアの隣国の視点で日本ならではのメッセージを入れるべきでした。また、場合によっては拉致問題という全く別の視点での発信とアプローチをしても良かったのではないか。国連での日本の存在感は、マイナス点がついたのではないか。それにしても、こうやって2人の演説を重ねると、日米で演説内容を擦り合わせたのは間違いないでしょう」

 しかし、今回そこまでトランプ大統領と安倍首相が密接に連携したとすれば、冒頭の側近議員が推測するように、「北朝鮮への軍事行動情報の共有」も十分あり得るということになる。安倍首相は、軍事行動を想定して、日本としてどう行動するつもりなのか。空爆などを全面的に支持するのだろうか。

 前出外務省OBはこう付け加えた。

 「本当に愚かな戦争になっていくのか。それでいいのか。再三繰り返しますが、出口は何なのかを日本国内でしっかり意思統一しなければならない。そこへ向けて日本はアメリカにもモノ申し、関係各国の接着剤になるなど独自の対話外交を進めるべきだと思います」

ポスト2020年への政治の姿勢

 重要テーマはまだある。それは、日本が大きな後退局面に突き進んでいるという現実だ。政治がこれを認識して国民に示し、今、手を打たなければならない政策は山ほどある。

 少子高齢化が最も大きな課題だ。人口が減り、税収も減り、経済活動は弱まり、消滅自治体すら出てくる。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでは、世の中の目がそちらに向いてしまい緊迫度を感じない。しかし、ポスト20年は間違いなく襲いかかる。石破茂元地方創生相も「祭りのあとってそういうもの。1964年の東京オリンピックのあとも冷え込んだ。今度はそれどころではないくらい深刻。少子高齢化はどんどん進む」と話す。

 安倍政権は、これまで、「地方創生」「女性活躍社会」「一億総活躍」「ひとづくり革命」といった看板を次々に掛け替えてきたが、経産省OBの評価は厳しい。

 「安倍首相の看板は『政策』ではなく、『国民運動』的なもの。政権への支持を維持して行くという色合いが強いのではないか」

 このOBが言う「国民運動」とは、大きくスローガンを掲げ、首相自身や担当大臣が全国を回ってタウンミーティングなどを開催し、国民の意見を聞きながら政権への期待や人気を高めていくというもの。中身は既にあるいろんなものをまとめ直して化粧して、「政権浮揚や選挙にプラスになればいい」(同OB)ということだ。

 前出経産省OBが続ける。

 「発足以来の安倍政権を船に見立てれば分かりやすい。船長も船員スタッフも同じ、向かっている方向も同じ、船の大きさも同じ、スピードも同じ。ただ、その時々、選挙や政局に応じて、船の名前や外側の色を絶妙に変えている。船長は安倍首相、スタッフは経産省を中心にした側近たち、方向は長期政権維持や憲法改正、財界と連携した経済政策など。船の名前は、統一地方選挙を見据えたときには『地方創生号』だったが、次の選挙へ向かっては『一億総活躍社会号』と名前を代えた。中身は、GDP達成目標や地方の活性化、女性政策などどれも芯は同じだ」

 また、安倍政権の看板で一貫しているのは「生産性向上」だ。

 例えば今進めている「ひとづくり革命」の場合、「これからの厳しい時代、一人一人が生きていくときの幸福感や人生観に多様性を」というのではなく「学習の場などを全世代に拡充し、人を育て、生産性を上げる」ことに重きが置かれている。「高度成長期の夢よ、もう一度、という印象が強い。それが、明らかに厳しい時代に合っているのか議論や検証は必要ではないか」(前出OB)。

 この「政知巡礼」でも、ポスト20年への政治の責任を強調する政治家は多い。

 「1年ごとに地方創生、一億総活躍、働き方改革と看板を掛け替えてもやるべきことは決まっているんじゃないでしょうか。確かにオリンピックまでは何とか持つでしょう。大事なのは、それまでに地方の潜在力の種をどれだけ撒くかということです。大胆な金融緩和や機動的な財政出動なんていつまでもどこまでも続くはずはないし、いつまでも金利ゼロが続くはずはない。地方は言っていますよ、俺たち金利ゼロでも何の得もしていないと。日銀と金融機関と政府でお金を回して行ってもいつまでも続くはずがないんです。発想を変えてやらなきゃならない。地方の伸びしろはたくさんある」(石破氏)

 「現在の日銀の対応はほぼ限界にきてるだろうとみています。さらに社会保障の財源そのものも、高齢化は確実に進展してるし、財源をどうするんですかという切実な問題に直面している。少子化の問題もありますよ。それは成長力そのものに影響する。労働力不足ということもあるし、需要不足ということもあるし、なにより社会そのものが持続可能性について各分野で問題を引き起こしているわけですよね。国力そのものが先細りということになって、これは放置するわけにいかんでしょう。もうお尻に火がついてる、このまま手をこまねいていいんですかということだと思いますね。社会保障のためには消費増税と財政健全化も必要。もう少し中長期展望する中で位置付けしないとね」(野田毅・自民党税調最高顧問)

 憲法改正も、重要なテーマだ。

 今回の選挙で自民党は「改憲を発議する」ことを公約とした。安倍首相は、かつて私のインタビューに「(改憲は)政治信念ですから」と答えた。長期政権維持を第一に掲げ、無理に改憲で突破しないのではないかといった見方をする自民党幹部もいるが、「首相は絶対やる」と安倍首相に近い自民党幹部は断言する。

 発議には衆参それぞれ3分の2の勢力が必要だが、「3分の2をカウントするときに、公明党も改憲勢力として数えてきたが、公明党は特に9条などに慎重です。国民投票まで持っていけるかは、これからの勝負です」(前出幹部)という。

 国民から負託を受けた、各党、各議員がこうした難問に逃げることなくどう取り組むのか。本稿「政知巡礼」は再び直撃し続けたい。

(すずき・てつお)1958年生まれ。フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリー。20年以上にわたって永田町を取材、豊富な政治家人脈で永田町の人間ドラマを精力的に描く。テレビ・ラジオでコメンテーターとしても活躍。近著に『最後の小沢一郎』(オークラ出版)、『政治報道のカラクリ』(イーストプレス社)など。

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