政治・経済

 テレビ・新聞・雑誌・ウェブで話題にならない日はないビットコイン。というのも、その価格変動があまりに大きいためだ。株価や為替がこのところ落ち着いているのに比べビットコインのボラティリティは突出している。ビットコインで一獲千金を夢見る人も多いが、その一方で分裂騒ぎなど、不穏な動きも気になるところ。一体ビットコインで何が起きているのか。

ビットコインとは?

誕生したのは2009年にさかのぼる。その前年の08年、「サトシ・ナカモト」と名乗る人物が、ビットコインの理論的な枠組みを書いた論文を発表。09年1月に最初のビットコインが作られた。このナカモト氏は、日本人か日系人の名前に見えるが、国籍も個人かグループかも分かっていない。ビットコインには「仮想通貨の代表格」という枕詞が付けられることが多い。仮想通貨は別名「デジタル・ゴールド」とも呼ばれ、インターネットの世界で流通する金貨のような存在に例えられている。この理由は、インターネット上で使われる仮想通貨が、ビットコイン以外に数多くあるためだ。その数は実に1千以上ともいわれ、仮想通貨の時価総額をすべて足し合わせると、約1500億ドル(約16.8兆円)に達している(仮想通貨の情報サイト「コインマーケットキャップ・ドット・コム」調べ)。

ビットコインの暴騰・暴落の経緯

年初来5倍以上の価格まで暴騰したビットコイン

 仮想通貨「ビットコイン」の話題が絶えない。7月には分裂騒動が勃発し8月に分裂。9月には、わずか2週間で4割も価格が下落する局面もあった。一方で、今年の相場を見ると、9月2日に史上最高値となる1ビットコイン当たり約56万円を付け、年初来で5倍以上も値上がりしている。

 数ある仮想通貨の中で、ビットコインの時価総額は、715億ドルで、仮想通貨全体の48%を占め“1強状態”である。だから、ビットコインは「仮想通貨の代表格」と呼ばれている。

 そして、その次に位置付けるのは、「イーサリアム」と呼ばれる仮想通貨で、その時価総額は283億ドルに上る。3位には75億ドルで「リップル」が、4位には、8月にビットコインから分裂した「ビットコイン・キャッシュ」(71億ドル)が続いている。

 ビットコインには、「B」を形取ったオレンジ色のロゴはあるが、お札も硬貨も存在しない。ビットコインは、大ざっぱに言えば、0と1で表示できる数列にすぎない。このビットコインを“製造”するには、「マイナー(採掘者)」と呼ばれる専門業者が、大量のコンピュータを使って、「ハッシュ値」と呼ばれる文字列を、パスワード認証などの暗号化でも使われる技術を使って計算する。

 この計算作業に使うコンピュータを動かすには、大量の電気が必要だ。このため電気代が安い中国にマイニング(採掘)業者が集中している。例えば、中国最大手のビットメイン社は、内モンゴル自治区に巨大工場のような施設を構えている。その内部にはデータセンターのように数多くのサーバーが並んでいる。コンピュータを大量に導入して計算させる大規模施設は、鉱山のようである。こうした作業が金の採掘に似ているため、ビットコインには「デジタル・ゴールド」のあだ名が付いたのである。

 ビットコインの価値の根源である文字列は、10分ごとに記録され、その記録を誰でも見ることができる。全員が見る「衆人環視」のため、偽造が難しい。ドルや日本円、ユーロなどは中央銀行が管理する「法定通貨」である一方、ビットコインのような仮想通貨が「無国籍通貨」と呼ばれるのは、中央銀行でなく人々が管理するこの仕組みにある。

ビットコインが注目されたきっかけはキプロス金融危機

 このビットコインが「通貨」として、最初に大きな注目を集めたのは13年のことである。地中海の小国・キプロスで金融危機が発生したことがきっかけだ。

 欧州連合(EU)に加盟し、通貨はユーロを使うキプロスは、隣国・ギリシャで起きた金融危機の巻き添えを食った。資金繰りに苦しんだキプロスの大手銀行には、キプロスをタックスヘイブン(租税回避地)として利用するロシア企業やロシア人富裕層が大口預金者に含まれていた。金融危機を受けて、ロシア人は資産をロシア・ルーブルに戻すのではなく、ビットコインに換えたといわれている。

 そして、その後、中国人富裕層も海外に資産を逃避させるためにビットコインの“爆買い”に参入。キプロス危機に中国人が加わった形で、13年末には、ビットコインの価格は、一時1ビットコイン当たり1100ドルまで達した。1年間で実に100倍以上も跳ね上がったのである。

 中国やロシアなど、国民が自国の中央銀行を信頼しない時、「無国籍通貨」であるビットコインのメリットが際立ってくる。13年に起きたキプロスと中国での動きは、「有事に買われるビットコイン」を象徴しているとも言える。

ビットコインは暴落後、大相場に

 しかし、13年末に中国政府がビットコイン投資を禁止し、ビットコイン相場は急激に冷え込み低迷期に入っていく。15年まで1000ドル以下で推移した。そして15年後半から現在まで続く右肩上がりが始まる。

 背景にあるのは、再び中国人である。15年以降、当局の規制をかいくぐって資本を海外に移すためのビットコイン買いが始まったのである。さらに、米国市場では、ビットコインを組み込んだ上場投資信託(ETF)が発売。日本では、政府が4月に改正資金決済法を施行するなど、16~17年に中国以外でも、ビットコイン投資の環境が急速に環境が整った。

 それでもビットコイン相場はかなり不安定である。

 直近では、8月1日に起きたビットコインの分裂は相場に大きなショックを与えた。結果的には、既存のビットコインが存続する一方で、「ビットコインキャッシュ」という新たな通貨が生まれたが、その分裂問題が表面化した7月半ばには、ビットコインの価格は、1ビットコイン当たり25万円台を付けた。前月の6月半ばには30万円を突破して当時の史上最高値を更新していただけに、1カ月で約16%の急落に、多くの個人投資家は冷や汗をかいた。

 しかし、その後落ち着きを取り戻し、8月7日に1ビットコイン当たり40万円を、8月30日には1ビットコイン当たり50万円の大台を超えた。13年以来2度目となる「ビットコイン大相場」を維持している。

ビットコインの価値は今後どうなるのか?

ビットコインの価値がなくなるという説も

 問題は、この大相場がいつまで続くかである。結論から言うと、1ビットコイン=1千万円を超えると予測する人もいれば、0円になると予測する人もいる。

 1千万円を超えると予測しているのは、米ハーバード大学の研究者であるデニス・ポルト氏。彼の見立てはこうだ。

 テクノロジーの発展は、これまで「ムーアの法則」に乗ってきた。「半導体の集積率は1年半で2倍になる」という半導体業界の経験則のことで、コンピュータや人工知能(AI)の計算能力はこの法則にしたがって伸びてきた。

 だから、テクノロジーによって生まれたビットコイン相場もこの鉄則にしたがって発展し、「21年にも1ビットコイン当たり10万ドルになっていてもおかしくない」と主張しているのである。

 また、9月上旬に取材したある東証1部上場のIT(情報技術)大手の社長は、「(9月上旬に)中国の規制を受けて一時的に急落したが、その下落幅は限定的でむしろ底堅いように見える」と語り、「個人的にだが、今の下落相場でビットコインを買い増ししている」と強気だった。

 一方、ビットコインの価値がなくなると言う人もいる。

 米金融機関JPモルガンのジェイミー・ダイモン社長は9月12日、「ビットコインは詐欺」とまで語っている。さらに、17世紀のオランダで起きたチューリップ・バブルに例え、ビットコイン相場の急上昇は「チューリップ・バブルより悪い」と言い切った。

 仮想通貨に詳しいある日銀OBも、筆者にこう分析してくれた。

 「ビットコインは結局のところ、発行する中央銀行がない『無国籍通貨』だから、その価値を裏づける機関がない。だから、強固な資産を持つ巨大企業などが自ら価値を保証する仮想通貨を普及させることができれば、ビットコインは競争力がなくなって、価値もなくなるだろう」

 ただし、このような否定的な見方があっても、ビットコイン価格はゼロになっていないのも事実だ。

カギを握るのは中国政府の規制

 ビットコインを見る上で重要なのは、中国人の動きであり、中国当局の動きである。ビットコインはインターネット上で簡単に安く海外送金ができる。このため、多くの中国人が外国に資産を移したいなどの時に使ってきた。

 在北京の中国金融ウオッチャーはこう解説する。

 「中国政府は人民元の国際化を一生懸命に進めているが、皮肉にも、中国人自身が人民元を信頼していない。だから、どの国の政府も管理していないビットコインを使って海外に資金を逃避させている。常に政府の規制と国民の知恵とのいたちごっこ状態だ」

 直近では、中国人民銀行(中央銀行)が9月4日、仮想通貨を利用した新しい資金調達方法である「新規コイン公開(ICO)」が違法と発表した。今回の規制も海外に資産が逃げないようにする処置とみられているが、ビットコイン相場はこの発表を受けて、その発表後の12日間で43%もの急落を見せた。現在のビットコイン相場は、中国要因で大きく上下するのである。

 しかし、ビットコインを持っていれば、インターネット通販だけでなく、実店舗でも使え、財布やクレジットカードを持ち歩く必要がなくなる時代が来るかもしれない。既に決済手段としても広がっており、日本国内では、ビックカメラや丸井、メガネスーパー、ソフマップがビットコイン決済を導入。大手だけでなく、個人が運営する一部のレストランやカフェなどでも使えるようになっている。

 今のところ、価格が安定しないのは「通貨」としては致命的だが、世界では、「ビットコインが本物のおカネになる時代」が確かに始まっている。

文=ジャーナリスト/森山 健

 

【ビットコイン】関連記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る