マネジメント

圧倒的に稼げる人とそうでない人との違いは何なのか。事業における成功と失敗の分かれ道はどこにあるのか。本シリーズでは、幾多の修羅場をくぐりぬけてきた企業経営者たちを直撃し、成功者としての「原点」に迫っていく。

ビジョンがグローバルWiFiを開始するまで

佐野社長3

(さの・けんいち)1969年生まれ。鹿児島県出身。91年光通信入社。95年有限会社ビジョンを設立し、国際電話サービス販売事業をスタート。96年株式会社に改組。その後、情報通信サービスの販売をWebマーケティングの活用により成長させ、12年には海外用モバイルWi-Fiルーターのレンタルサービスである「グローバルWiFi」を開始。15年東証マザーズ上場、16年東証一部への指定替えを果たす。

江上 前回は創業期までのお話を伺いましたが、次のステップアップはどのように行ったのですか。

佐野 決定的に状況が変わってきたのは2004年ぐらい、インターネットが本格的に普及し出してからです。営業マンにとっては、実力で一件の受注を勝ち取ることにこだわりがあるかもしれませんが、営業色が前面に出ている会社ほどインターネットに疎い傾向がありました。こちらから売り込んでいかなくてもネットでメディアを作って集客すれば、向こうから問い合わせがやってくる。これは、社会が変わると思いました。

 それまでは、商品やサービスを「要らない」と言う人にも売る努力をしていましたが、ネットでは欲しいと思う人以外は買いに来ません。潜在的な需要を掘り起こすのではなく、顕在化しているマーケットに対してお客様から声をかけていただけるというのは、電話しまくってドアを叩いて1件ずつ受注していった時代とは、やり方が大きく変わることを意味しました。

 そうやって、会社全体でネットの方向に振り切り始めると、顧客の声を以前より聴けるようになりました。インターネットの世界もセールスを行う人間がいて、どういうことを顧客が求めているかが理解できて初めて、受注や問い合わせが増えていきます。超営業体質から超ユーザビリティ重視に変わったことによって、人も辞めなくなりました。多くの見込み客がいて売れるからというのも理由の1つですが、顧客をある種説得して買っていただいているように感じていた、ある種の後ろめたさを感じなくて済むからです。

江上 どんなトップ営業マンでも疲弊していきますからね。私も今年7月に仮想通貨の交換業を手掛ける会社を作って、IT系の人間を採用して業務をシステム化したのですが、仕組みをつくって本当にニーズがある人にアプローチする必要があるということに気付きました。

佐野 インターネットによるマーケティングを活用することで、営業担当のスタンダードが上がります。顧客を守り易くもなるし、それでユーザー満足度が上がれば従業員満足度も上がるわけです。そこに気付いて動いていた最中に、商品の1つとしてWi-Fiのレンタルが浮上してきました。携帯電話は2年契約なので、通信速度が向上しても、デバイス側が対応できないことがボトルネックになっていましたが、いつでも自由に解約できるようにするというコンセプトで始めました。それが、グローバルWiFiのサービスにつながっていきました。

江上 それは画期的ですね。当初は無料で携帯を貰えても、2年縛りがあって買い替える人は少なかったですからね。

ビジョンの徹底的に顧客を守る仕組みとは

佐野 成功したもう1つの要因は、徹底的に顧客を守れる仕組みを作ったことです。営業会社では新規受注を取るのに時間を取られると顧客を守れなくなる、一方で顧客を守るほうに時間を取られると、今度は新規受注が取れないというジレンマに陥ることになります。新規が取れなくなると単価を上げざるを得ないので、トップセールスマンほど顧客を囲いこむようになります。そうなると売りっぱなしで顧客を大事にしない会社にはいられないということで、優秀な社員ほど辞めていく。

 そうした問題を解決するために、われわれはカスタマーロイヤリティチームという組織をつくりました。販売した後に専用のコンシェルジュがフォローする体制としたのです。営業顧客の獲得に専念して構わないことになり、その代わりバックヤードの人間がしっかりフォローできるようにしたのです。すると、こちらから出向かなくてもお客さまから問い合わせが来るほうが増えてきました。かたや営業マンは目の前の営業に集中できるようになって、すごく生産性が上がり、超高収益体質にすることができました。守る領域にこれだけコストをかけているのは、業界でわれわれ以外にないと思います。

江上 私が保険会社にいたときも、顧客を選任も持っているような営業マンは1人で全員を守らないといけなくなって、優秀な人ほど辞めていきました。佐野社長を見ていると「営業マンのために」「お客様のために」と、常に相手目線なのが分かります。上手くいかない人は、自分が儲けてやろうという自分目線が強すぎるのだと思います。

ビジョンの佐野健一社長がチーム作りで重要視していることとは

佐野社長4江上 それから上場まではトントン拍子だったんですか?

佐野 上場しようと思ったときはありました。ただその際は、会社のバリュエーションなどを調べていくと、上場益を得られるのは大株主の僕が儲かるだけ、と思えるような内容でした。それでは何の意味があるのかと思ってやめました。

 その後、グローバルWiFiを始めて2年ほど経った時に、ブレークスルーしそうなのが見えてきました。また、グローバルWiFiは初の自社ブランドです。上場によって世に知ってもらうことができて、ブランディングにも有効だと判断しました。

 また、「従業員の資産形成」ということもあります。自分たちで頑張った結果が市場に評価されて、リターンとして得られる仕組みを認めてくれるという点が、上場のメリットです。資金調達とブランディング、そして従業員の資産形成の3つが、上場した主な理由です。

江上 2015年に東証マザーズに上場してから、わずか1年で東証1部に指定替えを果たしましたが、いろんな準備を積み重ねてきたからこそできたのでしょうね。

佐野 会社は既に設立から20年ぐらい経っていたので、組織もそれなりにできていたし、要所にプロフェッショナルな人材を配置できていました。外部から入った人材も優秀で、チームに溶け込んでくれたのでやり易かったですね。

江上 チーム作りで重要視していることは。

佐野 毎週経営会議の場で、会社の健康状態のチェックや、人材の採用状況など、会社がどう動いているかを確認しています。会社全体の動きを理解しているメンバーが20名ほどいて、このメンバーのチームワークこそがキーだと思っています。実際とても仲は良いです。

 僕はオーナーですから1人で組織を引っ張ることもできますが、次の世代はチームで伸ばしていく体制になるでしょう。チームのメンバーには、無意味な競争をしてもらうようなことはしていません。そんなことをしなくても成長は出来ますし、お客様のために何をやれるようにするかに集中して考える方が重要ですから。

江上 大体の場合、不祥事を起こしている会社は、社員がお互い張り合いすぎたために隠蔽につながったりしていますからね。トップの考え方1つだと思います。

佐野 会社がどう動いているか、みんなの真剣度合いがどうなっているかがリアルタイムで分かる仕組みにしているので、「わが社の理念はこうだ」と洗脳するようなやり方はとっていません。全員が細かいことをしっかりやれば、理念に近づくことができると考えています。

江上 さらなる飛躍に向けて、どんなことを意識していきますか。

佐野 「やっぱりビジョンという会社は、いろんなことやるし面白いね」と思われる会社であり続けたいと考えています。自分としては、やりたいこと、やれること、やらなければいけないこと、の3つを軸に置いていて、人よりも情熱を持って事業をやりたいのか、情熱はあっても資金や人の面でやれる状況なのか、僕らでなくてはいけないことなのか、といったことを常に意識しています。

 もう1つは、会社にこもっていては成長できないと思っています。本を読むのも大事ですが、外に出て交流会や会合にできるだけ出掛けて行き、外部との接点を持つことを意識したいですね。それも、なるべく相手に来てもらうのではなくこちらから出向いて行く。そうやって相手を知ることは、学びが一層深まるのと、何かを一緒にできるかどうかを判断ができるからです。江上治×佐野健一(前編)

(えがみ・おさむ)1億円倶楽部主幹・オフィシャルインテグレート代表取締役。1967年生まれ。年収1億円超の顧客を50人以上抱えるFP。大手損保会社、外資系保険会社の代理店支援営業の新規開拓分野で全国1位を4回受賞、最短・最年少でマネージャーに昇格し、独立。著書に16万部突破『年収1億円思考』他多数。

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