文化・ライフ

二宮清純の「スポーツ羅針盤」

日馬富士、巡業先で同じモンゴル出身の前頭・貴ノ岩に暴行を働き引退

 大相撲の横綱・日馬富士が巡業先で同じモンゴル出身の前頭・貴ノ岩に暴行を働き、全治2週間のケガを負わせた責任をとって現役を引退した。

 暴行の理由を問われた日馬富士は、こう語った。

 「先輩横綱として弟弟子が礼儀と礼節がなってない。それを正して直して教えていくのは、先輩の義務だと思っています。弟弟子を思って叱った。彼を傷つけ、世間を騒がせてしまった。行き過ぎたことになってしまいました」

 これはあくまでも加害者側の主張であり、鵜呑みにすることはできない。仮に後輩の「礼儀と礼節がなってなかった」としても暴力は許されない。

 加えて言えば、日馬富士は貴ノ岩を「弟弟子」と呼んだが、部屋が違えば弟弟子にはならない。単なる「弟分」である。これまた、たとえ同胞であっても暴力は正当化されない。

 相撲界は昔から暴力に対して鈍感な面があった。2007年6月には時津風部屋で師匠や先輩力士から暴行を受けた時太山という若手力士が死亡し、相撲界の体質が問われた。

 事件発覚後、時津風親方(当時)は解雇を余儀なくされたが、その理由は「相撲協会の信用、名誉を著しく失墜させた」というもので、暴行事件に対する言及はなかった。

 監督官庁である文部科学省は北の湖理事長(当時)を呼んで、①協会独自の真相究明、②関係者の処分、③再発防止策の検討、④過去の類似例の検証、⑤検討委に外部有識者を加える――以上5つの指導事項を突きつけた。

 にもかかわらず、この3年後には横綱・朝青龍が一般人に暴行を働き、現役引退に追い込まれた。

引退した日馬富士をかわいがっていた朝青龍

 横綱審議委員会が「引退勧告」する前に引退を表明したのは、1億2千万円もの特別功労金を手にするためだったともいわれている。

 皮肉なことに日馬富士を誰よりもかわいがっていたのが朝青龍だった。似なくてもいいところまで似てしまったのは残念の一語である。

 相撲界には“かわいがり”という隠語がある。土俵上で兄弟子が弟弟子につける“しごき”に近い稽古のことで、よくいえば“愛のムチ”だ。

 実際、「かわいがりのお陰で強くなった」と口にする力士はたくさんいる。一人前になるための通過儀礼的な要素も含まれている。

 確かに強くなるためには限界を超える稽古が必要な時もあるだろう。しかし、度を過ぎると、それは単なる暴力に堕してしまう。

 まして日馬富士の暴行現場は土俵でも部屋でもなく飲食店だ。カラオケのリモコンという“凶器”まで使用している。これを愛のムチとは呼ばない。

 ただでさえ力士の成り手が少なくなっている昨今、暴力が日常化している世界に子どもを預けたいと思う親がいるだろうか。相撲界は自らの手で自らの首を絞めているように思えてならない。

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

筆者の記事一覧はこちら

 

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

「消費者が電力の供給者を自由に選択できる時代へ」―― 再エネ主体の「顔の見えるでんき」をコンセプトに掲げるみんな電力が目指すのは、富が一部の人々に独占されないフェアな世界だ。法人顧客を中心に、同社への支持が集まっている理由を大石英司社長に聞いた。(吉田浩)大石英司・みんな電力社長プロフィール 消費者が発電事業…

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る