文化・ライフ

今回のゲストは楷書の第一人者で泰書會会長を務める柳田泰山先生(柳田家4代目)。経済界創業者・佐藤正忠が書を習っていたのが泰山氏の父親の3代目・泰雲氏でした。親子2代にわたる交友がつないだ今回のご縁、受け継がれる書の真髄に触れる場となりました。

 

柳田泰山が抱く書家に対する思いとは

 

201802SANSAN_P01

やなぎだ・たいざん 1950年書家・泰雲の4男として東京に生まれる。25歳、新義真言宗総本山根来寺で約1年半、仏門に入り、経典の百箇寺奉納の大志を立てる。93年泰書會設立。楷書の第一人者として席上揮毫などを通し、書を広める活動を行う。

佐藤 以前、泰山先生の「席上揮毫(せきじょうきごう)」という、人前で大きな書を書くパフォーマンスを観て、その迫力と書の美しさに圧倒されました。あれは何メートルくらいの大きさでしたか。

柳田 5メートル四方ですね。筆だけで20キロ近くありますよ。

佐藤 重いですね。観に来られていた方も有名人が多数いらっしゃいました。書家というと気難しい先生方を思い浮かべますが、泰山先生は気さくでチャーミングですよね。

柳田 チャーミングではないですけれども(笑)、偉ぶっている人は僕も嫌いです。席上揮毫は最近の若手書家の流行りですが、実際は明治時代からあるもの。もっともあんなものは芸術ではありません。5分で書き上がるものを、もったいぶって演出して見せているだけですよ。

佐藤 はっきり仰いますね(笑)。

柳田 それでも書道は閉鎖的な世界ですから、多くの人に興味を持ってもらうには大事なパフォーマンスで、僕のイベントでも弦楽四重奏を流したりもします。書家も自己満足で終わらせず、多くの人に見てもらうという意識は必要です。書のパフォーマンスや映画化などを批判する人もいますが、人々が書に触れるきっかけをつくっているのだから素晴らしいことです。基本がしっかりしているならどんどんやればいい。

佐藤 泰山先生ならではの重い言葉ですね。最近は基本がないまま結果だけを性急に求め、表舞台で目立ちたがる人も多いですし。

柳田 本当にすごい人は表には出てきません。書家なんて社会の片隅で生き、そこで日本の伝統文化の一部でも支えられたらいい。親父の泰雲が「芸術家は一家に一代でいい」と言っています。犠牲になるのはいつも家族だから。僕は親父が亡くなった後、継母と喧嘩別れをし、柳田姓を隠して力を試そうとした時期があります。書の世界では継母の青蘭も有名ですが、行書、草書、篆書てんしょが主体です。そうした状況があり、お弟子さんたちから楷書をやってほしいと言われ、僕が始めたという経緯があります。

佐藤 父親の名前の犠牲になるというのは、うちの家族も同じでしたから、お気持ちはよく分かります。泰山先生は柳田家の4代目ですよね。

柳田 そうです。初代・正齋は儒学者で、2代目・泰麓が書道にし、3代目・泰雲が芸術に高め、4代目は先人が築き上げた名前を延命させて完結する。これが柳田流の書を脈々と受け継いでいく僕の考えです。

佐藤 柳田流のお弟子さんはたくさんいると思いますが、ダウン症の書家として活動する金澤翔子さんもそのうちの一人ですよね。

柳田 もともと翔子さんのお母さんは泰雲のお弟子さんでしたが、親父が亡くなったときに、「楷書でお経を書きたい」と僕のところに来たんです。そこで娘さんのことを聞き、引き受けました。翔子さんには厳しく指導し、本人も泣きながら書いていましたが、よく耐えましたね。彼女は仏心伴う人間性を持つからこそ、見る人を感動させる書を書けるのだと思います。

 

故・佐藤正忠が柳田泰山に与えた焼印のように背中に残る言葉とは

 

201802SANSAN_P02佐藤 泰山先生は「百寺納経」をされていますが、25歳のときの新義真言宗総本山根来寺の約1年半の修行がきっかけだそうですね。

柳田 そうです。3~4日で2800字を書き、それ以来、細かい字を書けるようになりました。百寺納経は親父が生前できなかったことでもあるので、僕がやろうと。ただ仏門に入ったのは、仏心があったからではなく、当時街で遊びほうけていて、親父に家を追い出されたからです。

佐藤 若いころはやんちゃだったのですね。私の父・正忠とのエピソードはありますか?

柳田 正忠さんは「守破離」という言葉を僕にくれました。今でも焼印を付けられたかのように離れません。いかに守り、破り、離れるかが問われますが、柳田流の書家としてそこに抵抗しています。徹底的に親父の真似をして、柳田流を守り抜いてやろうと。その努力があれば、自分の世界が開けるでしょうし、開けなければ努力不足だと。歳を重ねるごとに「守破離とは」という思いが胸を去来しますが、80歳を超えれば自然と分かるのかもしれません。

佐藤 父の言葉がそんな影響を与えていたとは! 今日お話を伺って、書にますます興味が湧きました。ありがとうございました。

似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=佐藤元樹

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る