マネジメント

圧倒的に稼げる人とそうでない人との違いは何なのか。事業における成功と失敗の分かれ道はどこにあるのか。本シリーズでは、幾多の修羅場をくぐりぬけてきた企業経営者たちを直撃し、成功者としての「原点」に迫っていく。

串カツ田中の企業理念

串カツ田中3

(ぬき・けいじ)1971年生まれ、大阪府出身。トヨタ輸送に勤務した後、27歳で独立。大阪にショットバーを開く。その後、大阪にデザイナーズレストランと東京に京懐石の店を開き繁盛させるも、リーマンショック後の不況で業績が悪化。倒産寸前に陥ったが、ショットバー時代に知り合った田中洋江氏(現串カツ田中副社長)の実家にあった串カツのレシピを再現し、「串カツ田中」をオープン。大人気を博す。2016年東証マザーズ上場。直営店、FC合わせて166店舗を展開(2017年11月時点)。

江上 串カツ田中の一号店が人気になった後、どのように拡大していったのですか?

 店が予想以上に当たって、半年に一店舗ぐらいのペースで出店できるようになりました。それまで大阪と東京で飲食店経営をやってきたし、串カツ屋は職人技も要らない仕事だったのですが、今思うとやり方が下手で、かなり適当でしたね。

 一店舗目を開いた時に知り合いの飲食店の役員さんがお祝いに来てくれて、その時に「君のところの企業理念は何か?」と聞かれました。「企業理念のない会社が成長したためしはないよ」と。こちらは「何ですかそれ?」といった感じです。何のために働くのかと聞かれてもお金を稼ぐためぐらいしか思い浮かばなくて。では、スタッフはなんのために働くのか、などいろいろと答えに詰まってしまった。

 それで気になって「企業理念」をネットで調べると、「全従業員の物心両面の幸福を追求する」という稲盛和夫さんの有名な言葉があった。それで今のとは少し違いますが、最初の企業理念は「お客様の笑顔を1人でも多く生むことにより社会貢献し利益を得、全従業員の物心両面の幸福を追求する」としました。すると、会社がガラッと変わったんです。企業理念があっても、ただ飾っているだけなら意味がありませんが、「企業理念ってなんや?」と思いながらも、僕がそれに従って行動しようとするようになったので。

江上 自分自身が変わると会社が変わるというのは深い話ですね。

 「全従業員の物心両面の満足」ということで、物はお金で買えるけど心はどうするか、とかいろいろ考えるようになりました。大阪のお店は売却して串カツ田中一本に絞ったのですが、やり甲斐と休みが両方ないと従業員は疲弊するので、4店舗目から完全週休二日にしました。4店舗目くらいからはみんなで慰安旅行に行くことにして、旅行先も毎年スケールアップしていて、少しでも良くしていくことを意識しました。それも企業理念に「従業員の物心両面の幸福」というのがあったからです。

 自分が串カツ田中を育ててきたというより、串カツ田中が経営で大切なことを教えてくれたと思っています。常に試練を与えてくれるし、手を引いてもらっている感覚ですね。経営が上手くない僕でも、串カツ田中は伸びていくからそれに自分が追いついていくしかないんです。

串カツのイメージを守るためにスピード展開

江上 苦労を10年された後の成長のスピードがすごいですよね。

 苦労はしていますが、意外と用心深い方なんです。

江上 私の顧客の経営者でも用心深い人が多いです。年配の方はよく、本当のお金持ちは50歳を過ぎてからだと言います。若い時にお金を掴んでしまうと、驕りが出て大体おかしくなる。それまでにどれだけ体験を積んで、人の気持ちが分かるようになれるかが大事だということです。

 飲食業界にも若い経営者は多くいますが、金遣いが荒い人を見ていると、羨ましいのが50%、可哀想にという気持ちが50%ですね。早く成功しすぎると、落ちることへの恐怖が長いだろうなと思いますし(笑)。

江上 フランチャイズの導入については、どうやって勉強されたのですか?

 本を読むのも得意ではないし、勉強は特にしていないです。できれば直営で全部やりたかったのですが、串カツ田中を模倣する店が出てきたので、これは急がなければいけないと思いました。これが焼き鳥屋だったらA店がダメならB店となりますが、東京で胸焼けがする串カツを売られたら、「串カツは胸焼けする食べ物だ」と思われてしまう。だから、最初に僕らの串カツを食べてもらうためにはスピード展開するしかない。それなら、フランチャイズの手法を取ればできるなと。アルバイトでもオペレーションできて儲かるからフランチャイズにするという気持ちは全然なかったです。

 串カツ田中が5店舗ぐらいの時から業界から注目されだして、そのころになると飲食業界の仲間も増え、SNSも普及していたので、紹介を貰ったりして成長が加速しました。勉強という意味では、「太陽の会」という飲食業界オーナーの勉強会にも参加しました。

貫啓二社長から経営者へのメッセージ

串カツ田中4江上 その会は今もあるんですか?

 あります。飲食業の発展を理念に掲げて、もう11年目ぐらいになる勉強会です。ゲスト講師を呼んだり、自分たちの評価制度などを出し合ったりして勉強しています。特に、入って1年くらいの時に聞いた鳥貴族の大倉忠義社長の講話の影響で、自分の経営がどんどん変わっていきました。

江上 大倉社長の言葉で、特に印象に残ったものはありますか。

 たくさんありますが「上場してもしなくても、いつでも上場できる会社にしておくことが大事」というのが特に響きました。最初に聞いた時にはあまりピンとこなかったのですが、串カツ田中が50店舗ぐらいになって上場を目指し出した時、すぐにその言葉の意味が分かりました。上場基準に達するために、ガバナンスやコンプライアンスなどに取り組んで行くうちに、企業が成長するのに必要な要素が全てそこに入っていることに気付いたんです。たとえば法令順守の点1つを取っても、スタッフに良い環境を作りたいと言いながら、アルバイトに有給休暇を与えるといった部分にまで完璧な意識は及んでいなかったですしね。教育や採用にもお金をかけるようになって、安定的に成長するための基盤ができました。

江上 まさに串カツ田中が教えてくれたということでしょうね。若い経営者に向けてメッセージを送るとすればどんなことですか。

 経営者かどうかにかかわらず、仕事が嫌だという気持ちがあるとしたら、それは思い込みではないかと思うんです。先日、勉強会で「もし警察に捕まったら、懲役刑と禁固刑のどちらが良いか」という質問をされました。禁固刑は朝昼晩の飯は食えるけど部屋から一歩も出られない。一方、懲役刑は労働しなくてはならない。すると、多くの人は労働がしたいと考えてしまうんですね(笑)。さらに、「誰でもできる仕事と難易度が上がっていく仕事のどちらがしたいか」と聞かれて、それなら成長できる仕事のほうがいいなと。

 人間には成長欲求があって、社会とつながることで生きがいを感じています。社会と一番繋がることができるのは仕事です。仕事が辛いもので、遊びが楽しいものという概念を取り払わないと人生は豊かにならないと思います。これは、うちの会社にずっといろという意味ではなく、アルバイトさんにもよく言ってることです

江上 仕事があるから休みも嬉しいということですね。メリハリやギャップは必要です。

 考え方を変えるだけだと思うんです。社会というものを意識して仕事をすることが大切なのではないでしょうか。江上治×貫啓二(前編)

(えがみ・おさむ)1億円倶楽部主幹・オフィシャルインテグレート代表取締役。1967年生まれ。年収1億円超の顧客を50人以上抱えるFP。大手損保会社、外資系保険会社の代理店支援営業の新規開拓分野で全国1位を4回受賞、最短・最年少でマネージャーに昇格し、独立。著書に16万部突破『年収1億円思考』他多数。

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