
仕事はエース級、でも社長の言うことを聞かず、身勝手な振る舞いを繰り返す影響的破壊者。第1回で解説した反逆的破壊者と同様に、組織を脅かす危険な問題社員(モンスター社員)だ。仕事はできるからと問題行動を容認・放置すれば、後々取り返しのつかないことになる。数多の労働問題を見てきた野崎大輔氏が今回も鋭く切り込みます。(聞き手・文=大澤義幸)
影響的破壊者の排除は若手育成の好機に
―― 第1回の記事「仕事をせずに文句ばかりの反逆的破壊者は早期排除を」には多くのアクセスがあり、facebookの「いいね」も1日で130超付きました。でもなぜか2日目から「いいね」が1に戻り、数が増えなくなりました。陰謀ですかね……。
野崎 誰の陰謀ですか(笑)。たくさんの方に読んでいただけるのはうれしいですね。最近は従業員保護が過度に叫ばれていますが、中には言葉の通じない問題社員もいます。ダメなものはダメと主張できる連載にしたいですね。
―― そうしましょう。今回は〈組織を乱すゾーン〉の中で、【業務遂行能力・成果】は高くても、【会社の価値観や経営者の思いに対する共感度】は低い、影響的破壊者について伺います。どんな特徴があるのでしょうか?
野崎 良い面の特徴は、頭が良くて仕事ができるハイパフォーマーであること。悪い面の特徴は、組織や経営者に批判的で、「会社のやり方は間違っている。社長は何もわかっていない。俺のやり方でやらせろ」と陰で吹聴したりすることです。営業職でも事務職でも、社歴が長いほど影響的破壊者になりやすい傾向がありますね。管理職であれば軍団をつくったりします。
―― 事務職も、ですか。よく会社のトップ営業マンが、「俺がいるから会社は回っているんだ」と井の中の蛙的に自意識過剰になり、影響的破壊者になりやすいイメージがあります。仕事ができるだけに、経営者は問題行動を容認してしまい、注意や指導がしづらいのでは?
野崎 注意しづらいのはありますね。また経営者が、「うまく回っているから大丈夫」と、危険性に気づいていないケースもよくあります。
―― そんな影響的破壊者をいくら指導しても更生しないとき、それがトップ営業マンなど会社のキーマンであれば、経営者は解雇を躊躇しますよね。売り上げが落ち込むのを心配して。でも、実際はキーマンが辞めても業務にそこまで支障は出なかったり、逆に若手奮起のいい機会になったりしませんか?
野崎 仰るとおりです。これは今回のポイントですが、影響的破壊者が組織のボトルネックになるためです。例えば営業成績の良いA部長がいるとします。A部長は自分のやり方で部下も動かすわけですが、A部長というボトルネックが外れることで、部下たちは思う存分、力を発揮できる機会に恵まれます。つまり、これが人材育成の好機になる。また、実はA部長の実績の陰には若手の働きがあったことなども明るみに出るかもしれません。
―― 裁量の大きな部門長がいる部署ほどブラックボックスになりがちですしね。
野崎 そうですね。そこでキーマンが辞めたときに、「A部長の成績は良かったが、あの強引な売り込み方は会社の方針にはそぐわない。お客さまにとって何が最良かを考えるのがうちのやり方。彼には理解してもらえなかったが、君たちは会社の方針を理解してくれると信じている。奮起を期待している」ときちんと説明するといいでしょう。辞めさせた罪悪感などから従業員に何も説明しないのが一番ダメなパターンです。
―― 経営者の説明がないとどうなりますか?
野崎 影響的破壊者に感化されて、「なぜあの人を辞めさせるんですか! 私も辞めます!」と言う人が必ず現れます。問題社員のいる組織では、経営者が「あることないことを言う人がいるが、真に受けないで」と従業員に話しておくべきです。もっとも、部下は上司に従うものだし、経営者よりも接触機会の高い同じ部署の人に影響されやすいので、日和見主義者が染まってしまうのは仕方ありません。経営者がやるべきは、日和見主義者を破壊者の近くに置かず、期待感をうまく伝え、中核人材や経営者人材に育てていくことです。
―― 影響的破壊者の影響力を弱める方策はありますか?
野崎 経営者が会社の方針を全従業員に伝える労を惜しまず、その頻度を増やすことです。これで問題行動を取る人が異質だと全社的に共有されますから。私もコンサル先の従業員と話すと、「会社の方針は聞いたことがない」という声が多数を占めます。一方で社長に聞くと、「それは何度も伝えている」と言いますが、頻度を聞くと年に2回くらいだったりします。そんな頻度では誰も覚えないし、勝手な解釈をする人が現れます。また評価基準も会社の方針に即したものとする。営業も数字至上主義ではなく、結果に至るプロセスを評価したり、管理職であれば部下の育成度合いも見たり、問題行動があれば降格させるのも効果的ですね。
―― それは効果がありそうですね。ただ、問題のある組織の経営者や経営陣は人や物事を感情で判断しがちで、評価基準に客観性が担保されていないような……。すると有能な人材を適材適所に配置できず、組織にひずみが生まれ、経営者と従業員の間にますます溝をつくってしまいそうです。
野崎 またよく見てますね(笑)。人は感情の生き物ですし、経営者も人ですから、そういう面はあります。だからガチガチのルールで固める必要はなく、会社の方針を最低限反映したものをつくり、従業員と共有できれば十分です。
相手に合った伝え方次第で更生する可能性も
―― 影響的破壊者に更生の余地はないのですか?
野崎 思考の方向性を変えることができれば、更生する可能性もゼロではありません。組織に批判的なのは理由があるからで、究極的には社長が好きか嫌いかに尽きます。その人の持論も熟慮した上で、経営者の考えを理解してもらえれば、会社のために力を発揮することもあります。
―― 実際に更生した例はありますか?
野崎 ありますよ。ある企業で影響的破壊者を管理職として抜擢したところ、中核人材に育ちました。社長が管理職としての資質を見いだし、「この立場で頑張ってほしい。期待している」と丁寧に伝え続けたんです。当初は斜に構えていた従業員も次第に会社の色に染まっていきました。これは社長が普段から従業員をよく観察していたからできたこと。正攻法はないので、相手に合ったやり方で伝えていくことが重要ですね。会社に反抗的な態度を取る人ほど、更生した後は強力な味方になりますよ。
―― 元ヤン先生みたいなものですね。それにしても、入社時はみな前向きな気持ちを持っているのに、早いと1カ月で問題社員になるケースも見かけます。なぜでしょう?
野崎 入社前の期待感と入社後の現実にギャップがあるからではないでしょうか。モチベーションが高すぎると持続するのも大変だし、あるきっかけでコロッと変わる可能性があるので要注意です。さて、ここで大澤さんに質問です。毎朝トイレ掃除や近隣の清掃活動などを行い仕事へのモチベーションを高めようとする会社がありますよね。そうした社風の会社はいかがですか?
―― うーん、私は合わないです……。もちろんデスクや共有スペースの整理整頓はしますが。あとは、業務に絡む研修であればやぶさかではありませんが、業務と関係のない登山やキャンプをさせたり、度胸試し的に街中で社訓を叫ばせる会社などは無理です……。
野崎 正直ですね(笑)。そんな私も度を超えた研修は苦手です。つまり、そうした研修が嫌だ、ふざけるなという考え方の人は、そもそもそんな社風の会社には入社しないし、強引にやらされればモチベーションも下がり、反発します。すると、仮に大澤さんや私がその会社でいくら好成績を上げたとしても、経営者人材や中核人材ではなく、影響的破壊者になってしまいます。
―― 確かに! その会社の評価基準によって誰でも破壊者にもなり得るわけですね。
野崎 そう。これを知っておくだけでも影響的破壊者への接し方は変わりますよ。逆に問題社員扱いされる人からしても、評価基準の違う他社で働けば幸せになれる可能性がある。これは別の回で詳しくご説明しますね。
(のざき・だいすけ)。日本労働教育総合研究所所長、グラウンドワーク・パートナーズ株式会社代表取締役、社会保険労務士。上場企業の人事部でメンタルヘルス対策、問題社員対応など数多の労働問題の解決に従事し、社労士事務所を開業。著書『「ハラ・ハラ社員」が会社を潰す』(講談社+α新書)など。
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