政治・経済

シニア世代に「やりたいこと」アンケートを取ると、必ず1位に上がるのが旅行だ。非日常を味わうとともに、経験のない風景、料理、文化に触れるのは楽しいものだ。このように、これまでの旅行は目的地で楽しむものだったが、最近では乗り物そのものを楽しむ旅行が増えてきた。料金もかなり高額だが、シニアを中心に人気を呼んでいる。

1泊2日23万円の都内を巡るバスツアー

201803TRIP_P01 「シニア世代のバス旅行」というとどんなイメージを持つだろうか。

 新聞の夕刊でよく見るバスツアーは、途中、観光地に寄り道しながら目的地に到着、目的地では地元の料理に舌鼓を打ち、翌日帰ってくるというもので、料金は1万~2万円。安いツアーなら1万円を切るものも珍しくない。値段の割には、観光地も回れるし料理も楽しめるため人気は高い。「年に数回のバス旅行を楽しみにしている」という夫婦の話もよく聞くところだ。

 それとは別次元のバスツアーも存在する。1泊2日のツアーで、全行程を通じて東京都内を出ることはない。にもかかわらず、ツアー料金は1人23万8千円(2人1室)。

 その内容はといえば、まずはタクシーで神楽坂に向かい、案内人と一緒に神楽坂の路地裏を散策したあと「星のや東京」にチェックイン。その後、築地に向かい、料亭「新喜楽」で観桜会となる。新喜楽は、芥川賞、直木賞の選考会が開かれることで知られる、東京を代表する料亭だ。この大広間に全国各地から取り寄せた桜を持ち込み、ツアーに合わせて花を咲かせる。参加者はこの桜を愛でながら料理を楽しむという趣向だ。しかも桜だけではなく、新橋芸者の踊りも花を添える。

 翌日はバスに乗り込み、皇居周辺や国会議事堂、虎ノ門ヒルズ、東京タワー、レインボーブリッジなどの東京名所を車窓から楽しむ。その間に鉄板焼きの昼食を取り、午後4時半に東京駅着、という内容だ。

 このバスツアーは、JTBロイヤルロード銀座が主催するもの。ロイヤルロード銀座とは、「2003年に設立した高品質の旅行専門店で、お客さまのどんな要望にもお答えする目的で設立した」(JTB)。

 それだけに、利用するホテル・旅館もレストランも超一流のものばかり。バスツアーの中には列車と組み合わせたものもあるが、列車移動はすべてグリーン車なのは当然として、利用するバスはこのツアーの特別仕様車で、定員は10人ないしは12人。まさに限られた人たちのための乗り物となっている。

 現在募集している、冬・春ツアーの中で、最も高いものは5泊6日の北海道ツアーで、料金は1人68万円。一方、一番安いのは5万円。これは2月末の日帰りツアーで、箱根の富士屋ホテルでフランス料理の昼食を食べたあと、湯河原の梅を見ようというもの。これ以外はすべて宿泊つきだが、料金はすべて10万円を超える。

 しかし数十万円のバスツアーで驚いてはいけない。

 今から1年前、ロイヤルロード銀座は1人当たり旅行代金1千万円の海外ツアーを販売した。ハワイ、イギリス、南米、アメリカ、フランスの5つのコースで、いずれも2人1組限定だった。例えばハワイなら、離島間の移動にはプライベートジェットを使い、各島のリゾートで、コンシェルジュの提案するアクテビティを楽しむといった内容だ。

 果たしてそんなツアーが売れるのかと、社内外から疑問の声も出たという。しかし、このツアーを発表するや、問い合わせが殺到した。そこで4月には第2弾となる11のツアーを販売したというのだから、反響の大きさがうかがえる。

 「豪華な旅」と聞いてすぐに思い浮かぶのが、クルーズ旅行だ。豪華客船に乗って、船上ライフを楽しむと同時に、寄港地の景色や文化を楽しむツーリズムの頂点ともいえる旅だ。21ページでも触れたが、日本人のクルーズ人口は増え続けている。ロイヤルロード銀座の利用者の中にもクルーズ旅行を申し込む人は多いが、2週間の地中海クルーズで50万円前後のものが多い。ただし、これに出発地までの飛行機代がかかることを忘れてはならない。

JR西日本「瑞風」は2泊3日で120万円

201803TRIP_P02 列車の旅も捨てがたい。今ではJR九州の「ななつ星」に、JR西日本の「瑞風」、JR東日本の「四季島」が加わったことで、市場が一気に拡大、旅行雑誌で豪華列車の旅が特集されることも増えた。

 「ななつ星」は九州を一周する旅だが、「瑞風」は中国地方の山陽ルートと山陰ルートを運行する。「四季島」は最も経路がバラエティに富んでおり、中には青函トンネルを通って北海道まで行くプランもある。どの列車も内装に趣向を凝らし、食事にもこだわった。しかも船の旅と違って、車窓の風景を見ているだけでも飽きることがない。それが豪華列車の旅の魅力となっている。

 その中で、最も高いプランは、「瑞風」の「ザ・スイート」を2泊3日で利用するもので、料金は1人120万円。「瑞風」のスイートルームは車両一つを丸ごと客室に改造した贅沢なもの。ベッドルームとリビングが別々なのは当然として、広いバスルームも設けてある。食事は一流シェフが監修した贅をこらしたものばかり。その食事を味わいながら見る日本海や瀬戸内の風景は、「お金に変えられない価値がある」と、実際に乗車した人たちは口を揃える。

 こうした評判が評判を呼び、「瑞風」は運航開始から2年近くがたっても、人気は一段と高まっている。しかも予約が取りにくいことが希少価値を呼び、それがさらに人気を押し上げる。

 ヨーロッパなどではオリエント急行など、古くから豪華列車の旅を楽しむ文化があったが、日本ではあくまで列車は移動手段でしかなかった。そのため新幹線がひたすらスピードを求めたし、飛行機の普及とともにブルートレインは衰退していった。列車に乗ること自体が目的という人は、一部の鉄道マニアを別にすればほとんど存在しなかった。

 その意味で、「ななつ星」で日本の豪華列車市場を開拓したJR九州の功績は大きい。

 年配の人の中には「海外に行っても疲れるだけ。それよりも日本国内で心のこもったおもてなしを受けるほうがよほど楽しい」という人も多い。そういう人たちにとって、豪華列車の旅はうってつけ。運航開始からまだ日は浅いが、既に豪華列車の旅は余裕のあるシニアたちの定番となりつつあるようだ。

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