政治・経済

北朝鮮の脅威が高まったことにより、2017年はこれまで以上に軍事と外交が日本にとっての重要テーマとなった。経済に目を向けると、株価上昇に沸き立つ一方で、根幹を支えてきたモノづくり産業が弱体化するなど、危うさも漂う。これらさまざまな課題に対して、日本はどう対峙していくべきなのか。グローバルな視点から、寺島実郎氏に斬ってもらった。 聞き手=吉田 浩 Photo=西畑孝則

本格的に検討され始めた対北朝鮮戦争のシミュレーション

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てらしま・じつろう 1947年生まれ、北海道出身。73年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産に入社。米国三井物産ワシントン事務所長、三井物産業務部総合情報室長、三井物産常務執行役員、三井物産戦略研究所会長などを歴任。2009年多摩大学学長、16年一般財団法人日本総合研究所会長に就任。

―― トランプ政権発足からの1年間をどう評価しますか。

寺島 トランプ大統領は就任演説で「保護主義こそ経済を強くする」とぶち上げたが、その公約を果たしていますよと言わんばかりに、産業政策については思い切り保護主義にアクセルを踏んできた。一方で、金融政策については、財務長官に元ゴールドマン・サックスのスティーブン・ムニューチン、商務長官に投資家のウィルバー・ロスを配置するなど、ウォールストリートに声援を送るような政権の輪郭がはっきりしてきた。

 例えばロシアゲートのような問題だけではなく、1兆円のインフラ投資や企業減税など、掲げていた公約がほとんど現実化していない段階から、株価だけが跳ね上がった。

―― 政治的リスクが高まっているにもかかわらず、株価が跳ね上がっている理由は。

寺島 ひとつは戦争経済への傾斜がある。先日のアジア歴訪で、トランプ大統領は日本でも韓国でもベトナムでも、セールスマンのように武器装備品やジェット旅客機を売り込んでいた。残念なことだが戦争の匂いがすると、スクラップ&ビルドを期待して経済が「はしゃぐ」傾向がある。

 また、トランプ政権は、軍事産業と非常にリンクしている政権と言うことができる。海兵隊出身のジェームズ・マティス国防長官に加えて、17年7月には同じく海兵隊の将軍だったジョン・ケリーが首席補佐官に就いた。歴代の米政権の中でも、これだけ軍の制服組に影響を受けているケースは珍しい。産業と金融と軍事を中心に政権が成り立っている構造がはっきりしてきた。

―― 北朝鮮問題が緊張感を増していく中、日本にはどんな影響があるでしょうか。

寺島 これまでは、トランプ政権の不連続性やトランプという人物そのものが持つ危うさがあったが、ここへきて、トランプ政権の対北朝鮮戦争計画の重心が下がってきている。戦争の怖さを誰よりも知っているプロの軍人たちが政権の中心にいることで、戦争の計画が浮ついたものからリアリティのあるものに変わってきている。

 対北朝鮮の戦争プランについては、「ウォー・プラン・ブラックスワン(国鳥計画)」とワシントンでは呼ばれ始めている。その中身は非常にリアリティを帯びていて、例えば軍事衝突が起きた時に、北朝鮮は核にせよミサイルにせよ一定の反撃能力を持っているから、それを徹底的に削ぎ落とさなくてはならない。反撃能力を残したら米本土まで目くらめっぽうにミサイルを打ち込んでくる可能性もあるので、一気に北朝鮮の体制転換まで持っていくつもりで臨む必要があるということが、軍事のプロたちは分かっている。

 イラク戦争を教訓に、戦争のシミュレーションは本格的に始まっている。軍事衝突が起きたら、まずは北朝鮮が依存するすべての情報通信システムを遮断する。専制体制の全体主義的な国家ほど、中央からの指令が途絶えたら一気に機能マヒに陥るからだ。同時に電源回路をすべて断ち切り、軍事施設を攻撃して反撃能力を徹底的に削ぎ落とす。ただし実際は米国から先制攻撃を仕掛けるのではなく、攻撃されたからやむなく反撃したというストーリーで入っていくだろう。相手を締め上げ、いら立たせて暴発させるというやり方だ。

 北朝鮮に対する国連の経済政策が強化され、米国によるテロ支援国家への再指定もあったが、何よりも効いているのは中国の制裁だ。特に、人民銀行を中心とした金融制裁が北朝鮮を麻痺させかけている。加えて今、日本に北朝鮮から漁船が流れ着いているが、背景にあるのは深刻な食糧難だ。北朝鮮では、田植えのシーズンに軍人が部隊から離れて農作業を手伝うのが毎年のパターンだが、昨年は米国のカールビンソンの展開などを受けて、軍人が現場を離れられなかった。気候条件だけでなくこうした人為的な条件も加わったため、農作物の収穫が大きく減ってしまった。そのため、海からの食糧確保のために、信じられないようなボロ船で漁に出ざるを得なくなっている。

日本は米国追従の姿勢で本当に良いのか

―― 今後の中国の出方について。

寺島 経済制裁の次は、中国が北朝鮮に軍事介入する可能性がささやかれ始めている。

続きは『経済界』2018年3月号でご覧いただけます。

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