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成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

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(ふなつ・とおる)1966年生まれ、福岡県出身。明治大学経営学部卒業後、金融機関に入社。退職後、七田眞氏と共に幼児向け英語教材の開発を手掛ける。2001年、日本、中国、韓国などアジア諸国からの移民子弟に英語を教えるTLC for kidsをハワイで開校。著書に『移民の国アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)がある。

世界に通用する人材を育てられない日本の教育

イゲット バイリンガル教育に限らず、日本の教育に欠けている部分は何だと思いますか?

船津 それはもう、受験ですよね。中学受験、高校受験、大学受験とすべて。基本的にはテストの点だけで合否を決めるシステムがある限り、今の形が変わるのは難しいと思います。偏差値だけで合否を決めていると、親としては勉強だけさせていればいいと思いがちになります。でも、残念ながら知識面では今やスマートフォンのほうがはるかに優れていて、知識を頭の中に蓄積する必要もない。知識の詰め込みや暗記などは、人間の仕事として意味がなくなってきています。そんな時代を迎えて、暗記主体の受験システムを引きずっていると、考える力やコミュニケーションスキルや問題解決能力といった、人間でなければできない能力の育成がないがしろにされてしまいます。これは、家庭教育でも学校教育でもそうです。

イゲット 日本では、ほとんどの子が塾に行っていますからね。

船津 それで将来自立できればいいですが。日本の家電企業なども、一時は一世を風靡しましたが、今はご存知の通りです。もっとクリエイティビティやチームワークや問題解決能力などの実践的な力を身に付けないと、日本の子供たちは就職できなくなってしまいます。今の日本の教育は、子供たちの可能性をどんどん小さくしている。大学受験については、ようやく変わりつつありますが。

イゲット 日本の大学が、ですか?

船津 はい。学力だけでなく課外活動やボランティア経験など総合力で合否を決めるAO入試(アドミッションオフィス)が広まりつつあります。ただ、中学受験から変えていかないと、根本的には改善されないと思います。小学校4年生から英語が正規教科になりますが、そうなると今度は中学受験で英語が出てくるようになって、また文法や解釈などテストのための英語教育になるでしょう。英語は多様な人たちを知るためのコミュニケーションツールです。テスト目的の英語教育では人間形成には役立ちません。今の受験システムがある限り、本当に子どもが自分の強みを生かせるようにはならないと思います。

世界で通用する人材の育て方

イゲット 日本の文科省も即座に動けないようなシステムですから、変革には20~30年掛かりそうな気がします。

船津 ただ、オプションは増えてきています。日本語と英語で授業を受けるイマージョンプログラムを取り入れる学校や、インターナショナルスクールが増えているし、世界標準の教育プログラムである国際バカロレア認定校を2018年までに200校にする計画があります。学校の選択オプションが増えることは親としては有難い。学校が多様化すると、親の考える力も要求されるようになると思います。

イゲット 確かに。学校の情報や勉強の仕方の情報がたくさんある中で、選ばないといけないのは母親になりますね。

船津 世界中でそうですが、やはりよくできる子は家でお母さんに教えてもらっています。小学生の国語や算数などは教えられるでしょうから、そこは塾に任せてはいけません。でも、日本のお母さんは謙虚だから、「自分は頭が良くないから」と言って塾に任せたりします。そんなお母さんには、「自分のことはひとまず棚上げしてください」と私は言っています。たとえば、自分が人付き合いが苦手だからといって、子供も苦手にする必要はないですからね。一番子供に近く、アドバイスを与えられるメンターとして、親身になってサポートしてあげると、子供のやる気の質が変わってきます。

イゲット 一方で、お父さんの役割というのはどういったものになるでしょうか?

船津 無理(笑)。というのは冗談ですが、平日帰ってくるのが遅かったら、休日はゴルフなんかに行かないで、せめて小学生時代くらいは子供の習い事や勉強に付き合ったりしてほしいですね。お母さんだけだと、どうしても行動範囲が限られてくるので、子どもを外に連れていき、普段とは別の社会を見せてやるのはお父さんの仕事です。虫取りや魚釣りといった体験は子供にとって「考える」訓練ですし、お父さんにとっても充実した時間になると思います。ティーンエイジャーになると、子供の生活は友だち中心になり、お父さんと遊びに行かなくなりますから。

イゲット これから世界に通用する人材になるために、必要な要素は何でしょうか?

船津 自主的なやる気ですね。これは教育でつけられるものです。日本は集団社会なので、集団の中での上下関係や調和を重視するがために、言いたいことも言いづらいし、言葉遣い一つとっても気を付けなければ、社会からはじき出される可能性がある。自分のやりたいことや好きなことを、思い切りやりにくい社会とも言えます。子どもの自主性というのは12歳ぐらいまでの間に決まってしまうので、その間にいかに子供が自主的に選んで行動しているかと思わせられるかが大切です。

イゲット 「思わせられるか」ですか?

船津 実際は親が導いていたとしても、「自分の意思でやっている」と子供に思わせられるのが上手い親です。下手な親は「勉強しろ」とか「本を読め」などと命令しますが、上手い親は子供に「自分で決めていいよ」と選択肢を与えます。遊ぶにしても、勉強するにしても、選ぶことによって、子供は自主性を持って行動しているという気持ちが生まれます。そういう意識を、小さい頃から家庭教育の中で親が与えることが子供のやる気につながっていきます。自分の所有物のようにわが子を扱うのは日本に限らずアジアの親全般に見られる傾向ですが、ちょっと視点を変えて、子供の人格を尊重することです。

イゲット 親のマインドを変える必要があるということですよね。

船津 個人主義、集団主義という捉え方をすると、社会全体が個人主義に向かっているからそれは仕方ないことです。もちろん、日本人としての集団の調和を大切にする部分は重要だと思いますが、それとやる気を潰すこととは違いますから。必要な場面では主体性を持って行動できるようにしておかないと、みんながフォロワーになってしまいます。

イゲット 確かに、日本はリーダーが育ちにくい国ではあると思います。

船津 子供の洋服や靴も親が買ってきて与えるのではなく、選ばせたらいい。同じような服ばかり選ぶかもしれないけど、それが個性だと思いますから。僕の学校の生徒にも左右でデザインが違う靴をいつも履いてくる子がいますが、それも個性ですから。

イゲット 「何でもいい」という子供にはどうすれば良いでしょうか?

船津 最初は、2つぐらいの選択肢から選ばせたらいいんじゃないでしょうか。情報も知識もない場合に「好きなようにしていいよ」だと、大人でも選べないですから。2つか3つの選択肢を与え、そこから選ばせてみてください。そして、選ばせたらその理由を聞いてください。なぜ、バナナじゃなくてリンゴなのか。なんとなくかもしれないし、赤が好きなのかもしれないし、食感が好きなのかもしれない。そうやって自分のことを知ると、自分がやりたいこと、得意なこと、好きなことにつながっていきます。今の日本の教育は、回りから与えられてばかりです。それなのに20歳になって、「これからは自分の人生を自分で選んで生きてください」と言われても無理ですよね。子供の頃から自分の意思で選ぶ経験を積ませてあげないと、自分は何が好きなのか、何をしたいのか、どう生きたいのかを考えることができません。これからの国際社会に太刀打ちできる人間は育たない。そういうことを心配しているから、世界に通用する子育てに取り組んでいるんです。

船津徹(TLC for kids塾長)が世界で必要とされる仕事

funatsu4イゲット 中国にも進出していますが、そちらではどのような活動をしているのですか?

船津 現地の方に任せないとうまくいかないので、中国人オーナーの方が中心となって、中国人の子供たちに英語を教えています。中国の英語熱は高いので、日本はすぐに追い抜かれるでしょう。

イゲット 中国人の方々は教育熱心ですよね。

船津 熱心ですし、そのための投資もかなりします。一人っ子政策は終わりましたが、1人の子に対して、両親もお爺ちゃんお婆ちゃんもお金を払いますから。中国は歴史的に国家によって国民が振り回されることが多かったので、教育に対する思い入れが大きいのです。「国家は信用できないけど教育は一生残る財産」という意識が強いようです。

イゲット 日本の子どもとの違いはありますか?

船津 やはりアグレッシブですよ。文化大革命の後、儒教思想が国家をダメにしているということで近代化を目指した影響もあり、しつけや道徳面で混乱している部分もありますが、何事にもチャレンジしていく力が強い。これは脅威ですよ。マナーは後からでも身につきますが、やる気や行動力は小さい頃から育つものですから。

日本も韓国も儒教の影響を受けているところは、集団を気にしすぎて個性が弱い傾向にあると思います。縦社会で集団の中のランクを意識して自分の行動を制限しているから、なかなか思い切ったことができにくい社会ではありますね。

イゲット 今後の事業展開で考えていることは?

船津 グローバルの進行によって人々が世界中を移動する動きは今後も広がるでしょう。それは世界語としての「英語」の重要性が増すということ。つまり、僕らの仕事がこれからも世界で必要とされるのは間違いないので、必要とあればどこへでも進出する用意があります。それぞれの国の事情があるので簡単ではないですが、親が母国以外に住む時に困るのは現地の学校に通う子供です。国境を越えて移動する子供に対する言語面、精神面のサポートが大事になります。

イゲット ますますのご活躍を期待しています。著書も出されていますよね。

船津 ダイヤモンド社から出した『世界標準の子育て』という本には、幼児期から青年期にかけての教育プロセスのエッセンスを書います。子供の教育に不安を抱えていたり、日本が変わりつつあると感じていたりする方には、ぜひ読んでいただければと思います。イゲット千恵子×船津徹(前編)

 

ChiekoEggedDSC_3145

(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

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