文化・ライフ

今回のゲストは、福岡県北九州市で創業108年を迎えるシャボン玉石けん3代目社長の森田隼人さん。30歳の若さで事業承継し、早10年。先代社長の意志を引き継ぎ、安心・安全な無添加の商品づくりにこだわります。「消費者に正しい情報を」と語る森田社長の思いに迫ります。

突然の社長就任劇も会社の新陳代謝は順調に

201803SANSAN_P01

もりた・はやと 1976年北九州市生まれ。2000年専修大学経営学部卒業。同年シャボン玉石けん入社。01年取締役。02年取締役副社長。07年30歳の若さでシャボン玉石けん、シャボン玉販売、シャボン玉本舗、シャボン玉企画社長に就任。

佐藤 ごぶさたしています。2011年の経済界大賞授賞式以来ですね。

森田 その節は優秀経営者賞を頂き、励みになりました。

佐藤 森田さんが社長になられたのが07年。半年後に先代社長のお父さまがお亡くなりになり、突然の就任劇だったかと思います。当時を振り返ってみていかがですか?

森田 私がシャボン玉石けんに入社したのが00年で、最初は関東の地方工場など現場を回り、2年目で副社長になりました。高齢の父は病を患っていたので、「役職が人を育てる」という考えから、若い私を要職に就けたのでしょうね。一方、私も問題が起きたら父に聞けばいいと甘く考えていたのが、父が予想よりも早く亡くなってしまい、突然、一人で経営のすべてをやる必要が生じました。そのときに決意したのが、会社を長年支えてくれているお客さまに、安心・安全なシャボン玉の商品を届け続けようということでした。

佐藤 「役職が人を育てる」と私の父もよく話していました。私も社長になってから経営や人の生かし方を現場で覚えましたし。これは笑い話ですが、私の社長就任が決まったとき、「娘が社長で大丈夫か?」と不安がる社員たちを前に、父は「バカ野郎! 経理部長はできなくても社長はできるんだ!」と怒鳴ったんです(笑)。ひどいですよね。

森田 面白いお父さんですね(笑)。

佐藤 事業承継後、お父さまの代から長年勤めている社員との関係はいかがでした?

森田 そこはスムーズにいきましたね。当社は1991年まで17年間赤字が続き、離職率も高めでしたが、黒字化した翌年以降は定着率が上がりました。私が入社した当時は新卒が多く、今の社員の平均年齢は33歳です。社歴が長い割に若手からベテランまで幅広く在籍しており、年上の役員も私をサポートしてくれます。

佐藤 年齢が近いと言いたいことを言えて、同じ時代を生きている分、価値観のズレも少ないですよね。若手が多く、ベテランもいるのにコミュニケーションにストレスがないのは良い環境ですね。

森田 そうですね。企業理念「健康な体ときれいな水を守る」の下、若手もベテランも一丸となっています。

社長就任から10年無添加を生かす派生商品も

201803SANSAN_P02佐藤 新商品開発や新しい事業展開はされていますか?

森田 2009年に感染症対策研究センターをつくり、産学連携で商品開発を行いました。そうした中で誕生したのが無添加の手洗い石けん「バブルガード」です。手洗いを中心とした感染予防の啓蒙を図り、今では病院や食品工場などでも採用されています。その後石けんリサーチセンターを起ち上げ、石けんの研究・開発により力を入れています。

佐藤 モノがあふれる昨今、世の中で無添加が見直されていますから、御社のような取り組みは大切ですよね。ほかにも環境に優しい消火剤の開発・普及にも努められているそうですが。

森田 そうですね。阪神・淡路大震災の教訓を元に、「少ない水で効果的な消火活動ができる消火剤」の研究を産官学連携で開始し、世界初の石けん系泡消火剤「ミラクルフォーム」を開発、07年から販売しています。山火事(森林・泥炭火災)の多いインドネシアでは政府と連携して普及に努めています。

佐藤 泥炭火災はあまり聞き慣れませんが、どういったものですか?

森田 泥炭火災は地中で化石燃料の元になるものが燃え続ける現象です。大量のCO2排出が人体や環境に悪影響を与えるばかりか、煙が航空などの交通インフラを妨げるなど、多大な経済損失を招きます。消火活動における水との違いは、腐葉土のような野原に放水しても流れてしまいますが、泡なので地中に浸透していきます。水の使用量も通常よりも少なくて済み、環境に優しいという利点がありますね。

佐藤 無添加に強みを持つ御社ならではの商品ですね。日本国内での展開はいかがですか?

森田 まだこれからですね。日本の消火はまだ水が主流なので、入り込む余地はあります。誰も靴を履いていない島に靴を売る、そんな感覚でしょうか。

佐藤 森田社長は以前から無添加の良さや合成洗剤との違いについて世の中に真摯に訴えていますね。石けんは私たちの身近にあるものだからこそ、良いものを選びたい。私も愛用していますが、御社の商品は衣類の着心地がいい気がします。

森田 そうですね。当社の洗濯石けんは柔軟剤を使わなくてもふんわりと仕上がります。正しい情報を伝えていくという側面からは、合成洗剤はせめて妊娠授乳期間中は使用しないなど、世の中に訴え続けていきたい。お客さまを大切にし、同じくらい社員を大切にして、生き生きと働ける組織づくりをしていくことが今後の目標です。

佐藤 お父さまの遺志を継ぎ、若手を引率し続けてくださいね。

 

似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=長島和美

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

過密日程の高校サッカー選手権に必要な「戦い方改革」

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

二宮清純の「スポーツ羅針盤」

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

上位進出を狙う高い壁はW杯初戦のコロンビア戦

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

日馬富士の暴行事件で自らの手で首を絞めた相撲界

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

“ティア1”の強豪を相手に日本ラグビーは白星を挙げられるか

[連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト

ハリルジャパンは「弱者の戦術」でどこまでブラッシュアップできるか

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第19回)

壮大な目標を立てると努力しない人材になる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る