政治・経済

今年の社長交代発表が佳境を迎えた。毎年、社長交代シーズンには「その年の傾向」が話題になるが、今年はみずほフィナンシャルグループ(FG)など多くの企業で「傍流子会社社長経験者」が選ばれた。従来なら社長レースの脱落を意味するところからの復活劇はなぜ起きたのか。文=関 慎夫

証券子会社社長からの抜擢人事

 1月15日、みずほFGは佐藤康博社長が会長となり、後任にみずほ証券の坂井辰史社長が就任するとの人事を発表した。この社長交代は、銀行関係者を驚かせた。

 まず第一に坂井氏が日本興業銀行出身であること。周知のように、みずほFGは第一勧業銀行、富士銀行、興銀の3行の経営統合によって誕生した金融グループだ。そのため、発足当初は3行それぞれの頭取がそのまま横滑りして共同CEOを務めたほか、持ち株会社みずほFGの下にみずほ銀行とみずほコーポレート銀行がぶら下がる形になった時も、3社のトップを旧3行出身者で分け合うという構図を続けてきた。三菱UFJフィナンシャル・ グループ(MUFG)や三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)のように、経営統合する際の主導権がはっきりしたケースと違い、みずほFGは「完全対等」を謳っていただけに、統合後も3行のバランスに配慮してきた。例えば、みずほ銀行頭取は、富士→一勧→興銀→富士→一勧の順に務めている。

 みずほFGの初代社長、前田晃伸氏は富士出身。そして2代社長が佐藤氏で興銀出身。3行のバランスに配慮するなら、今回新社長に選ばれるのは一勧出身者でなければならないはずだ。しかし結果は2代続けて興銀出身者。これはみずほFGの中で興銀の比重が重くなってきたことを物語っている。

 3メガバンクの中で、みずほFGの収益力はMUFG、SMBCに大きく水をあけられている。今期の9月中間決算では、メガバンク唯一の減益決算となった。

 低金利時代が続く一方で、企業の資金需要はそれほど高まっていないため、商業銀行の経営は長いトンネルの中にある。みずほ銀行は、メガバンクの中でも最も収益力が弱く、その改善が課題となっているが、思うようには運んでこなかった。そこでみずほFGは昨年、全従業員の4分の1にあたる1万9千人を削減することを発表した。しかしそれだけでは稼ぐ力はついてこない。そこでみずほFGでは、大企業の証券業務の拡大によって血路を開こうと考えた。つまり投資銀行としての色彩を強めるということだ。

 だからこその坂井氏への禅譲だ。旧3行の中で投資銀行色が一番強いのは言うまでもなく旧興銀。しかも坂井氏は2年間にわたりみずほ証券の社長を務めてきた。交代会見で佐藤氏が語った「証券を1つの機軸に据えながら、みずほが発展するというメッセージ」を実現するには、坂井氏は打ってつけだが従来のルールを逸脱するのもまた事実。

 三菱東京UFJ銀行では、昨年、2年連続となる頭取交代があった。一昨年就任した小山田隆頭取が体調不良を理由に退任し、三毛兼承副頭取が昇格した。小山田氏と三毛氏は同期入行であり、小山田氏の健康問題がなければ、三毛氏は三菱UFJモルガン・スタンレー証券に転じ、いずれは社長を務めることになっていたという。

 このように、メガバンクの人事でグループ内の銀行以外の子会社の社長に就任するということは、「上がり」を意味していた。そこで銀行マン人生の最後を迎えという意味だ。

 ところが、みずほFGは違った。佐藤社長は「指名委員会が決めたこと」と説明するが、いくら指名委員会が次期社長の指名権を持っていても、証券会社社長に転じ、トップ候補の下馬評にも上ってこなかった坂井氏の名が突然上げるわけがない。そこには佐藤氏の意思が働いているとみるべきだ。むしろ2年前から、投資銀行への道筋をはっきりさせるために坂井氏をみずほ証券社長に送り出したと勘繰りたくもなる。

 はっきりしているのは、低金利、企業の資金需要の減少、さらにはフィンテックの隆盛などで金融業界は大きな地殻変動に見舞われており、その変化に対応するために従来とはトップの選び方が大きく変わってきたことだ。みずほFGの今度の社長交代は、そのことを雄弁に物語っている。

 そしてこれは、銀行業界に限ったことではない。

本人も予想しなかった伊藤忠の社長交代

 多くの企業で社長までのルートがほぼ決まっていた。例えばかつての東京電力なら、東大出身で総務部長経験者、というのが王道ルートだった。そしてそのルートから外れることは、社長への道が閉ざされたことを意味していた。そしてルートから外れたことが最も分かりやすい例は、傍流子会社への転出だ。

 NTTドコモはNTTグループの8割前後の営業利益を稼ぎだす。しかし源流ともいえる地域会社NTT東日本の社長がNTT社長に就いた例があるが、NTTから派生したドコモ社長がNTT社長に就いたことはない。本流と傍流にはそれだけの格差がある。傍流に行ったが最後、本流に戻ってくることはできない。それが「常識」だった。

 ところがその「常識」は過去のものとなりつつある。傍流子会社であっても、そこできちんとした実績を残せば積極的に評価する企業が増えてきた。

 次稿で詳しく触れているが、2月2日に発表したソニーの社長交代もそうだった。

 4月1日付で社長に就任する吉田憲一郎氏の現在の肩書は副社長兼CFOだが、4年前までは子会社であるソネットの社長を務めていた。吉田氏はソネットを優良企業に育てあげた実績がある。現社長の平井一夫氏はそこを評価してソニー本体へ呼び戻し、二人三脚でソニーの構造改革を断行していった。

 さらに言えば、平井氏自身もゲーム事業のソニー・コンピュータエンタテインメント社長を経験している。しかも平井氏が入社したのはソニーではなく子会社のソニー・ミュージックエンタテインメント。エレキを本業とするソニーにしてみれば傍流中の傍流企業だった。そこの出身者がソニー社長として6年間務めあげ、最高益を花道に引退する。

 伊藤忠商事の次期社長、鈴木善久氏も本命候補ではなかった。鈴木氏は48歳で伊藤忠の執行役員となるなど出世街道を走っていたが、8年後に常務執行役員を退任、関連会社で航空機のシートなどを製造するジャムコへ転出、その後社長に就任した。本体の役職が外れたということは、その段階で社長レースからの落伍を意味する。誰もがそう受け止めた。

 ところが鈴木氏が在籍した5年間でジャムコの売り上げは429億円から915億円と2倍以上に急伸した。これを勲章に、鈴木氏は2016年に伊藤忠専務執行役員として復帰する。それでも一度社長レースから降りた人間が後継者になるとは本人でさえ思っていなかった。それがなぜ社長に選ばれたかというと「野心がなかったから」(岡藤正広・伊藤忠商事社長)というのだから何が幸いするか分からない。しかしその前提としてジャムコの実績があったことは間違いない。

今や子会社社長は本体社長への登竜門

 時代によって新社長の経歴にもはやりすたりがある。80~90年代は技術の時代と言われ、メーカーの社長は技術者から選ばれることが多かった。また90年代になると、経営企画出身者がもてはやされるようになる。グローバル化が進展すれば国際経験の豊富さが社長の条件のひとつとなり、それは今日に至るまで続いている。

 そして最近は、ここまで見てきたように、従来では上がりと思われたポストでも、実績を残すことで本体に凱旋、社長レースに復帰するケースが増えてきた。規模は小さくても独立した企業のトップを務めることで、経営者としての資質が磨かれる。また選ぶ側からすれば、そこでの働きをみることで経営者としての評価をくだすことができる。そのため今後は、将来の社長候補に関連会社の社長を任せるケースが増えてきそうだ。冒頭で紹介したように、保守的な人事を行ってきたメガバンクでさえそうした人事を行う時代になった。昔の常識が今は通用しない。

 ということは、仮に出世レースから外れたところで落ち込むことはない。与えられた場で実績を残せば、復活できる可能性は昔に比べればはるかに高くなっている。逆に出世競争を順調に勝ち進んでいるとしても安心してはいけない。蹴落としたと思ったライバルが突如急浮上するかもしれないのだ。

 2018年の社長交代はこれから後半戦を迎える。その中にも数多くの大逆転人事があるはずだ。

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