マネジメント

 eコマース拡大による小口荷物の増加や人手不足が現場を直撃し、超過労働などの問題が起きていた宅配業界。最大手であるヤマト運輸も昨年から、収益体制や働き方改革など、構造改革を進めてきた。年末年始の繁忙期を終え、改革の道筋、その先は見えてきたのか、ヤマト運輸の長尾裕社長に聞いた。聞き手=古賀寛明 Photo=佐藤元樹

長尾裕社長が語るヤマト運輸の構造改革のポイント

▼背景▲

 インターネットの普及と、スマートフォンの浸透によってeコマース市場は急激に拡大、その結果、小口荷物の数は増え続け、ヤマト運輸の宅急便も近年は年間1億個ペースで増え続けていた。一方、日本の労働人口は減少を続けており、圧倒的な人手不足の中で荷物が増え続けた結果、そのしわ寄せで最前線の現場が逼迫。ヤマト運輸でもサービス残業が常態化するなど労働環境が悪化。働き方改革を経営の中心に据え、構造改革を行うこととなった。

▼改革▲

 2017年9月、中期経営計画を発表したヤマトホールディングスは、働き方改革を中心に据えた構造改革を行うと発表。その中には、デリバリー事業の構造改革も含まれていた。

【ポイント1】宅急便の収益性改善

 17年上期から大口の法人顧客を中心に値上げ交渉を実施。それまで荷物が増えても利益が上がらない状態が続いていたが、そうした収益性の課題を解消するきっかけになった。また、荷物の総量コントロールを要請し、17年10月から対前年比で小口荷物は減少し現場の負担は軽減している。

【ポイント2】複合型ラストワンマイルネットワークの構築

 これまでヤマト運輸では配達だけでなく、集荷や営業なども行うセールスドライバー中心の体制をメーンとしてきたが、今回、配達が集中する夜間の時間帯に対応するため、配達特化型ドライバーネットワークを構築する。20年までに1万人体制を築くと発表した。また、そのほかにも大口や規格外の荷物の納品を担う域内ネットワークの構築も目指している。

【ポイント3】テクノロジーとオープン化

 働き方改革に1千億円規模の投資をすると発表しているが、人口減少は止まらないため、それを補うITやテクノロジー分野への投資も積極的に行うことを表明している。宅配ロッカーのほか、DeNAとは共同で自動運転社会を見据えた「ロボネコヤマト」の実証実験を進めており、そのほかにも、EC事業者に対し、自社技術のAPIを公開することで、会員組織であるクロネコメンバーズのサービスである荷物を受け取る場所や時間を変更する機能をEC事業者のサイトでも行えるようにするなどIT分野でもオープン化を進める。

新生ヤマト運輸の基盤とは

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ながお・ゆたか 1965年、兵庫県生まれ。高崎経済大学卒業後、ヤマト運輸に入社。執行役員関東支社長、常務執行役員を経て、2015年代表取締役社長に就任。

―― 値上げを行い、12月の繁忙期に突入しました。年末年始の状況はいかがでしたか。

長尾 12月は宅配の需要が最も集中する時期になります。大口法人のお客さまに総量抑制やプライシングの交渉、出荷調整等を要請させていただきましたが、多くのお客さまにご理解とご協力をいただいたことにより、想定したものと近いボリューム(17年12月の小口貨物取扱実績2億2千9万5731個 対前年比94%)になりました。

 現状の戦力で賄えるサービスを事前予測に照らし合わせてプランを練っていましたが、大きな混乱もなく12月を終えることができました。

―― この1年、物流業界の状況が報道によって世間に知られ、そのための改革を進められていますが、顧客の反応はいかがでしたか。

長尾 10月に宅急便の基本運賃を27年ぶりに改定させていただきました。大口法人のお客さまには上期を中心に総量の抑制や運賃改定の交渉をしてきました。当然ながら他社に利用を移されたクライアントもいらっしゃいますが、多くのクライアントの皆さまに一定のご理解とご承諾をいただいています。

 また、個人、法人のお客さまからそれぞれ、いろんなお言葉をいただきました。あらためて感じたのは、やはりヤマト運輸という会社は、普段から当社のセールスドライバー(SD)とお客さまとが交わすコミュニケーションによって支えられているのだということでした。再配達が多いという報道からか、お客さまからねぎらいの言葉を掛けていただいているという声を数多く聞きます。

―― 人手不足が深刻なのは変わりませんか。

長尾 そうですね、さらに厳しくなっている認識です。

 これだけ労働人口が減少していますし、仕事内容、働くニーズも多様化していますから、採用にあたっては「このような働き方のできる人を求めています」といった思考ではなく、応募者の需要に合った働き方を提示していかなければ、新たな人材を確保することも難しくなっています。そして、働いていただく以上は長く働いていただきたいので、定着のための環境整備にも投資をしなければなりません。

―― 「働き方改革」に1千億円の投資をすると発表されましたが。

長尾 金額は大きいですが、その内訳は多岐にわたります。

 新たな採用に関するもの、例えば、「複合型ラストワンマイルネットワーク」(17ページ参照)と名付けた時代にあった配達ネットワーク構築のための新しい人材投資だけでなく、既に働いていただいている方への労働条件の改善もあります。

 給料もそうですが時間や日数、働く環境をどう考えていくか。福利厚生に関しても、今まで以上に充実させ、賃金水準以上のものをいかに提供していくか、という課題もあります。また、当社の営業拠点は全国に4千ありますが、ネットワークの効率化とともにその拠点をより働きやすい環境にしていくためにも、より一層の投資をしてまいります。

ヤマト運輸が目指す新しい価値の創造

―― 新たなテクノロジーの導入にも積極的ですね。最近、駅なかのオープン型のロッカーも目立ってきました。

長尾 オープン型の宅配ロッカー(PUDO)に関しては、当初はもう少しゆっくりしたペースで増やしていこうと考えていましたが、設置台数のペースを上げています。ある程度まとまった台数がなければ認知もしていただけません。この3月末までに3千台の設置を目指し、4月以降も設置台数を増やして、ある種のインフラになるように進めています。それは、単に不在配達をなくしましょうという短絡的なものではなく、例えば、自宅以外の場所で受け取ることが便利な場合もあるという新しい価値を提供していきたいということです。

―― 具体的には、どういった場合でしょうか。

長尾 例えば、工場でのロッカーの設置です。大きな工場ですと多くの方が働いておられ、工場内に設置したロッカーに配達してもらえれば会社で受け取れ、車通勤の方も多いので、そのまま車に積んで帰れる。会社にプライベートの荷物を預かってもらうのには抵抗があってもロッカーならば問題はなく、車だから負担も少ない。

 もちろん自宅で受け取る優位性は変わらないでしょうし、必ずロッカーで受け取ってほしいというわけでもありません。ですが、10回の内1回でもロッカーで受け取ったほうが便利になる場合もあるでしょうし、少しでも便利な機会となる新たな価値を生み出していきたいと考えています。

 当社のロッカーを含め複数の会社のロッカーが点在するのは、お客さまの利便性や効率の面から言っても問題であると考え、PUDOは「オープン化」の思想で、複数の会社に相乗りしていただいており、現在は佐川急便、DHL、中国の順豊エクスプレスにも利用していただいています。

地域課題を解決するヤマト運輸の思想

―― このオープン化という考えは今後進むと思いますか。

長尾 ロッカーのオープン化だけでなく、営業拠点も全国に4千ありますので、この施設のオープン化も考えています。

 郊外に行きますと、トラックでの配達がメーンですから敷地も広く、SDが出て行くとかなりガランとします。その空いたスペースをビジネスの拠点として使ってもらえないかという提案を行っています。

 分かりやすい例を挙げると、多様な商品の販売や保守メンテナンスを行う方々は、まず営業所に出勤し、商品や部材を揃えてから営業先をまわります。しかし、これでは営業所に在庫も貯まるし、効率的でない場合も出てきます。そこで、最寄りの当社の営業拠点に、あらかじめ商品や部材を送っておいてもらえれば、それをピックアップして営業先をまわることができます。また、当社の営業施設のコピー、FAX、PCを活用していただくことができれば、極端な話、自前の営業所が必要なくなるのです。

 社会全体で生産性や効率が一層求められているからこそ、こうしたトライアルを行っています。

ヤマト運輸の「着」目線とは?

―― クール宅急便といった画期的なサービスをこれまでも生んできましたが、こうした新ビジネスをなぜ生み出すことができるのですか。

長尾 ヤマトの思想の中にある「着」目線ということが挙げられると思います。荷物が到着する側の目線ということです。

 われわれは、荷物を受け取るお客さまを最優先して基礎設計しています。受け取るお客さまのご要望に応えるために、よりお客さまの身近な場所に出店していますので、採算上厳しい営業店もあります。

 地方は宅急便だけでは利益が出にくいですが、逆にネットワークを生かした宅急便以外の事業に力を入れていけるともいえます。

 中期経営計画にも明確に「地域」という言葉を入れており、われわれの経営資源をオープン化することで、地域課題の解決の一助になればと考えているのです。CSR(企業の社会的責任)ではなくCSV(共通価値の創造)の観点で、本業を通して、地域の課題解決を生み出すビジネスモデルをつくるチャレンジを続けています。

一個でも荷物があれば毎日届ける

―― 以前から地方の課題にも取り組まれていますね。

長尾 一昨年あたりから、路線バスや鉄道で客貨混載を始めていますが、これも客貨混載自体が目的ではなく、地域の本質的な課題解決につなげていこうという動きです。岩手や宮崎も、地域の足となる交通網を守るのは大きな課題です。またわれわれも、1個でも荷物があれば毎日届けます。1個しかなければ1週間貯めて運びましょうということはありません。

 創業者の小倉昌男は「1個でも荷物があれば、毎日行く」というのが宅急便だと言っています。かつて、「東京から荷物を出して高崎まで翌日荷物を届けるのは誰でもできる。でも、赤城山の山頂の社務所まで届けられるかというとやらないんです。では『やれない』のかというと、採算が合わないから『やらない』だけであり、やれることをちゃんとやることが良いサービスだ」ということを申しました。

 効率だけ考えればやめたほうがいいことはたくさんあります。しかし、コンビニにしても、毎日商品がきちんと並んでいるから私たちは行くわけです。われわれも同じです。インフラとしてお客さまに認知をしてもらうために、お客さまのニーズに合った良いサービスを提供し続けていきます。

 宅急便は42年目になりますが、地域課題は顕著になっていますから、宅急便のビジネスだけでなく、もう一歩前に踏み出すことが、われわれの新たなビジネスを生むと考えているのです。

 今回、値上げをしてご負担をかけておりますので、数年後、ヤマトは返してくれたなとお客さまに言っていただけるように努めてまいります。それは性急に利益を戻してという話ではなく、これから先の安定的な良いサービスをいかにつくり直すかというところで、投資すべきところにはしっかり投資し、働きやすくなる仕組みをつくり、希望が持てる組織にしていかねばならないと考えています。

 

 テクノロジーの活用は当たり前だが、日本全体の生産性や効率化を考えるならば個社の事情とは別に、いろんな分野で技術やインフラのオープン化という「思想」がより必要になるはず。ただ、自社の知的財産を提供するだけに、決断は難しさも伴う。それだけに、こうした流れは広がっていくのか、注目したい。

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