文化・ライフ

今回のゲストは、今から34年前に産婦人科医となり、2002年に銀座にクリニックを開院し、女性の身近な「かかりつけ医」として診療を続ける対馬ルリ子医師。男女が手を取り合い、健康で幸せな人生を過ごすために、女性の出産や生き方をどう考えるべきか語り合いました。

産むことが選べる時代だからこそ計画性を持ってと語る対馬ルリ子氏

201804SANSAN_P01

つしま・るりこ 青森県八戸市生まれ。1984年弘前大学医学部卒業、東京大学医学部産科婦人科学教室入局、都立墨東病院周産期センター産婦人科医長などを経験。2002年ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック(現女性ライフクリニック銀座)開院。

佐藤 先日、JR常磐線車内で女性が出産してニュースになりました。たまたま隣にいた元看護助手がお産を手伝ってくれたそうですが、これには驚きました。少子化が問題視される中、女性の出産を取り巻く状況は昔と今で変わりましたね。

対馬 昔はそのような「墜落産」も多く、女性は「子どもをたくさん産んで早く死ぬ」存在でした。1960年代に経口避妊薬ピルができて、女性は自分のライフステージに応じて産む・産まないを選べるようになり、さらに70~80年代の経済発展の結果、「リプロダクティブヘルス・ライツ(女性の性と生殖にかかる健康と権利)」が実現し、女性は「お産で命を落とさず、赤ちゃんも健康に育つ」ようになったんですね。女性が幸せな人生を送る第一歩を踏み出したのが70年代と言えますね。

佐藤 先生がおっしゃるように産む・産まないを選べるのは幸せだと思いますが、そうはいっても女性には妊娠・出産できる旬の時期がありますよね。

対馬 そのとおりです。妊娠・出産に適した期間は20~30代です。アメリカに住む姪からは、「なぜ日本人は20代のうちに元気な卵子を取っておかないの? 凍結しておけば後で使えるのに」と指摘されますが、日本では卵子凍結など考えずに早く産むべきと批判されますし、また日本産科婦人科学会は配偶者のいない女性の不妊治療を認めていません。女性が生き方を選べるほど経済発展した一方で、その生き方を許さないというせめぎ合いがあるんです。

佐藤 そういう状況が少子化に拍車をかけているのかもしれませんね。先生から見て、少子化の原因と思われるものはほかにもありますか?

対馬 痩せすぎな若い女性が増えていることも問題です。でも女性はエネルギー余剰がないと排卵が止まったり、ホルモンバランスが崩れて心身が不安定になります。そんな体で出産すれば、赤ちゃんにも悪い影響を与えます。最近は夜遅く帰宅して、疲れたから、太るのが嫌だからと夕食を抜いてお菓子で済ませる女性も多く、栄養不足は深刻ですね。

佐藤 飽食の時代なのに栄養不足なんて……。健康リスクに気づくためには、健康診断も大切ですよね。

対馬 そうですね。ただ健康診断では、乳がんや子宮頸がん検診はできますが、子宮筋腫や卵巣腫瘍などの状態や機能は全く診ていません。エコーやホルモン検査も必要です。男性向けに始まったメタボ検診を受けさせるよりも、女性特有の膠原病や甲状腺の検診など、年代に応じた予防的な検診もしてほしいものです。

佐藤 出産にも関係する病気ですしね。最近は晩婚化が進んでいますが、40代になって初めて産みたいという女性も来院されますか?

対馬 多いですよ。先日も40代女性が来られて、抗ミュラー管ホルモン検査で卵巣を調べたところ卵子がだいぶ減っており、「妊娠は難しい」と伝えたら、「私は真面目に仕事をしてきて、毎年健康診断も受けてきたのに、そんな大事なことは今まで誰も話してくれなかった!」と半狂乱になり、スタッフと共になだめました。出産適齢期の話をしましたが、女性自身も出産の計画性を持って人生設計することが大切です。

佐藤 そのためには若い頃から恥ずかしがらずに婦人科で相談することも大事ですね。

対馬 はい。例えば出生率の上がっているフランスでは、70年代には「かかりつけ婦人科医」に相談するのが当たり前でした。10代で生理が始まったら親と一緒に婦人科に行き、妊娠が疑われるなら1人でも行きます。婦人科検診は特別なことではないという文化があるのです。

対馬ルリ子氏の思い 男女の差があるからこそお互いを気遣える関係を

201804SANSAN_P02佐藤 女性には更年期がありますが、男性にもあるのでしょうか?

対馬 女性は卵巣寿命があるので、更年期の50歳前後に健康状態がガラッと変わります。気分障害など症状が多いのが特徴ですね。男性は遺伝的な部分と生活習慣で偏りのある部分が少しずつ弱っていくので自覚しづらいのが特徴です。短期集中的に気力と体力で頑張れますが、大病を患ったり急死する確率が高いので、生活にゆとりを持って長い人生を送れるよう、周囲が予防の観点から気をつけてあげるといいですね。

佐藤 男女が共に助け合うことのできる社会は素敵です。

対馬 そうですね。でも私が医者になった当時なんて産婦人科は男性社会で、「24時間体制で緊急手術もあるし、女性には無理だ」と言われましたよ(笑)。

佐藤 女性を診る科なのに!

対馬 だから産婦人科を女性の働ける環境にしたくて、「産婦人科医は女性の健康アドバイザーになりましょう」と言い続けてきたんです。今は若い産婦人科医の7割は女性です。男性も女性も1人で頑張るのではなく、みんなで助け合って頑張ればいい。自分が頑張れるときは、周りのために生きる。これが当たり前の世の中になるのが私の理想です。

似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=佐藤元樹

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

コエンザイムQ10のCMで知名度向上、売上高1兆円を目指すカネカ--カネカ社長 角倉 護

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年9月号
[特集]
65歳からのハローワーク

  • ・総論 働く上で「年齢」は意味を持たなくなる
  • ・50歳からの15年間の準備が豊かなセカンドライフを保証する
  • ・エグゼクティブのセカンドキャリア最前線
  • ・企業のシニア活用(富士通、ネスレ日本、鹿島)
  • ・副業のすすめ 現役時代の副業は定年以降のパスポート
  • ・島耕作に見るシニアの今後の生き方 弘兼憲史

[Special Interview]

 赤坂祐二(日本航空社長)

 「中長距離LCC事業には挑戦する価値がある」

[NEWS REPORT]

◆社員の3分の1を異動したWOWOWの危機感

◆迷走か、それとも覚醒か B2Cの奇策に出るJDI

◆外国人労働者受け入れ解禁で どうなる日本の労働市場

[特集2]

 開幕まで1年!

 ラグビーワールドカップ2019

ページ上部へ戻る