政治・経済

「日本の常識は世界の非常識」と言うが、日本の現金決済比率の高さもそのひとつ。お隣中国では、スマホひとつで何でも決済できるのに、日本ではなかなか進んでこなかった。しかしこのたび銀行界が一致団結。新たなるスマホ決済サービスを始めるという。その勝算やいかに――。文=関 慎夫

ブロックチェーンを利用した日本版スマホ決済

201805smartphonePHOTO

沖田貴史・SBIリップル社長

 仮想通貨取引所「コインチェック」を舞台に起きた580億円の不正引き出し事件は、発生から約2カ月がたった今でも、その全容が分かっていない。

 2013年に起きたマウントゴックス事件、そして今回のコインチェック事件により、「仮想通貨=危険」のイメージが定着した。それもあって、昨年末に230万円をつけるなど暴騰していた代表的な仮想通貨、ビットコインの価格も、2月には60万円台を記録、直近でも100万円前後とピーク時の半値以下にとどまっている。それもあって海外の金融機関関係者の間では「ビットコインは終わった」「金融取引には使えない」との見方が出始めている。

 しかしその一方で広がり続けているのが、ビットコインの中核技術であるブロックチェーンだ。

 ビットコインは、08年にサトシ・ナカモトなる人物がインターネット上で発表した論文に書いたブロックチェーン技術からすべてが始まった。従来の通貨の信用は中央銀行が担保する。ところがビットコインは、取引記録をブロックと呼ばれるデータの単位に記録し、これをチェーンのように永続的につなげていくものだ。つまり過去の取引がすべて記されているため、改ざんは不可能だ。しかも管理を一機関の巨大サーバーで行うのではなく、ネットワーク上の多くのコンピュータで分散して管理する。ブロックチェーンを分散型台帳技術と呼ぶのはこのためだ。同じデータが分散して保管されるためシステムダウンに強く、かつ運用コストが安い。これがブロックチェーンの最大の特徴だ。

 しかもこの技術は、金融はもちろん、不動産や知的財産など、台帳を伴うすべての取引に応用できる。ベルギーでは住民票など行政サービスにブロックチェーンを活用する検討を始めたほか、戸籍台帳の整備が十分ではないアフリカの国などでは、戸籍そのものをブロックチェーンで管理しようとの動きがある。

 そのため最近では「ビットコインはインチキだがブロックチェーンは本物だ」という言葉も使われるほど、ブロックチェーンはビットコインを超えて普及し始めた。

 3月7日、東京・赤坂で開かれた会合は、それを裏付けるものだった。

 会合の名前は「『内外為替一元化コンソーシアム』成果発表会」で、出席者の多くが銀行など金融機関関係者だった。内外為替一元化コンソーシアムは、ブロックチェーンなどの最先端技術を活用することで、真に効率的な決済システムを構築するために16年10月に設立された。

 具体的には①国内外為替の一元化②24時間リアルタイム決済③送金コストの削減と新市場の開拓――を目指し、これまで技術開発を進めてきた。

 参加したのは銀行や信用金庫などの金融機関だが、コンソーシアム設立前は当初15行程度でスタートし、30行にまで拡大する予定だったが、実際には当初から42行が参加、現在は61行となった。この中にはメガバンク3行のほか主要地方銀行、ソニー銀行などネット銀行、そしてセブン銀行やイオン銀行など流通系銀行も参加しているが、今後さらに増える見通しだという。

 「日本の金融システムはインターネット以前のシステムが使われていて非効率だった。新たな顧客ニーズに対応する必要性を感じていると同時にブロックチェーンに対する関心が高まっている」(コンソーシアム事務局を務めるSBIリップルアジア社長の沖田貴史氏)ため、参加行は想定より多くなった。

日本版スマホ決済で限りなくゼロとなる送金手数料

 コンソーシアムではこれまでの1年半で、決済プラットフォームの構築を進め、商用化にめどをつけた。それがこの日発表した「マネータップ」という名のスマホアプリだ。これを利用することで、誰でも簡単に24時間、スマホによる送金が可能になる。

 使い方は簡単だ。利用者はアプリを立ち上げ、送付先の口座番号を入力し、送金額を指定するだけで、自分の銀行口座からお金を送ることができる。しかも一度名前や口座番号、電話番号を登録した相手なら、相手の携帯電話番号や過去の振り込み履歴、さらにはQRコードを読み込むことでも送金できるなど利便性は高い。

 気になるのはセキュリティだが、マネータップはスマホの指紋による生体認証を利用することで、本人以外は使用できない仕組みを採用した(そのため、当初対応スマホ機種は指紋認証のできるiPhoneのみで、その後アンドロイド機にも拡大する)。

 まずはこの夏にも、りそな銀行、住信SBIネット銀行、スルガ銀行の3行で先行して商用化、その後、コンソーシアム参加行へと拡大していくというから、いずれは大半の国内銀行で採用されるようになる。

 利用者にとってのメリットは、前述の使い勝手の良さに加え、手数料が大幅に安くなることだ。現在、銀行間で送金(振込)する場合、他行宛なら最低でも216円の手数料が徴収される(メガバンク3行の場合)。しかしマネータップの場合、システムにブロックチェーン技術を使っているため、従来システムに比べ維持・管理費は圧倒的に安くなる。その結果、手数料も安くなるため、小口決済にも利用できる。

 前出の沖田氏は「手数料がいくらになるかは各行の判断による」と言うが、劇的に下がるのは間違いなく、銀行によっては手数料無料を打ち出すところも出てきそうだ。

 今、銀行は長引く低金利政策のお陰で利ザヤによる収益を確保することが難しくなっている。そこで力を入れているのが手数料収入の確保で、いずれ口座を維持するのにも手数料が発生する可能性もある。マネータップによる送金手数料の引き下げは、その動きに逆行するようにも見える。それでもこのサービスの開発・提供に踏み切った背景には、銀行の強い危機感がある。

 前述のように、銀行は今収益悪化に苦しんでいる。それに加えて新たな競争相手が誕生、銀行の決済業務を荒らし始めたのだ。

 日本ではいまだに現金決済が主流だが海外ではスマホなどによるキャッシュレス決済が常識になりつつある。アメリカでは現金取引比率は30%程度、中国では10%を切っている。偽札対策もあって中国では現金お断りの店が増え、乞食でさえもスマホで物乞いするようになった。

 このスマホ決済を主導するのが、フィンテックベンチャーだ。中国ならアリペイ、アメリカならグーグルやアップル、アマゾンが参入し、大きなシェアを占めている。

 そしてこの波は既に日本にも到達、間もなく、日本の決済市場の飲み込むことになる。その場合、これまで銀行が独占していた決済業務が奪われてしまい、消費者の銀行離れは加速する。マネータップはその対抗策だ。フィンテックベンチャーが銀行の領域を侵食する前に、銀行の側からフィンテックベンチャーの領域に踏み込むことで、生き残りをはかろうというわけだ。

 しかもマネータップの場合、銀行口座はそのままで、アプリをダウンロードすればすぐに使えるようになるし、銀行ならではの安心感もある。使い勝手さえ良ければ、マネータップを使わない理由は逆にない。

日本版スマホ決済から始まる新しい金融サービス

 コンソーシアムは今後は基本強化をさらに強化するとともに、外為機能や法人向けソリューションを提供することで、マネータップの利用頻度を増やしていく方針だ。これが普及すれば、現在はクレジットカードやデビットカードで行っている店頭での少額決済やインターネットショッピングの支払いもマネータップでできるようになるだけでなく、割り勘の支払いも個人間で簡単に決済できるようになる。

 さらに普及が進みインフラとして定着すれば、そこから新たなるサービスが誕生しても不思議ではない。「インターネットが誕生した時にUberやエアビーアンドビーのサービスを想像できた人はほとんどいなかったように、金融でも同じことが起きるかもしれない」(前出・沖田氏)というわけだ。

 そうなれば、マネータップを利用した決済は一気に膨れ上がる。その結果、1回当たりの手数料が少額でも、総額は今以上に大きくなる可能性がある。CDの売り上げ減少で市場が縮小し続けた音楽業界が、コンテンツの定額サービスによって利用者が拡大し、市場が再成長に転じたケースを想起させる。

 社会的にも、キャッシュレス化の進展は店頭作業の簡素化や維持・保守費が軽減するため、社会コストの低減につながる。

 日本では、スイカやパスモなどの鉄道系電子マネーや高速道路のETCにしても、利便性が受け入れられれば一気に普及が進む。マネータップの登場は、その入り口となるかもしれない。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓也(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る