政治・経済

「日本の常識は世界の非常識」と言うが、日本の現金決済比率の高さもそのひとつ。お隣中国では、スマホひとつで何でも決済できるのに、日本ではなかなか進んでこなかった。しかしこのたび銀行界が一致団結。新たなるスマホ決済サービスを始めるという。その勝算やいかに――。文=関 慎夫

ブロックチェーンを利用した日本版スマホ決済

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沖田貴史・SBIリップル社長

 仮想通貨取引所「コインチェック」を舞台に起きた580億円の不正引き出し事件は、発生から約2カ月がたった今でも、その全容が分かっていない。

 2013年に起きたマウントゴックス事件、そして今回のコインチェック事件により、「仮想通貨=危険」のイメージが定着した。それもあって、昨年末に230万円をつけるなど暴騰していた代表的な仮想通貨、ビットコインの価格も、2月には60万円台を記録、直近でも100万円前後とピーク時の半値以下にとどまっている。それもあって海外の金融機関関係者の間では「ビットコインは終わった」「金融取引には使えない」との見方が出始めている。

 しかしその一方で広がり続けているのが、ビットコインの中核技術であるブロックチェーンだ。

 ビットコインは、08年にサトシ・ナカモトなる人物がインターネット上で発表した論文に書いたブロックチェーン技術からすべてが始まった。従来の通貨の信用は中央銀行が担保する。ところがビットコインは、取引記録をブロックと呼ばれるデータの単位に記録し、これをチェーンのように永続的につなげていくものだ。つまり過去の取引がすべて記されているため、改ざんは不可能だ。しかも管理を一機関の巨大サーバーで行うのではなく、ネットワーク上の多くのコンピュータで分散して管理する。ブロックチェーンを分散型台帳技術と呼ぶのはこのためだ。同じデータが分散して保管されるためシステムダウンに強く、かつ運用コストが安い。これがブロックチェーンの最大の特徴だ。

 しかもこの技術は、金融はもちろん、不動産や知的財産など、台帳を伴うすべての取引に応用できる。ベルギーでは住民票など行政サービスにブロックチェーンを活用する検討を始めたほか、戸籍台帳の整備が十分ではないアフリカの国などでは、戸籍そのものをブロックチェーンで管理しようとの動きがある。

 そのため最近では「ビットコインはインチキだがブロックチェーンは本物だ」という言葉も使われるほど、ブロックチェーンはビットコインを超えて普及し始めた。

 3月7日、東京・赤坂で開かれた会合は、それを裏付けるものだった。

 会合の名前は「『内外為替一元化コンソーシアム』成果発表会」で、出席者の多くが銀行など金融機関関係者だった。内外為替一元化コンソーシアムは、ブロックチェーンなどの最先端技術を活用することで、真に効率的な決済システムを構築するために16年10月に設立された。

 具体的には①国内外為替の一元化②24時間リアルタイム決済③送金コストの削減と新市場の開拓――を目指し、これまで技術開発を進めてきた。

 参加したのは銀行や信用金庫などの金融機関だが、コンソーシアム設立前は当初15行程度でスタートし、30行にまで拡大する予定だったが、実際には当初から42行が参加、現在は61行となった。この中にはメガバンク3行のほか主要地方銀行、ソニー銀行などネット銀行、そしてセブン銀行やイオン銀行など流通系銀行も参加しているが、今後さらに増える見通しだという。

 「日本の金融システムはインターネット以前のシステムが使われていて非効率だった。新たな顧客ニーズに対応する必要性を感じていると同時にブロックチェーンに対する関心が高まっている」(コンソーシアム事務局を務めるSBIリップルアジア社長の沖田貴史氏)ため、参加行は想定より多くなった。

日本版スマホ決済で限りなくゼロとなる送金手数料

 コンソーシアムではこれまでの1年半で、決済プラットフォームの構築を進め、商用化にめどをつけた。それがこの日発表した「マネータップ」という名のスマホアプリだ。これを利用することで、誰でも簡単に24時間、スマホによる送金が可能になる。

 使い方は簡単だ。利用者はアプリを立ち上げ、送付先の口座番号を入力し、送金額を指定するだけで、自分の銀行口座からお金を送ることができる。しかも一度名前や口座番号、電話番号を登録した相手なら、相手の携帯電話番号や過去の振り込み履歴、さらにはQRコードを読み込むことでも送金できるなど利便性は高い。

 気になるのはセキュリティだが、マネータップはスマホの指紋による生体認証を利用することで、本人以外は使用できない仕組みを採用した(そのため、当初対応スマホ機種は指紋認証のできるiPhoneのみで、その後アンドロイド機にも拡大する)。

 まずはこの夏にも、りそな銀行、住信SBIネット銀行、スルガ銀行の3行で先行して商用化、その後、コンソーシアム参加行へと拡大していくというから、いずれは大半の国内銀行で採用されるようになる。

 利用者にとってのメリットは、前述の使い勝手の良さに加え、手数料が大幅に安くなることだ。現在、銀行間で送金(振込)する場合、他行宛なら最低でも216円の手数料が徴収される(メガバンク3行の場合)。しかしマネータップの場合、システムにブロックチェーン技術を使っているため、従来システムに比べ維持・管理費は圧倒的に安くなる。その結果、手数料も安くなるため、小口決済にも利用できる。

 前出の沖田氏は「手数料がいくらになるかは各行の判断による」と言うが、劇的に下がるのは間違いなく、銀行によっては手数料無料を打ち出すところも出てきそうだ。

 今、銀行は長引く低金利政策のお陰で利ザヤによる収益を確保することが難しくなっている。そこで力を入れているのが手数料収入の確保で、いずれ口座を維持するのにも手数料が発生する可能性もある。マネータップによる送金手数料の引き下げは、その動きに逆行するようにも見える。それでもこのサービスの開発・提供に踏み切った背景には、銀行の強い危機感がある。

 前述のように、銀行は今収益悪化に苦しんでいる。それに加えて新たな競争相手が誕生、銀行の決済業務を荒らし始めたのだ。

 日本ではいまだに現金決済が主流だが海外ではスマホなどによるキャッシュレス決済が常識になりつつある。アメリカでは現金取引比率は30%程度、中国では10%を切っている。偽札対策もあって中国では現金お断りの店が増え、乞食でさえもスマホで物乞いするようになった。

 このスマホ決済を主導するのが、フィンテックベンチャーだ。中国ならアリペイ、アメリカならグーグルやアップル、アマゾンが参入し、大きなシェアを占めている。

 そしてこの波は既に日本にも到達、間もなく、日本の決済市場の飲み込むことになる。その場合、これまで銀行が独占していた決済業務が奪われてしまい、消費者の銀行離れは加速する。マネータップはその対抗策だ。フィンテックベンチャーが銀行の領域を侵食する前に、銀行の側からフィンテックベンチャーの領域に踏み込むことで、生き残りをはかろうというわけだ。

 しかもマネータップの場合、銀行口座はそのままで、アプリをダウンロードすればすぐに使えるようになるし、銀行ならではの安心感もある。使い勝手さえ良ければ、マネータップを使わない理由は逆にない。

日本版スマホ決済から始まる新しい金融サービス

 コンソーシアムは今後は基本強化をさらに強化するとともに、外為機能や法人向けソリューションを提供することで、マネータップの利用頻度を増やしていく方針だ。これが普及すれば、現在はクレジットカードやデビットカードで行っている店頭での少額決済やインターネットショッピングの支払いもマネータップでできるようになるだけでなく、割り勘の支払いも個人間で簡単に決済できるようになる。

 さらに普及が進みインフラとして定着すれば、そこから新たなるサービスが誕生しても不思議ではない。「インターネットが誕生した時にUberやエアビーアンドビーのサービスを想像できた人はほとんどいなかったように、金融でも同じことが起きるかもしれない」(前出・沖田氏)というわけだ。

 そうなれば、マネータップを利用した決済は一気に膨れ上がる。その結果、1回当たりの手数料が少額でも、総額は今以上に大きくなる可能性がある。CDの売り上げ減少で市場が縮小し続けた音楽業界が、コンテンツの定額サービスによって利用者が拡大し、市場が再成長に転じたケースを想起させる。

 社会的にも、キャッシュレス化の進展は店頭作業の簡素化や維持・保守費が軽減するため、社会コストの低減につながる。

 日本では、スイカやパスモなどの鉄道系電子マネーや高速道路のETCにしても、利便性が受け入れられれば一気に普及が進む。マネータップの登場は、その入り口となるかもしれない。

 

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