政治・経済

「経営の神様」松下幸之助が大阪市に小さな工場を構えてから今年で100年。さらに社名がパナソニックに変わってからちょうど10年がたった。幸之助時代は「家電王国」の名を欲しいままにしていたが、今や津賀一宏社長曰く「家電の会社ではない」。そこで問われるのが、パナソニックのDNAだ。文=関 慎夫

水道哲学に基づき大量生産・大量販売

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トヨタとは車載電池で提携(左が豊田章男・トヨタ自動車社長、右が津賀一宏・パナソニック社長)

 1918(大正7)年3月7日、パナソニックは大阪市福島区大開一丁目で産声を上げた。当時の社名は松下電気器具製作所。その後社名は松下電器産業となり、「家電の松下」として日本を代表する電機メーカーに成長。創業者の松下幸之助は、没後19年たった今日でも「経営の神様」として多くのファンを持つ。松下電器は2008年にパナソニックへと再度社名変更。つまり今年は会社設立100周年、パナソニックへの社名変更10周年の記念すべき年となる。

 振り返ってみれば、パナソニックとなったのが、08年であったことは意味があったように思えてならない。というのも、この年を境にしてパナソニックは以前とは全く違う会社にならざるを得なかったからだ。

 社名変更は10月1日だったが、その半月前の9月15日、米投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻した。これを契機に世界は深刻な金融危機に陥り、日本経済も大きな影響を受けた。戦後日本を自動車産業とともに牽引してきた電機産業も例外ではなく、中でもテレビ部門を持つメーカーは揃って大赤字を計上した。同時にテレビの製造力において、韓国メーカーとの間に大きな差がついていることがリーマンショックによって明らかになった。

 とりわけパナソニックは、独自技術のプラズマディスプレーにこだわり、大規模投資を続けたがために業績悪化に拍車がかかった。そのため11年度、12年度の2年間で、計1兆5千億円の巨額赤字を計上、創業以来の危機を迎えた。

 そのさなかの12年に就任したのが津賀一宏社長だった。当時パナソニックがどれほどまで追い込まれていたかは、就任直後に津賀氏が語った「パナソニックは普通の会社ではない」という言葉に集約されている。今のパナソニックは普通以下の会社であり、そのためにはまず普通の会社に戻すことが必要だ、ということだ。そのために津賀社長が選んだのは、ビジネスモデルの大転換だった。

 松下幸之助の経営哲学の中でもっとも有名なのは「水道哲学」だろう。道端の水道で水を飲んでも誰も泥棒とは言わないのは、水道水が大量で安価だから。それと同じで家電製品を大量に安価で供給することが松下電器の使命である――というものだ。だからこそパナソニックは大量生産にこだわった。テレビ戦争でも、大量生産によって低価格を実現しシェアを取ることを目的に、プラズマへの無謀な投資を決断したのもその延長線上にある。昔なら、売り上げさえたてば利益は後からついてきた。しかし時代は変わった。国際的な競争が激化した今は、売れれば売れるほど赤字となることも珍しくはない。パナソニックのテレビがまさにそうだった。

 これはテレビ以外の家電についても当てはまる。そこで津賀社長は、すべての事業について利益重視の方向を打ち出した。基準となるのは営業利益率5%で、これをクリアできない事業は撤退も辞さない覚悟だった。

 その代わりに、成長分野として位置付けたのがB2B領域。津賀社長は社長就任1年目の13年1月、米ラスベガスで開かれた世界最大の家電見本市「CES」で「パナソニックは家電の会社ではない」と発言、B2CからB2Bへと大きく舵を切ることを内外に向けて宣伝した。

 米電気自動車メーカー、テスラと提携し、車載用蓄電池への大規模投資を行う一方で、昨年にはトヨタ自動車と、やはり車載電池で提携を結んだ。またパナホームを完全子会社化するなど住宅分野も成長分野として位置付けた。

 以上のように社名を変更してからパナソニックは大きく変わった。今年のCESでは、100周年の記念展示として第一号家電製品と最新家電を展示したが、メーンブースではB2Bや車載用製品のみを展示するなど、「家電王国」の姿はどこにもなかった。

パナソニックの新しい家電ビジョン

 しかしB2Bを推進する一方で津賀社長は、「家電はパナソニックのDNA」と、ことあるごとに言う。これをどう理解すればいいのか。

 以前、津賀社長は、講演で「家電で培ったDNAを生かしながら、期待されるさまざまな領域で、よりよい暮らし、社会を広げていきたい」

と語っているが、これは松下幸之助の定めたパナソニックの理念とほぼ重なる。パナソニックの理念は「私たちの使命は、生産・販売活動を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与すること」。重要なのは社会生活の改善と向上、すなわち人々の暮らしをよくすることであって、家電でもB2Bでもかまわないということだ。これが津賀社長の目指すパナソニックの姿だ。

 面白いもので、軸足を家電からB2Bへ移したにもかかわらず、パナソニックの家電、特に国内家電は今絶好調だ。テレビは量ではなく質を追求するようになったが、4Kの追い風にも乗って国内シェアトップとなり、エアコン、冷蔵庫などの白物家電も相変わらず好調を維持している。さらには美容家電が、訪日外国人観光客の人気を集めたこともあり、売り上げは過去最高を記録した。お陰でパナソニックの家電製品は、過去30年で最高の国内シェアを記録した。

 パナソニック関係者は「社長が『家電の会社ではない』と言ったことが発奮材料になっている」と打ち明ける。それがすべてではないだろうが、追い込まれたことによって家電部門の社員が発奮したことは間違いない。

 そしてこの3月1日には、家電事業における新たなるビジョンを発表した。「Designing Your Lifestyle from Home(HOMEから生まれる新しいくらしの喜びで)」というもので、従来の家の概念を飛び越え、暮らしや人生に喜びをもたらす存在を「HOME」の概念としたうえで、「暮らしの憧れを届けることが次に目指す姿。『これでいい』という商品ではなく、『これが欲しい』と思ってもらう商品を作る」(家電事業を統括するアプライアンス社の本間哲朗社長)。さらには「パナソニックの100年の歴史の中で、家電は常に事業の中心にあった。パナソニックは、これからの100年も家電事業を通じて新たな喜びを灯す存在になりたい」と思いを語った。

 やはり家電事業担当者にとっては、パナソニックはいつまでたっても家電の会社でありたいと考えているかに見える。

 しかしその家電とは従来の家電ではない。これからは家電そのものの在り方も変わってくる。個別の機能だけでなく、個々の家電がIoTでつながり連携しながら快適さを提供する時代をパナソニックは描いている。例えば快適な睡眠を提供するために、日中の活動データや睡眠データなどから、快眠アルゴリズムを開発し、一人一人の快適な眠りに寄り添う睡眠関連サービスを提供する、といった具合だ。

 そのためにパナソニックは西川産業と提携し、睡眠関連サービスの共同開発を開始した。これ以外にも、常時接続IoT家電の実現に向けてNTTドコモと提携したほか、スタートアップへの投資を行うスクラムベンチャーズと新規事業を創出を目的に合弁会社を設立するなど、家電を通じて新しいサービスを提供するため、積極的に他社と連携する方向性を明らかにした。

 見えてくるのは、暮らしを豊かにするための電化製品に、家電とB2Bの境はないと考えている姿だ。ここから新しいパナソニックの100年が始まる。

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