政治・経済

東芝が新体制で再建に臨む。社長の綱川智氏がCOOとして業務を遂行し、新たに会長に就任する車谷暢昭氏がCEOとして長期戦略を定める。東芝が外部から経営トップを招聘するのは53年ぶり。過去の外部出身トップはいずれも東芝を救ってきただけに、車谷氏への期待は高い。文=村田晋一郎

東芝土光氏以来、53年ぶりの外部出身の経営トップが誕生

 東芝は4月1日付で、元三井住友銀行副頭取の車谷暢昭氏を代表執行役会長に招き入れる人事を発表した。東芝の会長職は、米原発事業の巨額損失を受けて、昨年2月に前会長の志賀重範氏が辞任した後は空席になっていた。現代表執行役社長の綱川智氏は引き続き社長職を継続し、COOとして業務遂行を統括する。そして車谷氏がCEOとして、中長期的な事業戦略や対外活動を担当することになる。

 現在の東芝は、ようやく一頃の危機的状況を脱しつつある。昨年、東芝メモリの株式譲渡契約を締結し、また6千億円の第三者割当による新株式の発行、そして米ウェスチングハウス社に対する債権を売却した。これらにより、2018年3月期は、2年連続の連結債務超過は回避できる見込みとなり、2月の第3四半期決算発表の段階で、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況」は解消している。一方で、稼ぎ頭であった東芝メモリを売却するなど、東芝グループの事業構成や資本構成が変容しており、再成長に向けた新たな体制を構築する必要に迫られていた。

 いかに東芝を成長軌道に乗せるかを考えた際に、綱川氏と指名委員会は、外部の知見・視座をこれまで以上に積極的に取り入れていく必要があるとの課題認識を共有していたという。また、この1年間、会長が不在で、網川氏一人が経営トップとして社内外の対応に追われていた。網川氏の負担を軽減するためにも、網川氏と二人三脚で経営を執行できる人材の招聘が必要とされた。そして、指名委員会が、東芝グループの事業全体の方向性、中長期的な事業戦略を見極められるという観点で検討した結果、車谷氏に会長就任を要請した。

 東芝が外部から経営トップを招くのは53年ぶりで、初代社長の山口喜三郎氏、第4代社長の石坂泰三氏、第6代社長の土光敏夫氏に続いて、4人目となる。ちなみに現在の綱川氏は第19代目の社長となる。過去の外部招聘のトップのいずれも東芝が危機に瀕した状態で就任し、経営を立て直した。特に石坂氏と土光氏は後に経団連会長を務めており、東芝のプレゼンスを大きく引き上げた。

東電国有化の立役者車谷氏へ東芝再建を期待

 車谷氏は現在60歳、1980年に旧三井銀行に入行。相談役に退いていた小山五郎氏の秘書を務め、小山氏の最後の愛弟子と言われた。旧三井銀行と旧太陽神戸銀行が合併した旧さくら銀行では、コンビニバンクなどのビジネスモデルを開発。さらに旧住友銀行との合併に際しては交渉役を担い、三井住友銀行となってからは、経営企画部門で経営戦略を立案した。特に東日本大震災による福島原発事故に伴う東京電力の経営危機に際して、メーンバンクとして東電スキームを設計し、支援の枠組みをまとめた。東電国有化の事実上の功労者とも言われており、この時に経済産業省とのパイプを強めたという。

 その後、三井住友銀行副頭取を務め、次期頭取の有力候補と目されていたが、17年に現任の髙島誠頭取が誕生したのを機に、車谷氏は同行を退任。英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズの日本法人会長に就任した。また、シャープの社外取締役(監査等委員)も務めており、シャープが戴正呉社長の下で立ち直る過程も間近で見ている。

 通常、頭取レースで敗れた場合は、グループ会社の社長ポストを用意されることが多いが、車谷氏はそれを良しとせず、自らの人脈でファンドに転出したという。その姿勢からは、起業家が備えるべきアニマルスピリッツを垣間見ることができる。今回の会長就任についても、「東芝の再建を託される大仕事を拝命することは、天命であり、男子の本懐」と語っている。

 また、三井住友銀行は東芝のメーンバンクであるが、三井住友銀行の意向は車谷氏自身が否定。むしろ強いパイプのある経産省の意向が強いと見られる。ただし、かつての石坂氏は旧三井銀行の要請で社長に招かれた。今回、旧三井の本流とも言うべき車谷氏が招かれて東芝の再建にあたることに、歴史の巡り合わせを感じる。

 指名委員会の池田弘一委員長は、車谷氏への期待を次のように語った。

「(車谷氏は)金融機関における豊富な経験と実績、投資会社を経た経験から、事業会社の経営に関する高い見識を持っている。18年以降の資本状況を踏まえた、東芝グループの中長期事業戦略の決定、経営資源の最適運用を期待している」

 喫緊の問題としては、第三者割当で登場した「モノを言う株主」や、東芝メモリの売却先である投資ファンドの米ベインキャピタルへの対策が期待されている。

外部トップによるポートフォリオ立て直しが東芝再建の鍵となるか

 具体的な施策は、今後協議していくことになるが、車谷氏は就任会見の席上で東芝の現在の課題として次の3点を挙げた。まずは資本の問題で、資本の状況を早期に回復させ、グローバル競争の土俵に復帰させる。2つ目は、事業ポートフォリオの見直しで、成長投資と共に適材適所の人材配置を実施する。3つ目は、東芝本来の部門の強さを高めながら、「オール東芝」としての一体感を高め、現在進行中のガバナンス改革と企業風土改革もさらに強化していくという。

 特にポートフォリオの問題は、東芝の本質的な課題であり、そこを車谷氏もしっかり認識している。東芝の歴代トップは、儲かった事業の出身者が多く、全体のポートフォリオを見る視点が欠けており、結果的に歪なポートフォリオとなっていた。また、それゆえ各セグメントのシナジーが薄くなっており、結果として、各セグメント同士の連携が弱まり、ガバナンスに問題が生じていた。ポートフォリオを改善する意味でも、客観的に事業を判断できる外部のトップを招聘する意義はあり、車谷氏に求められる役割は大きい。

 売却予定のメモリ事業を除いた18年3月期通期の見通しは、売上高3兆9千億円、営業利益0億円、純利益5200億円となっている。メモリ事業を含めた場合の今期の営業利益は4400億円で、それがなくなるのは確かに大きいが、今期はリストラ費用で600億円を計上しており、実力値で800億円前後はある。メモリがなければ利益はゼロという状況ではない。現状の東芝の事業は大きくは、エネルギー、社会インフラ、メモリを除く電子デバイス、デジタルソリューションの4つ。また、赤字のテレビ事業は中国家電大手ハイセンスに売却し、PC事業も売却を検討している。残る主要4事業は、メモリ事業と比べると市場の変動制は低い。大きな成長はすぐには見込めないが、ローリスク・ローリターン領域であり、手堅く再建を進める事業とも言える。車谷氏自身が指摘したとおり、これらの事業のポートフォリオの見直しと適正な投資、シナジーの創出が今後の再建の鍵となるだろう。

 現状で車谷氏が示した方針は東芝の状況を考えると妥当だと言える。むしろ今後の鍵は、車谷氏の経営トップとしての資質の問題になる。車谷氏は何かと過去の外部招聘トップと比較されることになる。特に石坂氏と土光氏は出身企業で経営トップとして実績を上げた、いわゆるプロ経営者であったが、車谷氏は本当の意味での経営トップの経験はない。また、土光氏ですら、東芝の企業風土を完全に変えるまでには至らず、それが現在の東芝の凋落を招いた遠因ととらえる向きもある。今回は53年ぶりの外部トップとなるだけに、車谷氏には社内での相当な逆風も予想される。東芝再建という難題に対して、自身の経験が生かせることとして、車谷氏は次のように語った。

 「銀行時代は、不良債権処理や震災後の対応などいろいろなことをやってきたが、常に課題から逃げずに対応してきた。厳しい状況の中でしか人は育たないし、厳しい状況の中でしか未来は見えてこないことを学んできた。このことは今の東芝にも役に立つと思っている」

 車谷氏が過去のキャリアと同様に積極的に入り込んで、社内での信頼・評価を勝ち取れば、自身の求心力を高めることになリ、東芝の再建にもつながるだろう。

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