マネジメント

 2017年シーズン、まさかまさかの快進撃でJ2からJ1への初昇格を決めたV・ファーレン長崎。実は、シーズン前には経営危機に陥り、再建を託されたのがジャパネットたかたの創業者である髙田明氏だった。再建、J1昇格で長崎に元気を与えた1年を振り返ってもらった。聞き手=中嶋 亨

201805迚ケ髮・201805TAKADA_P01

たかた・あきら 1948年、長崎県平戸市生まれ。大阪経済大学経済学部卒業後、71年阪村機械製作所に入社し海外駐在を経験。74年カメラのたかた入社。その後86年に分離独立し、たかた設立。99年にジャパネットたかたに社名変更。2015年代表取締役退任、A and Live設立。17年V・ファーレン長崎社長に就任。

髙田明氏が語る ジャパネットが立たねば長崎からV・ファーレンが消える

―― 就任されて、まもなく1年がたちます。財政再建といった難問もありましたが、振り返っていかがでしょうか?

髙田 経営再建は大変ですね。ゼロからのスタートだったらよかったのですが、大がつくほどのマイナスからのスタートでした。決算書ひとつとっても不明瞭なことが多く時間がかかりました。でも、ようやく明るい兆しが見えてきたような気がします。普通の会社でいう売り上げが8億円もないような状態から、なんとか3倍ちょっとの売り上げが見えてきましたから、20数億円の経営にまでは引き上げられると思います。

 これまでは思いだけで動いていましたが、経営は収支のバランスが取れていないと継続できません。ですから、チケット料金などすべて見直しましたし、経費の無駄といったものも見直しました。例えば、アクセスが悪ければお客さんは来ません。来なければそれだけ収入が見込めない。では、ネックはどこか。ストレスなく来られる環境がなかったのです。そこで駐車場の問題などをひとつずつ解決していきました。

 昨シーズンの最後のほうには2万人ものお客さんに来ていただきましたが、対応する体制ができていませんでした。今年度は、迎える体制を考え直したので、さっそく検証していきます。

―― どうして、この難題にチャレンジしようと思ったのですか。

髙田 ジャパネットがやらなかったら、潰れちゃうからです。私の息子がホールディングスの社長なのですが、彼が決断をしてくれました。この1年で、ジャパネットは10億円くらいの出資をしたのではないでしょうか。もちろん、それだけではいけないので、私も営業をしてまわり、たくさんのスポンサーの方にご理解いただき、たくさんの支援をいただいています。今シーズンはJ1の中で、みなさんの期待に応えられるような体制づくりという課題があります。売り上げが24億、25億円は見えたとはいえ、J1ですと30億円くらいは目指さないといけません。選手の強化も必要ですし、環境整備もある。目には見えない投資がすごくありますからね。そういった意味では、もう少し経営の体力強化を図らねばならないでしょうね。

―― 通販業界とクラブ経営、似ているところはありますか。

髙田 物を売っているか、あるいはサッカーという試合で喜んでいただくかの違いはありますが、結果的にお客さんファーストで一緒ですね。お客さんに支持していただけなければ、サッカーも成り立ちませんし、ビジネスも支持されません。どちらもミッションは人なのです。どういうことかというと、人に対してうれしいとか、楽しいといった感情を与えることです。そのミッションはいつでも同じなのですから、難しいことはないと思っています。ただ、お客さんにとっては、試合に勝つことも魅力のひとつですから、頑張らないといけないですね。

―― では、ジャパネットの経営に生かせそうなことはありましたか。

髙田 経営とは、利益を出して社会に還元することです。そう考えるとビジネスだけ、儲けることだけで考えたらサッカーのビジネスに魅力はないですね。私たちはこの長崎にサッカーを残さないといけないという使命感と、長崎で生まれ、長崎を中心に育てられた会社なのです。それで、全国の方に支えられるようになったのですから、故郷を大事にしたという思いから始めたのです。でもこの先は、スポーツビジネスとして独り立ちできるようにならなければいけないと思いますね。

髙田明氏の思い V・ファーレンを見て風呂入って、一杯。それが長崎を元気に

―― V・ファーレンをとおして長崎を盛り上げようと積極的なプロモーションを仕掛けています。どんなことをしているのですか。

髙田 V・ファーレン長崎だけでなく、どのクラブも、いや、ビジネス全体が、同じことを2年、3年続けようとも振り向いてくれない。それが今の時代です。だから、新たなサプライズを含めた感動をどういう形で出し続けていくか、ということもクラブに与えられたひとつの使命ですね。

 昨年は経営を再建して、みなさんに少し安心していただいた。これも大きなサプライズだったと思います。負けより勝ちの数が増えて、最後は13試合連続負けなし、プレーオフから自動昇格に向かったこともサプライズ。そして、J1という最高のステージに立つことができたということもサプライズです。こういうふうにサプライズがずっと続いているんですよね。今度は、J1になったことでファンやサポーターのみなさんの期待は大きくなります。残留だけでは、ファンの層は増えないでしょうし、そこもサプライズにしていかないといけないでしょう。

 また、スタジアムの駐車場問題は長崎の大きなネックです。そこをでき得る限り改善し、環境を整えるというのも、ひとつのサプライズかもしれません。来る人の負荷を減らして試合に集中してもらう。早くスタジアムに入ってもらい、早くから楽しんでもらう。試合を観て感動する、その後も、余韻を残して楽しんで帰ってもらう。1試合の観戦を1日の家族の楽しさにつなげて、6時間楽しんでくださいと提案しています。6時間の中に、試合という2時間のステージがあるんです。そういった形をつくっていきたいですね。

―― スポーツツーリズムに期待することは。

髙田 例えば、他県の方が長崎に来て試合を見て帰るだけだとしたら、そんなにもったいないことはないですよね。試合がクライマックスではあるけれども、長崎には、五島も壱岐も対馬も平戸も面白いところがいっぱいあります。雲仙・島原なんてすごく気持ちのいい温泉があります。サッカーを観て、ひとっ風呂浴びて、一杯飲んで、次の日は長崎や佐世保のほうをまわって帰りましょう。それがまさにスポーツツーリズムの醍醐味です。こうした流れを作ることで、地方創生もできると思いますね。

 長崎県全体のことを考えれば、ホームタウンにしても、スタジアムのある諫早市だけではないんです。長崎県の21市町のすべてがホームタウンです。21の市町が連携し、サッカークラブをとおしてシナジーを生んでいく、それができたら次はアジアが来るんですよ。長崎港のクルーズ船寄港数は日本で2番目。毎日5千人、6千人の方が来ています。お隣りの韓国や中国だってサッカーに対する熱は高まっています。サッカーを見て、長崎の街を観光して温泉に入ってから帰ろうかと思ってもらうような提案をすることはできると思っています。

―― V・ファーレンを長崎のどんな存在にしたいですか。

髙田 長崎という街は、観光資源も歴史もあるすごい県です。食も長崎牛あり、魚介類も最高ですよね。そういう県を代表するチームであること。もうひとつはユニフォームの背中にユニセフを入れているのですが、平和の発信という意味もありますが、戦争、そして平和から一歩進んだ人生の中の広がりやゆとり、くつろぎというものを感じていただきたいという思いもあります。長崎には被爆といった歴史もありますから、勝ち負けに関係なく、試合が終われば相手を尊重し、次に進む、正々道々(※チームのスローガン「正々道々~ナガサキから、世界へ~」から。正しい道を行くこと=フェアプレー、平和的精神という意味を込めている)としたチームになれたらと思っています。

―― ズバリ、今年のJ1での目標を聞かせてください。

髙田 上を、上を目指していきます。初戦は敗れましたが。私は結果も求めますが、一番大事にしていることは、結果にコミットするということではなく、結果に向かうプロセスをすごく大切にしていることです。今を生きるということを大事にしていますから、自ずと願う結果に近づくのではないかと信じています。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

一般には馴染みが薄い産業廃棄物処理の世界。古い慣習が残る業界を、ITによって変えようとしているのがトライシクルの福田隆社長だ。業界の老舗企業がテクノロジー導入に舵を切った背景と今後の展望を聞いた。(吉田浩)福田隆・トライシクルCEOプロフィール 産廃処理で「B to B版メルカリ」を目指す&nbs…

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る