マネジメント

 大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)は、89の国や地域から3千人の留学生が集まる日本でも稀なユニークな大学。その学長に2018年1月から、ライフネット生命の創業者である出口治明氏が就任した。新たな挑戦とAPUの魅力を、新学長に聞いた。聞き手=古賀寛明

201805迚ケ髮・201805DEGUCHI_P01

でぐち・はるあき 1948年三重県生まれ。京都大学法学部を卒業後、72年、日本生命に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、退職。2006年、生命保険準備会社(現・ライフネット生命保険)を設立し社長に就任。その後、会長を経て、18年1月から大分県別府市の立命館アジア太平洋大学学長に就任。


還暦で「起業」古希で「学長」

―― 学長に就任されて約3カ月がたちますがいかがですか。

出口 「忙しい」の一言ですね。金融関係の法律は分かりますが、今まで教育機関での経験がないので、教育基本法や学校教育法などをゼロから勉強しなければなりません。結構大変です。でも、面白いです。毎日ワクワクしています。

―― 就任の経緯は。

出口 APUは、今回初めて学長の候補者公募を行いました。欧米ではポピュラーなのですが、日本の4年制大学での公募は初めての試みだそうです。自薦あり、他薦ありで、僕の場合どなたかが推薦してくださったようです。

 最初話を聞いて、びっくりしましたが、選ばれるはずがないと思っていました。選考委員は副学長を中心にして、先生方5人、職員2人、卒業生2人、計10人で、そのうち外国籍4人、3人が女性というダイバーシティにとんだユニークな構成です。大企業の指名報酬委員会でもこのようにダイバーシティにとんだ委員会はないと思います。ですから、すごい大学だと思いましたし、彼らから、「満場一致で選ばれました」と言われたのですから、もう頑張るしかないですよね。

 僕は、人生は一つの出会いだと思っていて、還暦でライフネット生命を開業したのも、人との出会いがきっかけです。お陰で、人生で一番長時間労働するハメになってしまいました(笑)。今回も古希で学長に選ばれた。これも一つの運命だと思っています。

人間というのはそれほど賢い生き物ではありませんから、自分の人生を自分で選ぶことは実はほとんどの人ができません。川の流れに身をまかせ、与えられた運命を受け入れて一生懸命頑張ることが一番いい人生だと思っています。

―― APUはどんな大学ですか。

出口 学生が6千人いるのですが、その半数が89の国や地域から来ている。あえていうなら「若者の国連」といった感じです。別府市にとっても人口に占める若者の割合が全国平均を大きく上回る要因になっていますし、大分県の調査では、人口10万人当たりの留学生数も大分県は京都府に次いで2番目の多さです。グローバルな人材を輩出しながらローカルにも貢献する面白い大学です。10年に、大分県や別府市がAPUの経済効果を試算していますが、年間で120億円ほどの経済波及効果があるということです。

 ここでは控えめな学生でもあっという間に変わります。何しろ、国際学生と呼んでいる留学生は、みんなAPハウスと呼ばれる寮に入りますし、日本人も多くが寮に入ります。同じ釜の飯を食べているわけです。文化も宗教も違う学生の集まりですから、自分から何か発信しなければ、誰も忖度などしてくれません。みんなが自分の感じたことや考えていることを話しますから、日本の学生もつられて、話すようになります。僕は、大学進学を控えている家庭のご両親には東大かAPUを考えてくださいとお願いしているのです。どういうことかと言いますと、偏差値が高くて脊髄反射が得意であれば東大へ。でも、難しい問題をクイズのように素早く解くのが得意な人ばかりではありません。じっくり考えることが得意な人もいますし、むしろ今後はそういった尖った個性を持つ人が大事になってきますから、そういう人にはぜひ、APUをと伝えているのです。僕は旅が大好きで、これまでいろんな国を訪れましたが、70年かけて70ほどの国にしかいけませんでした。ところが、この大学に来れば90の国と出会うことができるわけで、いろんなことを知ることができるわけです。とても楽しいですよ。

多文化の環境下で同じ時間を過ごす

―― 卒業すると本国に帰られる方が多いのですか。

出口 帰る学生もいますが、最近は日本企業で活躍しています。なぜかといえば、APUは8割以上の科目で日本語と英語の2言語教育をしているからです。英語だけで授業をする大学は日本にもありますが、2言語というのはどこにもない。ということは、日本人は英語が、留学生は日本語ができるようになるのです。海外に進出しようと思っている企業であれば、その国の方を採用したいと思いますね。でも、英語しかできないと意思疎通の面で難しい。でも、APUの卒業生なら、日本語も分かるし、何より日本の文化を理解しています。例えば、大分県が好きになって宇佐市で働く、台湾出身の卒業生もいます。

 つい先日も、フィリピンの卒業生が休暇で家に帰る前にAPUに帰ってきてくれました。国連のジュネーブ本部で働いているのですが、学生に国際機関で働く面白さを伝えたいと1週間ほどAPUに滞在して、学生とディスカッションや講演をしてくれたのです。卒業して10年以上たつのに、家より先に母校に帰ってくれるなんて、そんな大学はないですよね。社会人にもこの多国籍、多文化の環境を提供しています。APUの企業人材の多文化適応能力を育成する「GCEP」というプログラムは、2カ月、もしくは4カ月の間、学生と一緒に寮で暮らし、英語で授業を受けるプログラムです。先日、企業に戻る方々と話しましたが、皆さん異口同音に「もっといたかった」とおっしゃっておられた。海外留学なら1カ国ですが、ここ別府では90の国・地域の人々に出会えるのです。

―― 出口学長のミッションは。

出口 これまでAPUで学んだ人たちは1万5千人おり、146の国や地域に散らばっています(17年11月1日付のデータ)。同窓会組織も32カ所にあり、日本にあるのは8つだけで、他の24カ所は世界各地に散らばっています。

 APUは既に「2030年ビジョン」をつくっています。要約すると「APUで学んだ人が、世界中に散らばって、自分の持ち場を見つけ、APUで学んだことを生かし、自ら行動して、世界をもっと良くしていく」。僕の役割は、そのビジョンを実現していくために、どういったマイルストーンを置いていくか、それが僕の役割でありミッションです。

 2年後には開学20年を迎えます。これからも世界で活躍できる人が育つ環境をつくっていくために頑張ります。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

金利固定化の方法を知る

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

人を育てる「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手に育成するコツ

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

201710_KEIZAIKAI_P043_GLOBIS_CATCH

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年6月号
[特集]
なぜ、あの人についていくのか 求心力の秘密

  • ・松本 晃(カルビー会長兼CEO)
  • ・木股昌俊(クボタ社長)
  • ・迫本淳一(松竹社長)
  • ・水田正道(パーソルホールディングス社長CEO)
  • ・辻 発彦(埼玉西武ライオンズ監督)

[Special Interview]

 永守重信(日本電産会長兼社長CEO)

 売り上げ10兆円を目指す 働き方改革と人材育成の在り方

[NEWS REPORT]

◆不祥事続出でも企業が仮想通貨に群がる理由

◆通信事業親子上場に踏み切るソフトバンクの思惑

◆コーポレートガバナンスの呪縛〜お家騒動はなぜ繰り返されるのか〜

◆欧米名門大学への登竜門 ボーディングスクールが注目される理由

[特集2]

 働き方改革の闇

ページ上部へ戻る