マネジメント

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。

次世代を担う経営リーダーを養成するプログラムを開設

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「知命社中」の講義の様子

 グロービスにおいて、経営リーダーの育成を行う法人向け研修は大きくは2つある。

 一つは固有課題に固有の解決策を提案していくカスタマイズ研修。もう一つはある程度定型化したプログラムである。カスタマイズ研修では、部長層人材を選抜で集め、「自社の経営は次にどうあるべきか」を提案する案件が多いという。自分が社長だったらどうするかを疑似体験の中でトレーニングする。
 研修が高い評価を受ける一方で、クライアントの社長からは、「自分を超える経営者を育てたい」というニーズが生じているという。知命社中代表の鎌田英治氏は次のように語る。
 「変革・混迷の難しい時代の只中にある今、自分の代までは良いが、次の社長は自分を超える存在でなければ会社が生き残れないという危機感を抱いている経営者は多い。しかし、今の社長を超える人材は、突然変異でも起きない限り、社内から生まれてこない。社内で後継者育成に取り組むだけではなく、他流試合を通じ、外に刺激を求める必要が生じている」
 そこでグロービスは、次の10年を担う経営トップの輩出を目的としてエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。プログラム名の「知命」は、孔子の「五十にして天命を知る」から、「社中」は「同じ目的を持つ人々で構成される同志のコミュニティー」という言葉を合わせて命名している。
 同プログラムは、参加対象を原則として執行役員以上に限定し、半年かけて合宿形式のモジュールを6回、計15日間実施する。第1期を昨年11月から今年5月まで実施し、第2期を今年9月から来年3月まで実施する。
 各モジュールは講演と対話で構成。まず経営共創基盤CEOの冨山和彦氏や春日大社の元権宮司の岡本彰夫氏をはじめ、第一線で活躍する現役経営者や各界の専門家の講演で、エッジの効いたシャープな考えに触れる。

 参加者はこれまでビジネスで実績を上げてきた経営層であるため、経営についての認識や価値観も確立してきているが、こうした議論により凝り固まりつつある認識を大きく揺さぶる。そして、揺らぎと同時に参加者が感じる違和感を掘り下げる。その違和感は、自らの価値観や前提認識のどの部分に抵触しているのかをじっくり掘り下げることで、自らを見つめ直す。
 同プログラムは、講演後の「対話の時間」を重視しており、参加者同士が講演から何を感じたかを語り合う。それぞれの感じ方の違いなど多様な視点からの意見交換を通して、自分を相対化し、さらに自分自身を深く見つめ直す。結果として自らの足らざるを知る、焦りを感じる、などして自己否定と自己肯定を繰り返し、自己変革を促していく。

 こうした対話の効果を上げるために、合宿形式などチームビルディングにも時間をかけ、参加者が胸襟を開いて語りやすい状況をつくっている。さらに開催場所も東京近郊に限らず、奈良県の吉野金峯山などでも実施し、己と向き合える非日常的な環境も整える。
 「リーダー育成を極めてシンプルにとらえると、責任と場を与え、その人に必要な刺激を与えること。そして、その刺激を単にスルーさせるのではなく徹底的に考え抜き、自分自身を味わい切ることに尽きる」と鎌田氏は語る。知命社中は、まさに参加者に強烈な刺激を与え、徹底的に考え抜くことを求める。これにより、参加者は経営リーダーとしての自らを支える軸を確立させ、知恵を磨く。そして自らが成すべき指針を設定していく。

経営リーダーが重視すべき4つの要素

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かまた・えいじ 北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント、グループ経営管理本部長、Chief Leadership Officer(CLO)などを経て、現在はグロービスマネジング・ディレクター兼知命社中代表。

 では、実際に得られた学びは何か。

 グロービスでは、知命社中の第1期の参加者への個別の事後インタビューで、「リーダーにとって何が大事か」「あなたは知命社中で何を得たのか」を改めて問うた。その結果を大別すると、「セルフコントロール」「思慮の深さ」「道理」「勇気」の4つが見えてきたと鎌田氏は言う。
 セルフコントロールは、リーダーシップの根幹となる。リーダーが心身ともに健全でなければ厳しい現実にも向き合えない。また、人間は感情の動物というが、怒りや恐れといった不快情動が生じた場合でも、できるだけ短時間で自ら心のさざ波を鎮めることが判断の優劣を左右する。
 思慮の深さは、適時かつ速やかな意思決定に対する準備とも言える。人の気持ちに対する理解も重要であるが、経営層でも日常の業務に忙殺されて、深く考える時間がとれていない状況から情理に欠けることもあるという。だから日頃から人間とは何かを深く理解するための時間の確保が大事となり、そのためにも、部下に思い切って任せることが重要になる。
 経営の本質は、「道理を尊重し人に活力を与えること」なので、リーダーは判断根拠となる自らの道理についての説明責任を負っている。正義の反対には別の正義があるという難しい状況でも、「選択する」ことが求められる。周囲が納得する合理と、人の気持ちを汲んだ情理の両方がなければ人は納得しないし、動かない。

 トップには単に自分がそう思うというだけでなく、決断の理由を説明しきる責任が求められる。これは自分に確固たる軸がなければ成し得ないことだろう。
 最後は、決断を実行する勇気である。説明責任を果たしても、猛反対にあって日和ることもある。少し様子を見るなど結論を先延ばしして、いつまでたっても変わらないことも往々にしてある。

 この分別盛りの陥穽を打破することが重要だ。時代の大きな変わり目に新しいことを起こしていくには、腹を括ってこれまでの常識を断ち切る決断と、やりきる勇気が重要になるという。
 これらの4つの要素を伸ばしていくことは、まさに知命社中が目指していることだという。知命社中の参加者の中から次の時代を牽引していくような企業リーダーが生まれることが期待される。

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