国際

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

込山PHOTO3

(こみやま・よういち)1965年生まれ。香川県出身。国立弓削商船高等専門学校 航海学科卒。1986年、国交省航海訓練所の練習船(日本丸、大成丸)での1年間の航海実習で、ロサンゼルスの青空と自由闊達な風土に魅了され、卒業と同時に渡米。学習塾経営を経て、1989年、日本語情報誌ライトハウスを創刊。現在に至る。2016年、ビジネス・ブレークスルー大学大学院(BBT大学院)経営管理修士課程を修了。

日系人コミュニティから勧められる媒体に

イゲット 異国の地で事業を始めて、困難に直面したことは?

込山 過去30年間で、数多くのメディアが生まれては消えていきました。われわれも湾岸戦争や9.11やリーマンショック、また日本のバブル崩壊の影響も少なからず受けました。

 インターネットの普及によって、広告主であった旅行代理店や広告代理店、人材業など多くの業界が縮小したり、無くなってしまいました。サイバー社会、ボーダレス社会の到来で、インターネットや賃金の安い国でもできる業務は取って代わられたのです。

 私たちの競争相手もまた同業者だけでなく、インターネットを通して得られるすべてのコンテンツです。そこにしかない情報、(あった方がよいではなく) 必要不可欠な情報が求められます。

イゲット 紙媒体とネットでは広告の出し方も違うと思いますが、御社の場合は広告主が減らないのがすごいですね。

込山 幸いこんな環境の中でも業績を伸ばせていますが、常に新しい挑戦と変化、地道な努力が欠かせません。

 頑張るのは当たり前で、圧倒的なナンバーワン、オンリーワンでないと生き残れません。広告予算に関していえば、かつての景気の良い時代は、おつきあいの広告が多くのメディアに出ていましたが、今では広告予算の使い道が厳しくチェックされるようになりました。そうした中で、絶対に予算を取っておいていただける1社になることが大事です。

 もう1つは、常に新しい広告市場を作ることです。知恵を絞り抜けばブルーオーシャンはある。

 広告主についての考え方ですが、「広告主は読者の中にいる」と考えています。例えばある会社が直接知らない媒体に広告を出そうとする時には必ず評判を聞くでしょう。その時に自信を持って推薦されるポジションにいないといけません。

イゲット 私もよく知り合いに聞かれて、ライトハウスさんを勧めますよ(笑)。

込山 ありがとうございます。結局、私たちが発信する情報によって、読者の生活に潤いがもたらされたり、生活や人生の困りごとが解決できて、読者との信頼や絆が生まれるのだと思います。

イゲット ある種ファンビジネスというか、コミュニティを作っている部分はあるかもしれませんね。

込山 一生懸命知恵を絞って、読者や日系社会に尽くすこと、また広告主が繁盛するための様々な提案することで、我々は成長できますし、仕事に誇りを持つことができます。そうやって、読者や広告主、日系社会との信用が積みあがっていく仕事は面白いですから。

アメリカで暮らす人、目指す人、成功を志す人のために

イゲット カリフォルニアやロサンゼルスは、ハワイに比べると人材の幅が広い印象です。良い人材に長く働いてもらうために特別なことをしていますか。

込山 特別なことはしていませんが、私や社長の植野は率先垂範を心がけています。有り難いことに、ライトハウスには25年選手もいますし、10年以上のメンバーも少なくありません。われわれの規模や業種の会社としては多い方だと思います。こちらに来ている人はキャリアやスキルをきちんと磨きたいという気持ちが強く、中途採用の人たちがこちらが持っていない知識や経験、前の会社のカルチャーなども含めていろんなものを持ち寄ってくれるので、ダイバーシティが生まれています。そんな私たちの背骨というか拠りどころが社是です。

イゲット 社是、ですか?

込山 すべての判断基準、依って立つ考え方のベースです。「アメリカに暮らす人、目指す人、アメリカでの成功を志す人と企業の灯台となる」ことが自分たちの存在意義だと考えています。この考えに則って、2000年からは日本の大学や専門学校に研修を提供する事業も行っています。50近い大学や専門学校の単位プログラムとして、ロサンゼルスやシリコンバレー、アジアで海外研修を実施しています。

イゲット 具体的にはどんなことをするのですか?

込山 研修の構成は学校によって違いますが、世界で働いている人たち、言わばロールモデルに触れる機会を提供するプログラムです。私自身が経験したように若い時に、世界のいろいろな分野で活躍する日本人と交わり、憧れや高い目標を持つことが、若者には必要だと考えています。人は純粋で高い志を持てばどこまでも成長しますから。

イゲット 私も4月から子どもにビジネスを教える塾を日本で展開していて、働くことの仕組みを教えることも含めて、高学年ぐらいの子供たちに簡単なプログラムから始めています。あとは、ニートや不登校の子供たちに勉強以外に夢中になれるものが見つけて、それをビジネスにする知恵も教えています。

込山 素晴らしいですね。自ら進化と変化をしていかないと、変化し続ける社会で生き残っていけません。今ある多くの仕事もなくなるということを、子どもたちには教えなければいけないと思います。その中で、最低限のITの知識や語学のスキルに加え、コミュニケーションスキルも求められます。

 あとは当たり前のことですが、他人を思いやるとか、一生懸命努力すること、フェアであることなど、子供の頃に大人たちに教わった中に大切なことが含まれています。

イゲット 問題解決能力が重要と思いますが、日本の教育は1つの解答に向かって進むところがあるので、ほかの答えが出てくると対応できなかったりします。お母さん世代が1つの答えしか出せないと子供たちもそうなってしまうので、まずは親世代の意識を変えたいというのもあります。

込山 答えを見つけるのが上手に越したことはないけど、今は社会構造、言わばゲームのルール自体が常に変化するので、設問を自分で考え、さらに問題解決も自分でできる人でないとだめだと思います。

日系アメリカ人の競合優位性とは

込山PHOTO4イゲット 経営の傍らビジネス・ブレークスルー大学(BBT)大学院でMBAも取られたそうですが、経営上で何か解決したい課題があったのでしょうか。

込山 もちろんありました。世の中の平均寿命が延びていて、自分自身も少なくとも80歳くらいまでは社会としっかり繋がっていきたいと思ったんです。50歳で社会人としての折り返し地点を迎え残り30年。それまでの知識と経験だけで戦っていけるはずはないし、もっと広いステージで戦えるようにするためはMBAで揉まれるのが一番だと考えました。 

 大学院に通う2年間は会食も趣味も旅行も諦めました。とくに私は飲み込みが遅いので、1年目は2千時間ぐらい勉強しました。BBTは実践的で、例えば、学長の大前研一さんの授業では、毎週1つの企業の経営者になった前提でレポートを提出します。自分が経営者ならどう舵取りをするか、オンラインで徹底的に議論して、最後に自分の考えをまとめます。みんな意識の高いビジネスマンなので、生半可な結論を出すと集中砲火を浴びて炎上します。そこには年齢も肩書きも関係ありませんから。BBTの仲間は一生の財産でお互いがブレインです。

イゲット 経営者になると、批判や反論をしてくれる人がなかなかいないので貴重な経験ですね。

込山 それまで縁のなかった企業や業界、時には国王や地方自治体の首長など、さまざまなお題が出され、それぞれ自分なりの仮説、検証を行い、議論を通して結論を導くプロセスを繰り返すことでとても鍛えられました。

イゲット 長期的な視点から、今後の展開についてどう考えていますか。

込山 今後メディアがどうなっていくか想像もつきません。大事なことは変化にきちんと適応することではないでしょうか。世の中が変わっても、人の困りごとというのは必ず発生するし、解決が求められるので、アメリカに暮らす日本人に対して、「情報」と「教育」の面から貢献できる組織であり続けたいと思っています。これからももっともっと学び続けて一生涯挑戦し続けます。イゲット千恵子×込山洋一(前編)

ChiekoEggedDSC_3145

 

(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

イゲット千恵子氏の記事一覧はこちら

 

 

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る