文化・ライフ

坪田一男(つぼた・かずお)慶応義塾大学医学部教授。1955年東京都生まれ。慶応義塾大学医学部卒業後、日米の医師免許取得。米ハーバード大学にて角膜フェローシップ修了。角膜移植、ドライアイ、屈折矯正手術における世界的権威。再生角膜移植のほか、近視・乱視・遠視・老眼などの最先端の治療に取り組む。近年は研究領域を抗加齢医学=アンチエイジング医学に広げ精力的に活動。日本抗加齢医学会理事、日本再生医療学会理事など。著書に『老けるな!』(幻冬舎)、『長寿遺伝子を鍛える』(新潮社)、『ごきげんな人は10年長生きできる ポジティブ心理学入門』(文春新書)ほか多数。

 

「幸せと健康」の第一人者が、ついに日本にやってきた!

 僕は若い頃からずっと「ごきげんに生きる!」を人生の信条としてきた。そして、自ら「ごきげんだから長生きする」という仮説を立てて研究もしてきた。お陰で、昔は「医者のくせに、非科学的だ」というご意見も頂戴したものだが、今や「幸せな人は長生きする=Happy People Live Longer」というのは、科学的に認められた事実だ。

 昨年には日本ポジティブサイコロジー医学会も設立され、「前向きで幸せな心の状態が、人々の心や健康にどのような影響を与えるか」という議論や研究、日本におけるポジティブサイコロジーの分野を医療面から牽引していこうという動きも、ますます活発化しつつある。

 そんな中、僕にはどうしても会いたい人がいた。ユニバーシティ・カレッジ・オブ・ロンドンのアンドリュー・ステプトー教授だ。

 ステプトー教授は、「幸せと健康」に関する疫学研究の第一人者で、幸せな人は病気になりにくい、長生きしやすいといった興味深い調査報告を次々と発表しておられる。そこで、ぜひ直接お目にかかってお話を伺いたいと思っていたのだが、去る10月18日、ついにその願いが実現した。福島で行われた日本ポジティブサイコロジー医学会の第2回学術集会にお招きし、招待講演をしていただくことができたのだ。

 その中でも非常に興味深かったのが、英国で行われている大規模高齢者パネル調査「ELSA(English Longitudinal Study of Ageing)」の研究報告だ。

 世界的に高齢化が進む中、米国・英国・欧州・韓国などの先進国では、高齢者の生活実態や社会保障制度が果たす役割を包括的に実証するデータづくりのため、大規模な高齢者パネル調査を実施し、実際の政策の企画立案に非常に大きな影響を与えている。

 その英国バージョンがELSAだ。これは50歳以上の約1万2千人を対象とする大規模かつ長期的に調査するもので、2002年から2年おきに郵送と面接による調査を実施。既に6回の調査が行われている。

 対象者に対する質問内容は、健康・認知状態、生活態度、嗜好、就業、住居、純資産、年金などなど非常に幅広く詳細なもので、04年からは面接に看護師も同行し、血液を採取して血糖値やコレステロール、DNA検査まで行っている。ステプトー教授はその結果を分析研究したというわけだ。

幸せな人は、ストレスに過剰反応しない!?

 ステプトー教授によれば、02年時点で「幸せだ」、「人生を楽しんでいる」と答えた人と、そうでない人たちが約8年後の死亡危険率(HR)を比較すると、なんと1:0・45。

 もともと健康だったから死亡危険率が低かったのではないか、経済状況が良いとか、喫煙していないから健康維持できたのではないかなど、「幸せ」以外のあらゆる因子をすべて取り除いた結果でも、死亡危険率は1:0・78。つまり、幸せなほうが20%以上も死亡危険率が低いことが分かったのだ。

 頑張って食事や運動に気を付けても、病気のリスクを20%減らすのは大変なことだ。幸せだ、人生は楽しいと感じるだけでこれだけ差がつくというのは、本当に衝撃的だ。

 また、ステプトー教授は、なぜ幸せだと病気になりにくいのかを探るため、他の研究で、ストレスを感じたときに分泌されるコルチゾールの値を測定し、健康や長生きとの関係を分析している。その結果、幸せだ、人生は楽しいと感じている人は、コルチゾールのレベルが低いことも分かっている。

 コルチゾールの値が慢性的に高いと、高血圧や高血糖のリスクが高くなることはよく知られている。つまり、幸福な人はストレスに対する反応がゆるやかだからこそ、病気になりにくい可能性が見えてきたのだ。

 これがもし大昔なら、ストレスに対する反応がゆるやかな人ほど、トラなどの猛獣に襲われたときに逃げ遅れて死んでしまう可能性が高くなる。だが、トラもいない、戦争もない環境で暮らしている僕たちにとっては、むしろストレスのほうが大きな脅威だ。やはり、健康長寿のためには幸せな気持ちで生きていたほうが有利と言えるだろう。

 こうした研究はまだ始まったばかりだが、今も世界各国で興味深い研究が行われている。毎年秋に行われる日本ポジティブサイコロジー医学会の学術集会は一般の方々も聴講できので、興味のある方はぜひおいでください!

★今月のテイクホームメッセージ★

 幸せと健康のサイエンスを知って、もっと健康で長生きしよう!

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る