文化・ライフ

ドライアイ根治の可能性が見えてきた!

 現在、日本におけるドライアイ患者は800万人以上。予備軍も含めると2200万人に達するといわれている。僕自身、学生の頃からドライアイに悩まされてきた1人だ。

 当時はまだドライアイという言葉すらあまり知られていなかったが、今ではほとんどの人がその名を知っている。原因やメカニズムを探る研究も、治療法も昔に比べれば目覚ましく進化している。お陰で、ドライアイになっても適切なケアをすることでかなり快適な生活を送れるようになってきたが、現状としては、あくまでも人工類液の点眼といった対症療法が中心だ。

 そこで、何とかして根治治療の道を拓きたいと考え、研究を続けてきたのだが、このたびわが慶応義塾大学医学部眼科教室では、東京理科大学・総合研究機構の辻孝教授、株式会社オーガンテクノロジーズとの共同研究により、マウスによる実験で機能的な涙腺の再生に世界に先駆けて成功。10月1日付で英オンライン科学誌『Nature Communications』に掲載されたので、ぜひご紹介したい。

 そもそも、再生医療は角膜移植の分野からスタートしていることをご存じだろうか? 実はこれも、当時僕が在籍していた東京歯科大学の研究チームによるものだ。

 けがや病気で角膜が傷ついて失明してしまった場合、視力を取り戻す唯一の方法は角膜移植だ。しかし、これにはある条件がある。角膜の一番外側の層である角膜上皮細胞の「幹細胞」が健在であるということだ。

 「幹細胞」というのは、特定の器官や組織の細胞を作るモトとなる特殊な細胞のことで、皮膚には皮膚幹細胞、肝臓には肝幹細胞、角膜上皮には角膜上皮幹細胞が存在する。

 例えば、目に薬品を浴びるような事故で角膜上皮の幹細胞まで失ってしまった場合、角膜上皮が再生されないので、角膜移植をしても角膜を健全に保てない。つまり、視力を取り戻すことができない。

 それなら、両眼のどこか一部にでも残っている角膜上皮の幹細胞を取り出して培養し、新しい上皮を作って移植すればいいじゃないか、というわけで行ったのが「角膜上皮の幹細胞移植」だ。これが後に「世界初の幹細胞移植に成功!」と世界中のメディアに取り上げられて大反響となったのだが、僕たちにしてみれば、目の前の患者さまを救いたい一心だった。今回の涙腺再生の成功も同じだ。

自分の細胞で壊れた涙腺を再生しドライアイを根治

 ドライアイとは、何らかの理由で涙腺の機能低下が起こり、涙の量が減少したり、涙の質が変化したりして、目の表面を覆っている涙のカーテンに異常が起きて目の表面の健康が損なわれた状態のことだ。

 その原因としては、長時間のパソコン作業や加齢などの環境的要因がよく知られているが、他にも、シェーグレン症候群やスティーブンス・ジョンソン症候群といった内科的要因もある。

 特に、スティーブンス・ジョンソン症候群の場合は、涙腺が完全に壊れてしまい、涙がつくれなくなる。そのため、透明な角膜や結膜組織が皮膚化して失明してしまうのだが、こうなると、もう角膜移植をしても治らない。涙腺が壊れているため、せっかく移植した角膜を透明に保てないからだ。

 そこで、涙腺を再生するために注目したのが、次世代の再生医療として期待されている「臓器置換再生医療」。ダメージを受けた臓器・器官を人為的につくった器官と置き換える方法だ。

 研究チームは2009年にはマウスを使った実験で、生体外で再生した歯のタネ(器官原基)を生体に移植し、天然の歯と同等に機能する歯の再生に成功。12年には機能的な毛包の再生が可能であることも実証している。

 そして13年、これらの技術を応用して涙腺の再生に成功。同時に、涙の油分を分泌するハーダー腺(人間でいえばマイボーム腺)の再生にも成功したというわけだ。正常な天然の涙腺・ハーダー腺と同等の質・量の涙をしっかり分泌して、目の表面を保護することも確認されている。

 より高度な視覚情報社会へ、超高齢社会へと突き進む中、ドライアイの根治的治療は、大きな課題のひとつだ。今回の研究成果は、iPS細胞による涙腺再生にもつながる大いなる一歩と言えるだろう。今後は臨床応用化へ向けて、さらに研究を推進していくので、今後の成果にぜひご注目を!

★今月のテイクホームメッセージ★

 再生医療は日進月歩で進んでいる。今後の展開にご注目を!

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成…

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年11月号
[特集]
大丈夫? 御社の危機管理

  • ・サイバーセキュリティ後進国日本の個人情報流出事件簿
  • ・「リアル」「バーチャル」双方で企業を守るセコムとアルソック
  • ・南海トラフ地震、首都直下型地震は、今そこにある危機
  • ・「いつ来るか分からない」では済まされない──中小企業の事業継続計画
  • ・黒部市に本社機能の一部を移転したBCPともう一つの狙い(YKKグループ)
  • ・高まる危機管理広報の重要性 平時の対応がカギを握る

[Special Interview]

 大谷裕明(YKK社長)

 「企業の姿勢や行動が危機対策以上の備えになる」

[NEWS REPORT]

◆胆振東部地震で分かった観光立国ニッポンの課題

◆M&Aでさらなる成長を期すルネサスの勢いは本物か

◆トヨタは2割増、スズキは撤退 中国自動車市場の明暗

◆このままでは2月に資金ショート 崖っぷち大塚家具「再生のシナリオ」

[特集2]

 利益を伸ばす健康経営

ページ上部へ戻る