国際

サウジアラビアが国連安保理を痛烈批判

 国連安全保障理事会は、拒否権を持つ5大国(米露英仏中)と地域別のバランス(アジア2、アフリカ3、中南米2、西欧2、東欧1)を考慮した拒否権を持たない10カ国の非常任理事国によって構成されている。

 非常任理事国は2年ごとに5カ国ずつ改選される。拒否権を持たない非常任理事国であっても安保理の会議で発言し、影響力を行使することが可能だ。従って、どの国も安保理非常任理事国になりたがるというのが国連の常識だ。しかし、国連の常識に反する事件が起きた。
 10月17日、国連総会は、非常任理事国5カ国の改選を行った。今回、任期満了を迎えたのはモロッコ(アフリカ)、トーゴ(アフリカ)、パキスタン(アジア)、グアテマラ(中南米)、アゼルバイジャン(東欧)だ。新たな非常任理事国にサウジアラビア(アジア)、チャド(アフリカ)、ナイジェリア(アフリカ)、チリ(中南米)、リトアニア(東欧)が選出された。サウジアラビア、チャド、リトアニアが安保理ポストを得たのは初めてのことだ。

 中東の地域大国であるサウジアラビアは、シリアの反体制派を支援してきた経緯があるので、安保理でシリア問題を積極的に取り上げると見られていた。

 しかし、翌18日、サウジアラビア外務省が、安保理非常任理事国のポストを辞退するとの声明を発表した。〈声明は、安保理について「行動の仕組みや二重基準の存在でその責務を果たせず、平和と安全保障の崩壊をもたらし続けている」などと批判。シリアのアサド政権に対して化学兵器使用を理由とした制裁を科せなかったことやパレスチナ問題が「反論できない証拠だ」と強調し、「安保理が改革されて機能するようになるまで理事国を受諾しない」と宣言した。〉(10月19日『朝日新聞デジタル』)

安保理非常任理事国のポストを辞退したサウジラビアの目論見とは

 このサウジアラビアの対応は、国際管理下でシリアの化学兵器を破棄しようという動きに水を差す。

 10月11日、ノルウエーのノーベル賞委員会は、2013年のノーベル平和賞を「OPCW(化学兵器禁止機関)」に授与すると発表した。1997年に発効した化学兵器禁止条約に基づいて同年OPCWは発足した。この条約は、サリンなど化学兵器の開発、使用を禁止し、現在保有する化学兵器については段階的に全廃することを定めている。本部はオランダの首都ハーグに置かれ、米国、ロシア、日本など国連加盟国のほとんど(現在190カ国)が加盟している。

 イスラエル、ミャンマー、南スーダン、アンゴラ、エジプト、北朝鮮がOPCWに加盟していない(ただしイスラエルとミャンマーは、化学兵器禁止条約には署名している)。化学兵器を保有する加盟国は、貯蔵場所、数などを申告しなければならず、OPCWは化学兵器関連施設の視察や、兵器の破壊などを行う。職員数約520人の比較的小規模な国際機関だ。

 外交、安全保障、軍事、インテリジェンスの専門家以外には、あまり知られていないOPCWが今回、ノーベル平和賞を受賞したのは、シリア情勢と関係している。

 8月21日、シリアの首都ダマスカス近郊でサリンが使用された。米政府は、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したと断定し、米軍による限定的なシリアに対する武力攻撃を宣言した。これに対してアサド政権は、サリンを使用したのは反政府軍であると主張。アサド政権の主張に同調するロシアが、米国に国際監視下でシリアの化学兵器を破棄することを提案し、それが実現した。

 これで米軍のシリアに対する軍事行動は、当面の間、回避されることになった。ノーベル賞委員会は、OPCWに平和賞を与えることによって「事態を軟着陸させ、シリアでの戦争を回避してくれ」というメッセージを送ったのである。

 サウジアラビアは、国際社会と軋轢を起こしても、シリアの反政府系武装集団を支援し続けていくために安保理非常任理事国のポストを辞退したのである。

 OPCWと国連のシリアにおける活動を頓挫させ、力によってアサド政権を打倒する機会をサウジアラビアはうかがっている。

 

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る