マネジメント

東証1部に上場する建売住宅開発・販売大手の三栄建築設計は「同じ家は、つくらない」という業界ではある意味で異質なポリシーを掲げている。その理念を形にする社員たちは、他の企業とは一線を画した育成方法の中で成長していた。

家が欲しい人たちのため建築棟数を2倍に

株式会社三栄建築設計 代表取締役社長 小池信三(こいけ・しんぞう)

創業から25周年を迎えた三栄建築設計は、昨年売上高1千億円を達成した。少子高齢化社会を迎えている日本は、ハウスメーカーに限らず多くの業種にとって将来を楽観視できない環境下にあるが、創業者である小池信三社長の表情にはかげりが全く見られない。

「弊社のポリシーは創業以来『同じ家は、つくらない』です。現代は、人が人生の中で家を何回か住み替えていく時代ではなく、1度購入した家を終の棲家とする時代になっています。人生に1度だけの大きな買い物なのに、ほかにあるような家をお客さまは望まれるでしょうか。私たちは『社会的芸術性と個人的生活空間プロデューサー』として、たとえ非効率であってもそこに住まう人を思い浮かべながら、デザイン性の高い『世界でたった一つだけの家』をつくり出しています」

同社のビジネスフィールドは、東京、大阪、名古屋といった大都市圏の中心部だ。人口減社会の現在も都市部への人口流入は止まらず、若い人が増え続けている。そして、同社のターゲットは最も家が必要な30代。自分の持ち物に対するこだわりが強い世代といえる彼らは、世界に一つしかない家の実現に魅力を感じるに違いない。しかも同社は、狭隘(きょうあい)な土地でも3階建ての家にすることで床面積を確保しながら、ワンランク上の部材を用いた家を4千万円台で提供している。同社への支持が増えているのも当然なのだ。

「私たちは現在、年間2千数百棟の家をお客さまにお届けしていますが、業界トップクラスの企業では年間3万棟を超えています。家を必要とする人たちのためにも、私たちがつくる個性的な家をもっと増やしていきたい。そのために、もっと努力し続けることが必要です」

自走できる社員が育つ「同じ人はつくらない」

小池社長の当面の目標は、年間の供給棟数を5千棟と現在の2倍規模にすることだという。パッケージ化された建売住宅と違って1点ものなので、つくる棟数を増やせばそれだけ社員の数も必要になってくる。

「弊社のビジネスモデルは他の企業にもないので、中途での人材採用が難しい。そこで新卒社員の育成が重要になります」

育成方法も独特だ。実務の習得には、共通するプログラムは存在しない。仕事がその都度変化するため、マニュアル化、パターン化することが難しいからだ。そんな同社の育成方針は「同じ人はつくらない」。社員の多様性を尊重し生かすことで、初めて「同じ家は、つくらない」というスローガンを実現することができるからだ。

「弊社には、人から教えられるのではなく能動的に学び自走できる社員が揃っています。違う家をつくり続けることは楽ではありませんが、自由な発想とチャレンジには苦労を超える喜びがある。社員たちはその環境の中で成長しています」

パターン化された育成はしないのが同社の方針だが、成長を促す仕掛けが仕事のプロセスに組み込まれていた。

それが「プロジェクトチーム」方式だ。「仕入れ」「設計」「施工管理」「営業」の担当者でプロジェクトごとにチームを組成して、メンバー全員でアイデアを出しながら、顧客の望む家を完成させる。業界でも類を見ないこの方式は、1人だととかく閉塞しがちなアイデアにブレークスルーをもたらすことができる。また、チーム内で互いに刺激を与え合い、より多くを学ぼうとする、自走できる力が自然と身に付いていくのだ。

また、1カ月に1度、プロジェクトチームの実績を評価する「メルディアデザインアワード」も設けられているが、これもチームごとの切磋琢磨を促すほかにはない優れた制度といえそうだ。

青少年や障がい者の育成を通じて社会全体を支える

三栄建築設計は、サッカーJ1チーム・湘南ベルマーレの筆頭株主でもあるが、出資した理由の一つが青少年の育成だという。

「スポーツが青少年の健全な人格形成に寄与するということに異を唱える人はいないでしょう。Jリーグが理念として掲げる『豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発展への寄与』を、湘南ベルマーレを介して実現していくことが大きな目的です」

小池社長の視野は、さらに広がっている。昨年、新たに設立した「一般財団法人メルディア」を通じて、家庭の経済環境や指導者の不在などの事情でサッカー等を続けることができない児童や青少年をサポートするとともに、障がい者や障がい者を支援する団体に対する助成、支援に取り組んでいる。

「国も無策ではありませんが、障がい者やその家族に対する支援はまだ不十分です。財団の活動を通じて彼らが暮らしやすい社会にするだけでなく、社会の中で輝けることを目標にしています」

小池社長は、日本の大企業はもっとこの分野にお金を使うべきだと考えている。

「賛同者を増やしていくことが必要ですが、その一方で弊社がより多くの出資を続けるためには、業績を伸ばさなければいけない。そのためにも、当社の家づくりを理解し、実現する人材を育成し、お客さまが喜ぶ『世界にたった一つの家』を1棟でも多くつくり続けていきます」

[会社概要]
設立/1993年9月
資本金/13億4,015万円
所在地/東京都新宿区
従業員数/610人
事業内容/戸建分譲事業、注文住宅・請負事業、賃貸収入事業
https://san-a.com/

 

【ビジネスモデル】関連記事一覧はこちら

【ハウスメーカー】関連記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る