政治・経済

2019年2月、大阪に3つの劇場ができる。民間13社とクールジャパン機構が取り組むこの劇場のメインターゲットは外国人観光客。これまでエンタメで訪日客をターゲットにする取り組みはほとんどなかった。果たして、官民挙げた大阪の取り組みはうまくいくのだろうか。文=古賀寛明

 

大阪のインバウンド増加に向け14の出資会社が見る夢

 

吉村洋文・大阪市長(中央)をはじめ、「COOL JAPAN PARK OSAKA」への期待は高い

 7月5日、大阪城にほど近いホテルニューオータニ大阪で、2019年2月にオープンする劇場の発表会が行われた。

 仕掛けるのは5つの在阪テレビ局にJTB、エイチ・アイ・エスといった旅行会社、上演コンテンツなどに関わるKADOKAWAや吉本興業など民間企業13社と官民ファンドのクールジャパン機構。この14社が準備会社を設立し、エンターテインメントを通じて、今後もさらなる増加が見込まれる訪日外国人客の需要を取り込もうと考えている。

 訪日客約3千万人のうち、1千万人を超える観光客が大阪を訪れる今、こうしたチャンスを見逃す手はないというのが設立の大きな理由のひとつになっている。

 この大阪城公園内に設けられる通称「COOL JAPAN PARK OSAKA(クールジャパンパーク大阪)」には、ミュージカルやコンサート、演劇などさまざまなジャンルに対応できる大ホール(1144席)と中ホール(702席)、そしてステージと客席が自由に設定でき、着席だと300人、スタンディングであれば400~500人を収容できる小ホールの合わせて 3つの劇場がつくられる。

 それぞれ大きい順から「WWホール」、「TTホール」、「SSホール」と名付けられており、名付け親は関西のみならず日本のお笑い界を代表する明石家さんまさん。ローマ字に合わせて、「WW」なら「笑って・笑って」、「わく・わく」などと、「SS」なら「すっごい・狭い」など、なんでもいい、とにかくお客さんそれぞれに自由な名前をつけてほしいと願い、こう命名したという。アルファベット2文字というのも外国人観光客にとって分かりやすい。

 また、大阪城公園内には既に大阪城ホールや野外音楽堂があり、もともと文化施設が集まっているが、さらに新たな3つの劇場ができることで相乗効果が見込まれる。そしてこの近辺の大阪ビジネスパーク、森ノ宮地域の街のイメージもこれまでのオフィス街や官庁街といったものからより文化的な印象の街に変わっていくのではないだろうか。

 来年2月のWWホールのこけら落としとなる演目は、外国人観光客を意識した「KEREN(けれん)」。奇抜さや、はったりといった外連から来たタイトルだが、中身は外国人が好む殺陣など日本の伝統文化を含んだパフォーマンスがふんだんに盛り込まれ、言葉や文化を理解しなくても誰もが分かるように言葉もストーリーもないものとなっている。

 ただ、これまで国やクールジャパン機構が主導した案件の評判が芳しくなく、ハンドリングもうまいとは言い難いだけに、本当に外国人観光客が来るのか、需要はマッチしているのか、こうした疑問を持つ人も少なくないはずだ。

 

大阪城天守閣の入場者が大阪市の人口とほぼ同じ

 

 こうした疑問に対し数字の面から見てみると、この場所のポテンシャルの高さが分かる。昨年、大阪城公園を訪れた人は1100万人といわれ、そのうち大阪城ホールには180万人が訪れている。

 このクールジャパンパーク大阪の目標人数が年間50万人という設定であるので演目さえ間違わなければ決して無謀な数字とはいえない。さらに、大阪城の天守閣に登った人の数は年間270万人もいる。

 現地にいけば分かるが、そのほとんどは外国人観光客。日本の城を見ながら異国にいるなんとも変な気持ちになる。さてこの270万人という数字、これは大阪市の人口に匹敵する。そう考えれば、この場所を訪れる観光客のほんの数%でも劇場に足を運んでもらえれば、目標人数は十分達成可能な数字と言えるのではないだろうか。

 また、日本の伝統文化を前面に出した演目にしても、日本人が考える以上に興味を持っている人は多い。日本各地に多くの外国人観光客が訪れるようになって既に数年がたつ。リピーターも増えたことで、ゴールデンルートの周遊やメジャーな観光地巡り、ショッピングだけではなくなっており、現在はトレッキングやイベントへの参加といった、いわゆる「コト消費」へと消費の傾向も移ってきている。

 その中でアニメや映画などの影響で、日本に来たのだから日本らしいことを体験したいとお姫さまやサムライ、忍者の格好をする人たちも多い。京都などでは着物で街を観光する外国人は珍しくもないし、伊賀や甲賀など忍者のふるさとを抱える三重県では、交通の便があまり良くない場所にある忍者屋敷にも多くの訪日客が訪れる。

 面白いのは国や人によって楽しみ方が違うところ。例えば、単純にコスプレとして楽しむ人もいれば、サムライの文化や忍者がいた背景などに興味を示す人もいる。道頓堀や心斎橋で中国の人がショッピングを楽しんでいるかたわら、南海電鉄のなんば駅には高野山や熊野古道を目指す欧州からの旅行者が多い。同じ大阪でも観光の目的は全く違う。

 このように既にインバウンド需要とひとくくりにはできなくなってきている。ただ、いずれにせよこうしたコト消費はインスタグラムなどのSNSに投稿されるケースも多く、拡散されてさらなる人気につながっている。

 

大阪のインバウンドに貢献する「ナイトエコノミー」

 

 そして、この劇場プロジェクトには、もうひとつのミッションが隠されていると言っていい。それは大阪だけに限らないが、観光立国日本としては出遅れている「ナイトエコノミー」、夜遊び需要を掘り起こすこと。

 17年の訪日旅行者数は2869万人で旅行消費額は4兆4162億円。これを政府は、20年に旅行者数を4千万人にまで増やし、消費額を8兆円まで上げる計画だ。その10年後の30年には、訪日客6千万人の消費額15兆円とさらなる目標の拡大を目指す。そのためにも場所を都心から地方へ広げていく必要もあるが、一方で時間軸も昼から夜へと広げていく必要がある。

 日本は夜の娯楽が少ないといわれて久しいがロンドンやニューヨークなどの欧米の都市は充実しており、夜の経済規模も大きい。それはニューヨークに行ったならばブロードウェーに行ってみたいと思い、欧州であればオペラやサッカーを見てみたいと思う心理が物語る。こうした本場でしか味わえないライブの醍醐味というのは確実に武器となる。もちろん日本にもそうしたポテンシャルはあるはずだ。例えば、1964年の東京五輪では歌舞伎公演が夜遅くに行われ大人気だったという。

 千葉市では今年8月にナイトエコノミーの実証実験を予定しており、この新たな市場に対する関心は全国規模で高まっている。もちろん、夜間の交通手段や騒音、治安といった問題は出てくるが、これも解決していかねばならないのは言うまでもない。そのためにも、欧米の都市には、「ナイトメイヤー」と呼ばれる夜の市長が存在しており、こうした夜の経済が抱える課題に取り組んで、昼間とは違うもうひとつの都市の魅力をだしている。

 クールジャパンパーク大阪では今のところ、夜遅くまで公演を行う予定はないが、近いうちに考えていかざるを得ないのは間違いない。ロンドンではコメディアンのナイトメイヤーが誕生している。今回、吉本興業が出資企業に名を連ねるだけに、吉本の芸人さんがナイトメイヤーに就任となれば、盛り上がるのは間違いない。

 会見で、吉村洋文大・阪市長も「大阪は歴史と文化を大事にしながら面白い街でなければならない」と述べている。「面白さ」をどうつくっていくか、どう内外に伝えていくかが求められている。そういった意味で、今回の劇場誕生がナイトエコノミー誕生のきかっけになる可能性は高い。

 訪日観光客にとっても、日本のライブエンターテインメントはまだまだ未開拓な分野だ。観光庁が発表した消費動向調査(16年)によれば、滞在中の行動の第1位が「日本食を食べること」(96.1%)になっており、続いて「ショッピング」(83.4%)、「繁華街の街歩き」(73.3%)と続く。肝心の舞台鑑賞は14位でわずか4.2%にすぎない。ただ、次回したい行動として13.2%の支持を集めている。言葉の壁を超えられれば、さらなる需要も見えてくる。

 人口減少下のこの国で新たな産業となった観光産業。そこにライブエンターテインメントを掛け合わせればビジネスチャンスはまだまだあるはずだ。

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