文化・ライフ

9連覇を果たして更新する川上哲治監督(1973年)/写真:時事

打撃の神様・川上哲治のチームマネジメント

 「勝つチーム」をつくったプロ野球の監督は何人、いや何十人といるが、「勝ち続けるチーム」をつくった監督は、さる10月28日、老衰のため逝去した川上哲治さんだけである。

 巨人での現役時代は「打撃の神様」と呼ばれ、日本プロ野球で初めての通算2千本安打(2351安打)を記録。巨人の監督に就任してからは9連覇を含む11度の日本一を達成した。

 川上さんといえば、まず頭に浮かぶのが東西冷戦のシンボルだった「鉄のカーテン」をもじった「哲のカーテン」である。チームの情報流出を避けるため、球界始まって以来の情報統制を敷いた。

 何事に対しても、一切、妥協を許さない姿勢は、時に「冷徹」に映ったが、その実「合理」の人でもあった。

 あまり知られていないが、球界に初めて賞金制度を導入したのが川上さんである。早い話が〝ニンジン作戦〟だ。

 以下は、24年前、川上さんから直接、聞いた話。

 「球団には1シーズンで80勝すると仮定して、1試合に4万円ずつ使わせてほしいと頼んだんです。例えば、1対0で勝ったとしましょう。まずピッチャーに、1万5千円くらい渡さにゃいかん。リードしたキャッチャーには、5千円くらい。1点を取った殊勲のバッターには、1万円。チャンスをつくった選手と、ファインプレーをした選手には、それぞれ5千円ずつ。それを翌日のミーティングの場で渡す。決して高いカネじゃないけど、選手は自分の働きを認めてもらったことがうれしいんです。〝よし、今日もいいプレーをしよう〟となる。これに時々、3万円ほど私のポケットマネーを加えました」

 インタビューは実務の話が中心で、野球監督というよりも中小企業のオーナー経営者のようだった。

 「バントに賞金をかけたのも私が最初でしょう」

 これも初めて耳にする話だった。

 「ランナーを送った者に対しては3千円、逆に失敗した者からは1千円の罰金をとった。同じ4打数1安打でも、ランナーを二塁に進めた場合と、そうでない場合とでは全然、内容が違う。それを点数制にして査定に反映させた。これも私がやり始めたことですよ」

打撃の神様・川上哲治の遊び心

 現場の評判も上々だった。「川上さんには遊び心があった」と振り返ったのはⅤ9巨人の遊撃手・黒江透修さんだ。

 「ああ見えて川上さんは、なかなかのアイデアマンでもありましたよ。恐らく、ベンチの中で選手と賭けをやった監督というのは、あの人くらいでしょう。私が当事者でしたから、よく覚えているんです」

 賭けの対象は黒江さんのヒット数だった。その内容は1試合に2本ヒットを打ったら黒江さんの勝ち、ノーヒットに終わったら黒江さんの負け(2打席以下、1安打の場合は引き分け)というもので、さらに3本ヒットを打った場合とホームランを打った場合は賭け金が2倍にはね上がる仕組みだった。

 ちなみに1試合の賭け金は3千円。当時の相場からすると、勝てば結構、いい小遣いになったはずだ。
「川上さんが、この賭けを始めた動機は、どうやら私の性格にあったようです。というのも、当時の私は、何か刺激があったほうがヒットを打つ率が高く、いわば川上さん流の〝選手操縦法〟のひとつだったわけですよ。

 そうであるとは知りつつも、私にはありがたい制度でした。この賭けが励みになって1試合に2本、3本とヒットを打つ試合が続きましたから。

 しかし、2打席凡退したら、即、交代。このあたりは徹底していました。今でいう成果主義でしょうが、結果の前には、誰もが公平だというのが川上さんの考えでした。だから、悔しくても、文句は言えなかった。逆に〝次こそ結果を出してやる〟と燃えたものですよ」

 信賞必罰に裏打ちされた公平な人材活用--これこそが「勝ち続ける」秘訣だった。

 しかし、口さがない評論家の中には、こう言って川上野球を批判する者もいた。

 「ON(王貞治と長嶋茂雄)がいれば、誰が監督でも9連覇できたよ」

 これに反駁したのが、当の王貞治さんである。

 「確かに、あの頃の巨人は強かった。川上さんが監督じゃなくても優勝はできたと思う。それでも、せいぜい3連覇までかな。川上さんじゃなければ9連覇はできなかったと思う」

 V9(1965年~73年)は、依然としてプロ野球の金字塔である。

 「僕のつくったチームを誰か超えてみろ!」

 泉下から、川上さんの声が聞こえる。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール事業プロデュー…

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る