政治・経済

建前でなく現実を直視して議論すべき問題

 橋下徹・大阪市長の慰安婦についての発言が非常に大きな問題になっています。発端となった橋下さんのぶら下がり取材の発言の全文がSYNODOS(http://synodos.jp/politics/3894)に出ています。それを全部読むと、「慰安婦はあって当たり前だ」とか「米軍はもっと風俗を活用しろ」というようなマスコミが取り上げたところが、橋下さんの本意ではないことが分かります。

 慰安婦に関しては、戦争中は異常時で、慰安婦が必要になることは、恐らく日本以外の国でも起こっていたことなんじゃないかと。戦争中に各国が同じようなことをいろんな形でやっていたにもかかわらず、日本だけが非難される状況であれば、それに対してはきちんと反論すべきだということを橋下さんは述べています。決して慰安婦を肯定するようなことは言っていません。

 また、米軍基地の司令官との会話で、風俗業をもっと活用して兵士の性的エネルギーをコントロールしたほうがいいのではないかと言ったことも大きく取り上げられています。橋下さんの発言主旨は、風俗は買春の場所ではなく、性的なサービスのことを前提にしています。実際にそういうサービスが日本だけでなく世界中にあることは事実で、橋下さんはそういう事実に基づいた話をしていますが、その発言を建前としては認めたくない人がたくさんいることが、これだけ大きな論争の原因になっています。

 建前として認めたくない人には2種類あって、ひとつはそもそもそういうものが存在していることを信じたくないという考え、臭い物には蓋をしておきたいという主義の人です。もうひとつは、そういうものがあることは知っているが、建前を語らなければいけない政治家があえて言うことはないだろうという人に分かれています。

 このあたりは非常に難しい部分で、こういう性の問題に関して現実的な解を見つけようと思った時には、現実を直視しなければいけません。建前論を貫いても、恐らく違う形で爆発します。やはり現実論で言わなければいけませんが、現実論を語ると人気が落ちるという非常に大きなジレンマがあります。

 しかし、これだけ情報が一般に知れわたっていて、例えば「デリヘル」と検索すればいろいろ情報が出てくる中で、今さら建前論をとおし続けるのは無理があるのではないかと思います。その背景にはITがあり、ネットで情報収集が自由にできるようになってしまったら、そういうサービスが存在することは簡単に調べがついてしまう。

 そういう意味では、本音と建前論の中で、橋下さんは風俗産業について大きな一石を投じたと思います。風俗はどこまでが合法なのかも含め、社会の中にどう位置付けていくかということは、どこかで必ず議論しなければいけない問題のはずです。

 今までのように建前論だけ言っていても通用しない時代になってきたことを象徴する事件だったと思います。

建前重視の米国に対して本音で言い過ぎた橋下氏

 もうひとつは、米軍相手の話が世界各国で報道されていますが、実は米国という国の特殊性が出ています。例えば欧州では、首相が破廉恥行為をしていたとか、在任中に不倫をしていたといったことは、あまり深刻なスキャンダルにならないケースがある。つまり人はそういうものだろうと思っていて、政治能力と性癖といった問題は実は切り離されています。日本もどちらかというとそういうところがあります。

 しかし米国は異なり、米国には「ポリティカリーコレクト(政治的に正しい)」という言葉があります。こういう性や風俗の話を一定の立場以上にある人が口にすること自体が、「ポリティカリーインコレクト(政治的に正しくない)」。実は日本よりも強い本音と建前が米国社会にはあります。たくさんの兵士の頂点に立っている米軍の司令官がポリティカリーインコレクトなことは言えないのです。それを根底に踏まえると、もっと風俗を活用したほうがいいんじゃないかと言われても、米国社会では本音で話ができません。そこを橋下さんは本音で言い過ぎたのかなと思います。つまり米国のカルチャーの違いを、われわれはもう少し理解しておかなければならないのです。

 すべての政治家および経済人も、これから注意しなければいけないと思います。経済的な交流や国際間の提携などがある中で、下ネタに対する許容度合いは米国と日本では明らかに違う。むしろ日本は欧州と近い。その辺りは認識しておかなければいけないということを今回勉強させてもらったのではないかと思います。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る