政治・経済

ソフトバンクの孫正義社長は携帯電話事業参入時に「10年以内にドコモを抜く」と宣言したが、今期はそれが現実のものとなる。今後は日本で王道の展開を進め、世界市場を積極的に攻めていく構えだ。しかし日本市場にも不安材料は残っている。 (本誌/村田晋一郎)

強者に上りつめたソフトバンク

孫正義・ソフトバンク社長

孫正義・ソフトバンク社長

 「ソフトバンク最後の危機は過ぎ去った」

 ソフトバンクの孫正義社長は、2013年度第3四半期の決算発表の場でこう語った。

 13年4〜12月の連結業績で、売上高、営業利益、純利益ともに過去最高を更新。すべての項目で、NTTドコモ、KDDIを上回った。昨年9月にNTTドコモが米アップルの新型iPhoneの販売を始めたことから、ソフトバンクへの影響が懸念され、最大の危機ととらえる向きもあった。しかし、結果的には杞憂に終わり、新製品「iPhone 5s/c」の販売シェアもソフトバンクが4割を獲得したという。年間純増数でもトップを獲得した。また、通期の見通しも、営業利益は1兆円以上を見込んでおり、通期でもNTTドコモの見通し8400億円を上回る。

 孫社長は、05年のボーダフォン買収時に、「10年以内にドコモを抜く」と宣言したが、今期はいよいよそれが現実となる。イー・モバイル、ウィルコム、米スプリントを加えた累計契約数は1億超となった。

 ソフトバンクが携帯電話事業に参入した当初は、規模が小さく、ネットワークも弱いというベーシックな部分で一番負けていた。このため、構造的に苦しい弱者の立場でのさまざまな戦略を打ってきた。

 これまでの躍進は、iPhoneという端末による差別化が大きかったが、3キャリアがすべてiPhoneを扱うようになった今後はネットワークの品質が鍵になる。孫社長は「ネットワークはこれまでソフトバンクの一番の弱みだったが、今や一番高速で安定的につながるようになった。一番の弱みが一番の強みになる」と自信を見せる。

 そして、1億人のユーザーを背景に規模の経済が、端末やネットワーク機器の購買力に効いてくる。こうした強者の戦略を取れることが、新しいソフトバンクのポジションだという。

 設備投資は最もコストの掛かる鉄塔の建設がほぼ終了し、13年度をピークに巡航速度に合理化できる状況。今後は一か八かの曲芸のような無理をするのではなく、オーソドックスに一歩一歩利益を伸ばしていく王道の戦略を進めていくという。

 逆に米国市場に対しては、スプリントの事業拡大に向けて、これまで日本市場で展開してきたような「弱者の戦略」を展開。ネットワークの整備を進めている。取りざたされているTモバイルの買収については明言を避けたが、米国市場は2強の寡占状態で、競争そのものは激しくないため、積極的に弱者の戦略で攻めていく余地があるとの認識。実際に13年度のスプリントの業績は早くも反転しており、今後への自信を見せた。

日本市場の展開にも課題は残る

 これから日本国内は強者の戦略、米国では弱者の戦略と使い分けていく構えだ。

 強者のマーケットリーダーの意気込みが伝わってくる施策として、LTE上で音声データをやりとりするVoLTEを見据えた新料金プランの導入を4月に予定している。スマートフォンの音声通話とパケット通信をパックにした定額サービスで、通話時間・回数およびパケット通信量に応じて、S/M/Lパックの3種類の料金プランを提供する。

 しかしこの新料金プランの前評判は決して高くない。まずVoLTEを見据えたものと謳っているものの、ソフトバンクのVoLTE導入時期はまだ決まっていない。孫社長は「近い将来に必ずやる」と宣言したが、サービス開始前に料金プランを先行させることへの違和感がある。

 また、同サービスでは、音声通話で定額となる利用時間を超過した場合に追加料金が掛かるが、通話料金が30秒につき30円と割高なため、実質的な値上げと見る向きも少なくない。KDDIの田中孝司社長はソフトバンクの新料金プランについて聞かれ、「あれ、高いよね」とコメントし、同様の割引サービスなどの対抗策を打ち出す考えはないとしている。

 こうした声に対して、孫社長は、音声通話とパケット通信のセット割引は世界の潮流であるとした上で、「この6年間でわれわれが打ち出してきた料金プランは最初にいろいろな批判を浴びたが、ほとんどを他社が後に追従している。VoLTEでも似たようなことになると予測する」とマーケットリーダーとして強気の姿勢を示した。

 さらに日本市場で強者の戦略を展開することに関して難題も残っている。ドコモを抜いたとしているが、ドコモはまだまだ巨人である。今後ドコモが弱者の戦略をとった時には、ドコモのポテンシャルが脅威となる。

 その1つが、NTT法の改正だ。NTTは民営化の際にNTT法が制定され、市場の独占につながる企業活動に制限が設けられている。このため、ソフトバンクやKDDIが固定通信サービスと携帯電話をセットにした割引サービスを提供しているのに対し、ドコモはNTTの固定化通信サービスとセットにした割引プランを提供できない。

 しかしドコモのシェアは03年の55・9%から13年には40・9%まで低下。こうした制限を一部緩和する動きがあり、総務省では法改正の検討を進めているという。法改正の手続きが必要となるため早期に提供を開始できるわけではないが、仮に実現すれば、NTTグループとして、NTT東西の光回線サービス「フレッツ光」などとドコモのスマートフォンのセット割引を導入することができる。

 こうした動きには孫社長も警戒を強めている。固定通信市場でのNTTの支配力がいまだ強いことに触れ、「光回線について市場を徹底解放してから、そのテーマを挙げるべき」とドコモの動きを牽制する姿勢を明らかにした。

 巨人ドコモとの対峙はソフトバンクにとって大きな課題であり続ける。

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