文化・ライフ

日本サッカー協会の小倉純二名誉会長(写真:時事)

日本サッカー協会の小倉純二名誉会長(写真:時事)

 日本サッカー協会の小倉純二名誉会長が旭日中綬章を受章した。

 さる10月25日、東京都内のホテルで「叙勲を祝う会」が催され、発起人の川淵三郎日本サッカー協会最高顧問が「彼はサッカー経験がなく、古河電工ではボール拾いをやっていた。そのボール拾いがサッカー協会会長となり、叙勲まで果たしたのだから、まるで現代の木下藤吉郎のようだ」と独特の言い回しで後輩を持ち上げた。

 川淵氏の指摘どおり、非プレーヤーの会長就任は第5代平井富三郎会長(元通産事務次官、新日鉄社長)以来23年ぶりだった。勇退後は名誉会長に就任し、今も陰に陽に協会を支えている。

 2002年8月、小倉氏は日本人3人目のFIFA(国際サッカー連盟)理事に就任した。9年間で培ったFIFA内の人脈が小倉氏の最大の財産であり、日本サッカー発展の礎となった。

 祝う会ではゼップ・ブラッターFIFA会長やミシェル・プラティニUEFA(欧州サッカー連盟)会長との親密な2ショット写真などが出席者に披露された。

 FIFAの中でも、最も大きな影響力を持つ理事会メンバーのポストを奪還することは日本サッカー協会にとって長年の目標だった。逆説的に言えば、このポストを手に入れない限り、アジアのリーダーとして、国際サッカーの舞台で日本の意思を反映させることは困難だった。

 だから、日韓W杯直後にFIFA理事に当選した際、小倉氏は次のようなメッセージを読み上げたのだ。

 「FIFA理事の厳しい選挙戦を僅差で制することができ、大変な喜びを感じています。

 今回の選挙における最大の勝因は、東アジアサッカー連盟の皆さんが献身的な努力で私を支持してくれたことです。さらには日本が2002年FIFAワールドカップを成功させた事実がアジアの誇りとして評価された結果だと思います。FIFAの理事のポストを確保することは、日本サッカー界の永年の目標であり、それを達成できたということが私の喜びです」

 実は、小倉氏の当選は日本サッカー界にとっては〝4度目の正直〟だった。1994年には村田忠男氏が副会長選で、97年には川淵氏、98年には小倉氏が理事選に相次いで敗れている。

 アジア随一の経済力を誇りながら、日本人理事が33年も誕生しなかった理由は、代表チームが振るわないことだけではなかった。

 FIFA理事はアジアからは、AFC(アジアサッカー連盟)内の選挙で選ばれる。当時、AFCに加盟していた国と地域は44。ところが東アジアは9カ国・地域しかなく、13カ国の西アジア、12カ国の東南アジアの候補者に敗れることが常だった。

 アジアの選挙を勝ち抜き、日本人がFIFA理事会でポストを得ることは至難の業だったのである。

 FIFA理事となった小倉氏は温厚な人柄とビジネスマン時代に培った交渉力で、めきめきと頭角を現した。

 印象的な仕事をひとつ紹介しよう。05年6月、日本代表が北朝鮮に勝ち、ドイツW杯出場を決めた時のことだ。

 ホーム&アウェーの原則からすれば、開催地はピョンヤンのはずだった。にもかかわらず試合は、なぜかタイのバンコクで行われた。

 実は、この2カ月前、北朝鮮当局はホームでのイラン戦で一部観客が起こした暴動を煽るという失態を犯していた。それを報じる現地の新聞を手に入れた小倉氏は、ブラッター会長に「ピョンヤンでの試合は危険だ」と進言して開催地が変更されたのだ。

 日本代表にとってアウェー戦を中立地のタイで戦うのと、異様な雰囲気の北朝鮮で戦うのとでは天と地ほどの差がある。結果、日本は2対0で北朝鮮を破り、W杯3大回連続出場を決めた。

 もし小倉氏とブラッター会長の間に太いパイプがなければ、「第三国開催、無観客試合」という日本にとって願ってもない展開には持ち込めなかっただろう。FIFA理事会内に人材を送り込んだ成果が、ここに現れたのである。

 「サッカーの戦いは、ピッチの中だけで行われているわけではない」

 これが小倉氏の持論だ。別の言い方をすれば、背広組の奮闘なくしてユニホーム組の輝きはないとも言える。

 現在、小倉氏は18年度の完成を目指す「新国立競技場」のワーキング・グループ座長(スポーツ関係利活用部門)として汗をかいている。

 当初、1300億円の予定だった建設費は3千億円に膨らむ見通し。これについて小倉氏は「いくら何でも高過ぎる。予算どおりに計画を進めていきたい」と語っていた。

 世界中のスタジアムに足を運んできた小倉氏の経験と見識を、ぜひ役立ててもらいたいものである。

(文中敬称略)

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る