政治・経済

円安を背景に業績が好転している武田薬品工業。しかし、急激な合理化や外国人マネジメント層の影響力拡大によるほころびも見え始めるなど、将来的な不安要素も浮かび上がってきた。 (ジャーナリスト/上島剣)

クリストフ・ウェバー 武田製薬工業次期社長

クリストフ・ウェバー 武田製薬工業次期社長(写真:時事)

社内に不協和音

 低迷していた武田薬品の収益が、上向いてきた。

 2011年のスイスのナイコメッド社買収、12年に訪れた主力の糖尿病治療薬「アクトス」に対する安価なコピー製品(ジェネリック)参入の影響などから、ここ数年、パッとしなかった同社の業績だが、2月に発表した14年3月期(13年度)第3四半期累計(4〜12月)の連結営業利益は1693億円。

 これは前年同期比12・4%の増加で、年度末まで3カ月を残して、今期通期の修正予想である1500億円を超えている。未消化の研究開発費が残っているためでもあるが、既に事前に掲げた目標は達成している状況だ。

 好調の理由のひとつは、もちろん円安だ。これがトップラインの売上高を底上げする原動力となっている。

 かつては無類の強さを誇った日本の医家向け医薬品ビジネスが、政府主導のジェネリックの浸透促進策に押されて陰りが見える一方、米国や新興国の売り上げは円安を背景に大きく伸びた。新製品の立ち上げも順調で、為替要因があったとはいえ、ベースとなる国外の医薬品事業は概ね順調のようだ。

 経費節減も、収益回復に大きく寄与した。これは昨年9月に武田薬品に入社した外国人CFOのフランソワ・ロジェ氏の手腕によるところが大きいようだ。同氏が主導した広告代理店などとの取引契約の見直しを中心に、13年度だけで、前年度比300億円以上の経費削減を達成した。

 ただ、現在の業績回復トレンドが、そのまま同社の長期安定成長の前触れなのかどうか、微かな懸念も残る。大胆なコストカットが、これまでの武田薬品では〝聖域〟と見なされてきた国内営業部門にも及び、社内で不協和音も聞こえるようになってきたからだ。

 武田薬品は今や、外資系企業と呼ばれたとしても社内から苦情が出ないほど、社員の外国人比率が上昇している。

 当たり前の話、ではある。ナイコメッドの買収に伴い、連結従業員数はそれまでの約1万8千人から、一気に3万人超へと急増し、必然的にマネジメント層も多国籍化せざるを得なくなってきたからだ。

 日本の製薬企業の中では最も早く国際化に乗り出した武田薬品だが、そんな同社も、ロシアや南米などを手広くカバーするナイコメッドを取り込んだことで大きな変貌を遂げ、その統制も日本人幹部の手に余るようになった。

 新薬メーカーの2大ポストは研究開発部門と販売マーケティング部門の責任者である。武田薬品においては、前者を日系米国人でゲイツ財団のヘルスケア部門を任された山田忠孝氏に、後者は独バイエルヘルスケア会長を務めたフランク・モリッヒ氏に委ねた。

 両氏はともに、武田薬品の社外有識者会議のメンバーを経て、同社の取締役を務める。現在11人いる執行役員クラスも、過半数が外国籍だ。

合理化がもたらす動揺

 武田薬品における最大の関心事は、4月に入社予定の新社長である。

 230年の歴史を誇る日本の老舗製薬企業の社長に、弱冠47歳のフランス人を抜擢するという驚きのトップ人事を同社が発表したのは、昨年11月末のことだ。

 新社長に内定したクリストフ・ウェバー氏は、英国の大手製薬企業グラクソ・スミスクラインでワクチン事業を担当する現職幹部だった。ライバルメーカーからの露骨な引き抜きに、「武田に若手の幹部候補はいないのか」などと騒がれた。

 だが、社長禅譲後も長谷川氏は最低1年間、代表権を持ったまま会長兼CEOに留まることを明言している。新興国市場での経歴を買われたウェバー氏は社長兼COOという肩書だが、当面は事実上の海外マーケティング責任者にすぎない。現社長の去就がハッキリしない状況では、同氏はむしろ、海外販売部門を率いるモリッヒ氏の後釜と考えたほうが無難だろう。

 当面の舵取りは、やはり長谷川氏が行っていくとの見方がもっぱらだ。というのも、折からのコスト削減計画をめぐり、武田薬品の枢要である国内営業部門の間に軋轢が生じつつあるためでもある。

 昨年11月、ウェバー氏の社長就任を発表した記者会見で、長谷川氏は国内営業部門のテコ入れを明言した。ロジェ氏に任せたコスト削減の荒療治を、聖域であったはずの国内営業にも施すということだ。これが社内に動揺を生んでいる。

 なにしろ、合併で力を増したアステラス製薬や第一三共などの競合他社よりも少ないセールス要員(MR)で、ずっと売上高首位を保ってきた花形部門である。彼らにはこれまで、会社の土台を支えてきたという自負がある。

 この4月からは、全MRがすべての製品の営業を手掛ける従来の体制を改め、外資流の疾患領域別プロモーションに移行する。確かに抗がん剤やうつ病の薬など、多様な新製品に効率的に対応するという意味では手っ取り早い方法ではあるのだが、古参のMRからは、「長い目で見た場合、若手のためにならないのではないか」といった声も出ているのだ。

 武田薬品は18年3月期までに、累計1千億円のコストを削るという経費節減策の真っ最中。合理化を追求する長谷川氏、そしてその意を汲んだ外国人マネジメントのやり方を、日本人社員が受け入れるのか、長期的な成長を見据えると、この辺りに同社が抱える不安の本質がありそうだ。

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