国際

ロシアメディアが報じなかったプーチン発言

プーチン・ロシア大統領(左)と握手をかわす安倍晋三首相(右)/写真:EPA=時事

プーチン・ロシア大統領(左)と握手をかわす安倍晋三首相(右)/写真:EPA=時事

 2月8日、ロシアのソチで行われた日露首脳会談を帝国主義的な勢力均衡外交の視座から見ると面白い。産経新聞モスクワ支局の遠藤良介記者の分析が鋭い。

 〈ソチ五輪開幕式に合わせた安倍晋三首相の訪露はロシアで好感されている。ただ、プーチン大統領は6日、ソチを訪れた各国首脳の中で最初に中国の習近平国家主席と会談しており、日中両国を天秤(てんびん)にかけて国益の最大化を図る姿勢が鮮明だ。北方領土問題では、露外務省が日本側の受け入れられない歴史認識を振りかざし、日本に「譲歩」を迫る構図となっている。プーチン政権は「愛国主義」による支持基盤強化に動いてもおり、領土交渉を大胆に動かせる状況にはない。

 中国国営新華社通信によると、プーチン氏は6日の中露首脳会談で「日本の軍国主義による中国などアジア被害国に対する重大な犯罪行為を忘れることはできない」と述べ、2015年に予定される戦勝70周年の記念行事を共同開催する考えを示した。ただ、露主要メディアはこの内容を報じておらず、日本を刺激することを避けたい政権の意向があったもようだ。〉(2月9日MSN産経ニュース)

 首脳会談の後、各国がジャーナリストに対してブリーフィング(説明)を行う。通常、自国首脳の発言を説明し、相手国首脳の発言については、必要最低限のことしか言わない。

 また、表に出さないことについては、会談終了直後に双方の事務方で合意する。プーチンの「日本の軍国主義による中国などアジア被害国に対する重大な犯罪行為を忘れることはできない」という発言について、中露は「表に出さない」という約束はしていない。

 ロシア側としては、中国がこの発言を出すことは織り込み済みだということだ。こういう形で日本に「中国との外交カードとしてロシアを使うことは、そう簡単でない」というシグナルを送っているのだ。

 興味深いのは、ロシアのマスメディアがこの内容を報じないことだ。確かにロシア政府は、日中対立に巻き込まれないように、細心の注意を払っている。しかし、ソ連時代と異なり、ロシア政府がマスメディアを全面的に統制することはできない。

日本ができるメディアを使った情報戦とは

 米国、英国、ドイツ、フランスなどの主要国が、ロシアで同性愛宣伝禁止法が施行されているなど人権問題に対する不満から、ソチ・オリンピックの開会式に首脳を派遣しなかった。そのような状況であるにもかかわらず、西側主要国である日本からは、リスクを負って安倍晋三首相が開会式に出席した。

 そのことをロシアのマスメディア関係者も心の底から歓迎しているので、反日感情を煽るような報道については「ニュース性がない」という判断をするのである。

 完全な独裁国家を除き、どの国でもマスメディアの論調が国民世論から極端に乖離することはない。新聞や雑誌は商業出版物なので、国民からそっぽを向かれるような内容だと、売れないからだ。テレビも視聴率が確保できなければ、広告が集まらない。

 ロシアの日本に対する国民感情が改善している状況を最大限に活用して、日本政府から情報戦を仕掛ける必要がある。

 その意味で、NHKの国際放送をもっと活用すべきと思う。「NHKでプロパガンダ(宣伝)を行うのか」という批判に関しては、「その通り。BBC(英国放送協会)国際放送、VOA(アメリカの声)など、民主国家を含め、国際放送の目的は自国の国益を増進するためのプロパガンダだ」と開き直ればよいと思う。

 ロシアの場合、国営ラジオ「ロシアの声」(旧モスクワ放送)が、プロパガンダを行っている。その手法はBBC国際放送に近い(そもそもロシアのインテリジェンス活動が英国の亜流である)。客観報道と解説を中心とする。

 ニュースの選択では、ロシアに不利になる内容をあえて入れて、聴取者を信用させる。解説はできるだけ中立を装うが、「ロシアの主張にも一理ある」という印象が残るようにする。そして、ウエブサイトでニュースや解説を読めるようにする。NHK国際放送を「ロシアの声」型に転換すると外交的な武器になる。

 

筆者の記事一覧はこちら

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る