マネジメント

浮き沈みの激しい外食業界で、安定的に売り上げを伸ばしているエー・ピーカンパニー。その秘訣は安易な価格競争などに走らず、しっかりとした従業員教育によって、組織の土台を固めているところにある。

時給以外の価値を提供するエー・ピーカンパニー米山久社長

「外食産業は特にそうですが、まず人の意識ありきでないと長続きしない。意識が高ければそれだけ売り上げに連動します」

 こう語るのは、居酒屋「塚田農場」、海鮮居酒屋「四十八漁場」などを運営するエー・ピーカンパニーの米山久社長。人材の流動が激しく、ともすれば人の〝使い捨て〟のイメージが強い外食産業において、従業員のモチベーションを徹底的に高めることで業績を伸ばしてきた。2013年3月期の連結売上高は前年比36・9%増の113億8千万円、経常利益は69・7%増の7億8400万円を達成。14年3月期の売上高は前年比38・6%増の157億8700万円、経常利益は同30・9%増の10億2700万円を見込む。

 躍進の原動力となっているのが、店舗オペレーションの中心を担うアルバイト従業員だ。アルバイトと言えども、同社では事業の目的と方向性に共感する人材しか採用しない方針を掲げている。時給以外の部分で、いかに従業員の満足度を高めていくかを重視しているという。

「アルバイトの平均勤続期間は大体1年半から2年ほどですが、その短い期間にいかに高い意識で仕事をしてもらえるかが顧客満足度につながっていきます」

 と、米山氏は言う。

 塚田農場ではグループ直営農場または契約農家から直接食材を仕入れ、中間流通コストを省くことで低価格・高品質な商品を提供するのが特徴。四十八漁場も同様に、全国の漁師と直結した流通モデルを採用している。背景には一次産業に参入することで、地方の活性化に貢献したいという米山氏の強い想いがある。従業員採用の入口は、まず、この理念にどれだけ共感してもらえるかがポイントだという。

 アルバイト採用後は実際に店舗に出るまで約10時間の研修を行い、その後も繰り返し研修を行うことで会社の理念を浸透させていく。研修では、例えば地方の養鶏場に体験実習に行った社員の様子を映像で視聴したり、実際に漁師が会社を訪れてその生の声を聴いたりすることによって、生産者の想いを共有していく。また、日々の業務においては、社内専用SNSを通じて、社員やアルバイト従業員と生産者がダイレクトに交流できる環境を用意。日々情報交換をすることで、モチベーション向上につなげている。

 さらに同社では、就職を控えたアルバイト学生のために、就活支援セミナーを開催。大学の就職課などでは得られない、就職活動にリアルに役立つ情報提供が学生に好評だ。

「こうした試みは、スタッフの満足度を上げるための1つの手段にすぎません。われわれの元でアルバイトすることが、単に時給を稼ぎに来るのとは違う1つのブランド価値になっているのです」

 と、米山氏は語る。

 いかに効率良く顧客を回転させるかよりも、1人の従業員が顧客に接する時間を長くし、満足度を高めることでリピート率を高める。それによって、売り上げを安定的に伸ばすというのが米山氏の考え方だ。

 これを実践するための武器が、従業員が自主的に考えだす「ジャブ」と呼ばれる顧客満足度を高めるための提案。ジワジワと効いてくるサービスという意味で名付けられたものだが、ほとんどがアルバイト従業員によって考え出されたものだ。その数は今では4千を超えている。会社の目的をしっかりと伝え、具体的な戦術については自由度を与えるという環境を用意することで、続々と提案が集まるようになったという。

エー・ピーカンパニー、米山久社長の戦略 効率より満足度を重視

 出店計画や実際の店舗オペレーションも、人材のレベルを考慮した上で決める。営業戦略ありきで、無理に人をかき集めるようなことはしない。新規出店に際して、従業員の能力が十分でないと判断すれば、規模を縮小してスタートすることもある。

 東京都内で言えば、新橋や八重洲といったオフィス街での出店が少ないのも、目先の売り上げより従業員の質を重視していることが理由だ。

「アルバイトを20人雇うとしても、100人面接してから絞り込んだほうが良い人材が集まりやすい。だから出店が多いのは池袋や新宿、渋谷など。あとは割と郊外が多いんです。われわれは人件費を同業他社よりも多く掛けていますが、その結果、顧客の絶対数が増えていき売り上げが上がる。新規出店直後はスロースターターですが、リピーターが増えることで売り上げが増えてくるのが特徴です」

 米山氏がこのように人材育成の重要性を認識するに至ったのは、年間売り上げが10億円程度、店舗数が10店舗を超えたあたりの頃だという。良いものを安く売れば儲かる、という気持ちで事業を進めてきたが、規模が拡大するにつれ、マネジメントコントロールが効かなくなってきたことを実感。生販直結モデルで生産現場の人たちを巻き込んだことで、責任感が一層強まった。

 安定的に業績を伸ばしていくための答えは、営業戦略や戦術を考えることでは出てこなかった。結局は、生産者の想いを体現すること、それを繰り返し伝えることで、従業員の間に共感が広がっていった。従業員の意識が高まることで定着率も向上、それが業績にも反映した。

 幹部の育成についても、基本的には目的と理念を共有し、あとは自由にやらせる方向性は変わらない。部長クラスの社員は、1年のうち2割程度の期間は特に用事がなくても自由に地方を訪れ、生産者と触れ合ったり現場のマネジメントにかかわったりしているという。米山氏が事業立ち上げ当初に行っていたのと同じ経験をしてもらうことで、同様の成功事例をさまざまな地域で作るのが目的だ。自身の後継者育成についても

「今までやってこなかった領域に挑戦させて、リスクを取って成功体験を積んでもらいたい」

 との考えを述べた。

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