マネジメント

世界で活躍できる人材の輩出に取り組むグロービス経営大学院。グループ代表の堀義人氏が1992年に開講して以来、ビジネスリーダーの登竜門として着実に評価を高めてきた。これからのグローバル人材に必要な要素とは何か。授業ではどんなことが重視されているのか。グローバル部門の責任者で講師としても活躍する、経営研究科研究科長の中村知哉氏に聞いた。

英語力より重要な「場」を取る力

 ーー グローバル人材の定義とは何ですか。

 中村 基本的にグローバル人材とは、国内のリーダーにグローバルの要素が加わったものだと考えています。リーダーに必要な要素は、ビジネスフレームワーク、コンセプチュアルスキル、ヒューマンスキルの3つ。ビジネスフレームワークとは経営の常識である経営戦略、マーケティング、財務などの知識です。コンセプチュアルスキルとは、何が問題でどんな解決策があるのかといった概念を抽出する力。そして、ヒューマンスキルとは、物事を実行する時に人を巻き込んで動かしていく力。これらは国内でも海外でも必要な要素です。これらに加えて、グローバルリーダーには英語力、世界的な視野、そして異文化コミュニケーション能力が求められます。

 ーー 英語力の指標はTOEICなどですか。

 中村 海外でビジネスをする上では、英語ができるに越したことはないのは間違いありません。でも、一番難しいのは存在感を出すこと、「場」を取るということがすごく大事なんです。自分の番が来たら、少なくとも相手に主張を最後まで聞いてもらうことが重要です。例えば外国人と話すときは、米国人や英国人とラテン系の方々では、相手の発言が終わってから自分が発言するまでの「間」が異なったりします。そうしたことに対する理解が大切です。

 ーー 「場」を取るコツのようなものはあるのでしょうか。

 中村 クラスの場合ですと、流れを読み、今何を言えば学習環境にとってプラスになるかを考えることです。その上で、生徒の出身業界や業務内容によって考えることが違うので、自分にしか言えないことを言うことです。それは、ビジネスの場でも同じだと思います。

 ーー 昔と今ではグローバル人材に必要な要素は変わってきているのでしょうか。

 中村 日本企業のグローバル化の度合いが変わるにつれ、求められることも変わってきています。1980年代は日本で生産して輸出するのが中心でしたが、生産拠点を海外に移すケースが増え、今では海外での企業買収や事業売却などにもかかわるようになっています。同じ仕事でも必要な能力の度合いが変わってきています。80年代なら米国とか欧州だけを視野に入れていればよかったのですが、今はインド、中国、場合によってはアフリカまで視座を広げなければなりません。

 ーー カリキュラムで重視している点について。

 中村 われわれの授業は、基本的にケースメソッドが中心となります。実際にビジネス上で起きた話を元に、もし自分が主人公だったらどうするかということを学生に問うていきます。生徒に役割を演じてもらったり、実際の主人公に来ていただいて話をしてもらったりして、できるだけリアルに学生が情景を思い浮かべて感情移入できるようにしています。ある意味疑似体験ですが、脳科学の研究によるとそこに感情が入ると実際の体験にほぼ近い感覚が得られといわれています。ケースメソッドで何十回、何百回と練習することによって、実際のビジネスシーンでもかなり余裕を持って臨めるようになります。

 ーー 30代や40代のある程度経験を積んだ生徒にもそうした疑似体験は新鮮なのでしょうか。

 中村 はい。主人公に感情移入できれば、普段の職責より広い視座からものが見えるようになります。あとは、やはり志が大事。私はサラリーマンだから会社のために収益を上げたいと言っても誰もついてきません。例えば、海外で現地の小売業界に貢献したいとか、日本と現地の間で技術移転を行いたいといった理由なら協力者が増えていきます。授業を通じて、一人ひとりが何をしたいのか突き詰めることが大切なのです。

 

MBA教育を学びやすいものに

 ーー 授業は英語で行われているのですか。

 中村 現在、日本語で行われるプログラムは平日夜間と週末に東京、大阪、名古屋、仙台、福岡で行われています。英語は平日夜間と週末、それと平日日中のプログラムの2つが東京で行われています。両方合わせて約1200人が在学しています。

 ーー 生徒に出す課題はやはり多いのでしょうか。

 中村 そうですね。多くの生徒が通勤時間に勉強したり、10分程度の隙間時間に予習したりしています。

 ーー 成績の評価法はどうなっているのですか。

 中村 基本的には相対評価で、他の大学に比べると厳しいほうだと思います。講師の一方的なレクチャーではなく、生徒が発言することに重きを置いているので、これが評価の半分ぐらいの比率を占めます。これからのリーダーは紙に答えを書けるだけでなく、話して人を動かすことが必要ですから。

 ーー クラスによって学生のレベルのばらつきはどの程度なのでしょうか。

 中村 クラスによってレベルのばらつきは多少ありますが、グロービスは開校当初から、学生満足度を特に重視してきました。MBAを取ることもできますし、試しに1科目だけ取ってみることもできるようになっています。MBA教育を学びやすいものにしたことは、代表の堀の功績の1つです。例えばマーケティングの授業だけを受けたい生徒がいて、受けた授業が面白くなければ受講料を無条件で返金しています。クラスの品質に自信があり、不満足な生徒を作らないという考えがあるからできることです。

 ーー 企業研修ではどのようなことを行っているのですか。

 中村 企業研修のクライアント数は日本最大級で、一部上場の3分の1程度の会社と取引があります。多くの場合、業界一番手企業のグローバル人材育成に携わっていて、30代の方々から幹部クラスまで幅広く対応しています。対象によって、研修の内容も当然変わります。例えば、課長層にはスキルのトレーニングを中心に行いますが、役員層には会社の基本的理念を浸透させたり、会社が選ぶ戦略の意味付けを考えさせたりといったテーマで授業を行うことが多くなります。新規事業や事業買収など、受講者の所属企業が抱える課題を取り扱うこともあります。

 ーー 自費で大学院に来る生徒と比べて企業研修の場合はモチベーションが低い人もいると思いますが。

 中村 本人が希望して参加する場合もありますが、業務命令で参加している方をいかに本気にさせるかがわれわれにとってのチャレンジになります。一般的にシニア層はスタート時は研修に入っていきにくいものですが、逆にこの層が本気になった時は非常に良い研修になります。本気になってもらうために、講師が自らの体験を胸襟を開いて話したりすることで、そういう空気をつくれるように努力しています。

 

アジアで一番のビジネススクールに

 ーー 卒業生はやはり経営者になる方が多いのでしょうか。

 中村 2011年に卒業後5年の方を対象に調査をしたことがありますが、経営層になった方の比率は入学前が全体の7・6%だったのに比べ、卒業後は22・1%になりました。かなりの方々が卒業後5年以内に経営者になっています。この中には所属していた会社で昇進した方もいるし、自ら創業した方もいます。グロービスは開校して21年になりますが、例えば某1部上場会社では、ほとんどの役員がグロービスで受講経験があるといったケースもあります。われわれとしても、日本企業のマネジメント力向上に貢献しているという自負はあります。

 ーー 今後の課題は。

 中村 グロービスではアジアで一番のビジネススクールになって、社会の創造と変革を担う志士を育てるという目標を掲げています。今や上海や香港、シンガポールに海外拠点を作り、企業研修を行っています。外国人の生徒も昨年は11カ国から23人、今年は15カ国から28人に増えるなど、非常にグローバルになってきました。

 さらに、グループにはビジネススクールのほか、グロービス・キャピタル・パートナーズというベンチャーキャピタル持っていて、グリー、オイシックス、ライフネット生命保険などの企業に投資してきました。教壇にベンチャーキャピタリストが立つこともあり、実際の投資経験が授業で生かされます。多くの場合、投資先のベンチャーに取締役を派遣しているので、それでわれわれも経営の勉強をし、クラスにフィードバックできるようになっています。こうした特徴をどんどん強化していくつもりです。

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