政治・経済

 ジョンソンエンドジョンソンからカルビーの会長、そしてライザップへと華麗に転身する松本晃氏のように、優秀な経営者は退任後も引く手あまた。社会変化の激しい中、経営のかじ取りは難しさを増しており、極めて重要な判断、決断を求められるエグゼクティブ人材は年齢に関係なく求められている。大手人材会社でもそれぞれ、専門の会社や部門を立ち上げ、雇用や業務委託といったさまざまな形で、高度な経験や専門性の高い技術を持った人材をうまく活用するビジネスに力を入れている。(『経済界』編集部)

 

エグゼクティブのセカンドキャリア―見直される「顧問」の役割

 

 ひと昔前、顧問のイメージというのはあまり芳しくなかった。天下りや社長や会長の友人の元偉い人が週に一度ほどやってきて新聞を読み、お茶を飲んで帰っていく、何の役に立っているのか、そんな社内の声も聞かれるような顧問も珍しくなかったのではないだろうか。

 ところが今、企業の課題解決を顧問が担うビジネスが人気だという。パーソルキャリアが始めた「i‐common」がそれだ。統括部長で事業責任者の鏑木陽二朗氏によれば、サービスの開始は2011年。少子高齢化が進み、ミドル以上の支援サービスの必要性を感じたことと、鏑木氏の実家が中小企業の経営を行っていたことで、厳しい環境下での経営を余儀なくされる中小企業のために必要な時に必要な期間だけ、雇用とは違う形式で専門家を活用してもらおうと始めた。

 現在の登録者は1万500人弱。いずれも大手企業出身の元役員や本部長クラスのスペシャリストで、特定分野に深い知識やネットワークを持っている。

 基本的にはクライアントの経営課題をパーソルキャリアが受託し、その後、顧問に再委託する形が多い。支援内容もそれぞれで、最近多いのが基幹事業の売り上げやマーケットシェアが先細りしていく中で代わりとなる新規事業の立ち上げ。

 自社が既に持っている経験やリソースをベースに、顧問がこれまで培ってきた違う業界の知見を組み合わせて、新しい領域の事業を作っていこうという動きだ。そのほかにも、経営計画や事業計画の立案から営業戦略、IPO、海外進出まで、企業から顧問を介して解決したい課題は多岐にわたる。

 

エグゼクティブのセカンドキャリアで重要なのは、何を「やったか」より何が「できるか」

 

 i‐commonを立ち上げて7年がたち、クライアントも当初の中小企業の需要は堅実にあるものの、大手企業も同様の課題を抱えていることから、現在は大企業と中小企業からの依頼が半々といったところ。

 また、中小企業の場合、地方からの需要も多い。その中で深刻な問題が事業承継。ある調査によれば、廃業の増加で最悪、25年までの10年間で約650万人の雇用と、約22兆円のGDPが失われる可能性があるという。こうした中小企業の経営者、あるいは次の後継者への橋渡しを行う中継ぎ人材を求める声も大きい。

 こうした旺盛な需要はあるが、当然ながら人によってお声が掛かる頻度は違うようで、どういった人に人気が集中するのか鏑木氏に聞くと、

 「部長でした、社長でしたではなく、これまでどういったことを行ってきて、再現性のある経験がどれくらいあるのかといった、実務のレベルの経験が重要になっています。また、最後にはその人のパーソナリティというか、人柄が問われていますね」という答え。能力がなくては始まらないが結局は人というのが興味深い。

 今後、定年後のキャリアを考えていく上でも、現場から経営層に上がることで実務経験が薄れてしまうことを懸念したほうがいい。もし、副業が認められているのであれば、少しだけ時間を割いて、その先のために実務経験がさび付かないようにするのも手ではないだろうか。

 実際、i‐commonに所属する顧問の中にも、まだ数は少ないながら籍を置いている企業から認めてもらい、副業として登録している人もいるそうだ。経験や専門性をシェアするような働き方は、高齢者に限らず今後も増えていくはずで、いずれ、40歳になったら次のキャリアを念頭に置いて行動することが当たり前の世の中になるのではないだろうか。

 

エグゼクティブのセカンドキャリアとして社外取締役の需要も急増

 

 コーポレートガバナンス・コードの導入以降、上場企業では社外取締役への関心が高まっている。当然、人材会社にはそうした依頼が持ちこまれており、銀座に本社を構えるリクルートエグゼクティブエージェントにもその問い合わせは多いという。

 執行役員の松下直樹氏によれば、「直近5年を考えれば社外取締役、社外監査役のご依頼が増えています。一昨年から昨年にかけては2倍、今年はさらに増えています。さらに、取締役会にどれくらい出席されるかなども株主総会でよく質問されますから、候補の方が何社兼任しているのか、何社くらい兼任できるものなのか、ということもよく聞かれます」

 求められる社外取締役の人物像についても、一昨年までは弁護士や大学教授、公認会計士といった先生方が中心だったが、直近では、「その企業が目指している事業規模の経営経験がある方に取締役会に入ってもらい、その事業規模の視野で意思決定や物事の進め方の意見を賜りたい」(松下氏)といった要望が多いという。

 ただ、上場企業から依頼されることが多いので、上場企業よりも事業規模が大きくなると候補者が限られてしまうというのも問題になりつつあるようだ。

 これほど話題の社外取締役だけに、自ら売り込みに来る人もいるのかと尋ねたところ、意外というかやはりというか多いようだ。松下氏によれば、「人材紹介事業ですから全件受理しますが、企業が求めている経験をお持ちでない方からも、社外取締役をやりたいという要望が多くあり、そこはなかなか難しいのが現状です。専門性があれば領域を絞って別の選択肢を紹介できるのですが、こだわっていらっしゃると、どこも紹介できないという場合もあります」。

 つまり、やりたいこととできることにギャップがあり、過去の看板を背負ったまま来ると痛い目に遭うということだ。ただ、こうした人材でも視点を変えることができれば活躍の場も生まれる。ベンチャー企業や地方の企業がそう。

 例えば地方銀行から地場企業の経営者を探していると依頼されることも多く、なかでも事業承継の相談が多い。40代にとって地方への転身は、ビジネスマン人生を考えて逡巡するが、50代も半ばを過ぎて、子育てもひと段落しているケースであれば、最後の御奉公と地方でのポジションを受ける方も多いという。

 松下氏は言う、「まだ、外部採用自体が一般的ではありませんが、この先景気に関係なく人材の流動性は高まっていきます。低く見積もってもこの市場は3倍以上の規模になると思います。それは米国市場の規模から考えてもそうですし、日本でも、つい2年前まで35歳転職限界説が常識でした。しかし、今や経験ある人材が求められています。年齢が語られなくなる日も近いのではないでしょうか」。

 

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